忘れる人と暮らす : かき菜とベーコンの炒め物
最近少し疲れています。
忘れん坊将軍である母の症状は、毎日一緒にいる私にはその変化が見えにくいものです。
でも、ふと過去のことを思い出した瞬間に、
「ああ、2年前はそんなこともできていたか」と、時間と共に確実に進んでいることを実感します。
最近は、本当に直前のことを忘れてしまい、そして、忘れてしまったことすら忘れてしまうような日々です。
たとえば、最近通うようになったデイサービス。
日帰りなので小さな鞄を持って行くだけです。
それでも、母の中ではデイサービスとショートステイがごっちゃになってしまっているので、デイサービスから帰ると必ず「大きな鞄を忘れてきちゃった!」と言い出します。
「今日は日帰りだから、大きな鞄は持って行ってないのよ」と答えると、
「あら、そうなの?」と、いささかいぶかし気な顔をしながらも納得します。
その数分後、また「大きな鞄を忘れてきちゃった!」
「今日は日帰りだから、大きな鞄は持って行ってないのよ」
「あら、そうなの?」
これが何回となく繰り返された後、次は「私、今日まで入院していたの?」と新しい質問が始まり、それは、ご想像通り何度となく繰り返されます。
そして、最近その頻度は加速度的に高まっています。
これが日常ですから、数回は平常心でやり過ごすことができます。
でも、これが日常、つまり毎日起きることだからこそ、限度を超えるとイライラします。
本当にイライラします。
母には見えないように顔をしかめ、こぶしを握り締めて、声だけには出さないように同じ答えを私も繰り返します。
イライラすることは本当に疲れます。
でもそれ以上に、イライラしてしまう自分に対する失望が私を更に疲れさせます。
母は病気だ。
それがわかっているのに、優しくなれない自分に失望してまたイライラする。
イライラの上塗りです。
多分、介護を知る前の私が同じことを誰かに言われたとしたら
「それはイライラして当たり前だよ。自分を責めることはないよ」
と答えていたでしょう。
それが間違いだとは思わないけれど、実際に介護を経験している今は、イライラする気持ちがよくわかる。よくわかるだけに、軽々に「自分を責めるな」などとは言えないような気がします。
忘れる人と暮らすというのは、そんなに単純なことではないのです。
憎しみ、罪悪感、悲しみ、自己嫌悪、全てを混ぜ合わせて片栗粉でどろどろにしたようなもの。
気休めにしかならないことは分かっていても、このイライラを静めるために
今日の一品は『かき菜とベーコンの炒め物』です。
かき菜を含む菜花類にはカルシウムが含まれています。
カルシウムが不足するとイライラしがちになるというのは皆さんもご存じだと思います。
微量のかき菜を食べたところで私やあなたのイライラが収まるものではないかもしれませんが、病は気から。
ン?イライラは病じゃない?
気持ちは気から? いや、そりゃそうだろ。
まあ、とりあえず美味しいですかき菜。
『かき菜とベーコンの炒め物』
- 洗って水気を切ったかき菜を3センチほどに切ります。
- ベーコンは1センチの短冊切りに、にんにくは薄切りにします。
- フライパンに油を引き、火をつける前ににんくにを加えます。
- 油が温まったらベーコンを加え、油がなじむ程度に炒めたら
かき菜を加えて炒めます。
固い茎の部分から先に加えていきましょう。 - 顆粒の鶏ガラスープの素を大さじ2程の水で溶き、4に加えます。
これは、軽く蒸し炒めにしてかき菜の固い茎部分に火を通すためです。
あくまでも炒め物なので、あまり水分を多くしないように気を付けてください。
茎部分がさほど固くない場合は加えなくてもいいかもしれません。
その場合は、塩を多めにして味を調整してください。 - 味を見て、足りないと感じたら塩を加えましょう。
- 火を止める直前に黒コショウを振って出来上がりです。
イライラするのは私の年齢のせいもあるかもしれません。
母の病のせいではないのだと思います。
ただ、全ては自分のせいだと受け止めるには大きすぎて、
相手のせいだと責めるには酷すぎるものを一体どう手懐けたらいいのか、簡単に答えは出ませんね。
というわけで、「介護するということ」をもう少し考えてみようと、
今週の木曜日から期間限定で新しい連載が始まります。
題して『介護の言葉』。
月亭つまみさんと私がオバフォーから探し出した介護に関する言葉について対談をします。
また、7月には実際に読者の方とお会いして介護をする人の現状について話し合うイベントを開催
します。
イベントの詳細については、後日改めてお知らせしますので、どうぞお楽しみに。
ミカスでした。
kokomo
ミカスさん、お疲れ様です。
3年前に亡くなった祖母に対する冷酷ともいえる母
(祖母の介護はしていませんでした)の態度を見て
肉親だからこその悲しみや憎悪を理解する自分と、
母の冷淡さを軽蔑して嫌悪する気持ちと、母を介護するときには
同じような態度をとってしまうんじゃないかという自分に
対する恐怖とが渦巻いてざわざわしていました。
介護に身を置いていない私がミカスさんにかける
言葉も見つからないのですが、近い将来の介護当事者として
木曜日からの連載を基に色々考えてみたいと思います。
かき菜、私の住んでいる隣県の名産で
近所のスーパーにもありますが、全国的にはどうなのでしょう?
ここに来る前は「かき菜」を知らず、八百屋さんに
「『かき菜』って『牡蠣菜』ですか?」って
聞いた覚えがあります。「掻き菜」なんですよね。
そろそろかき菜の旬も終わり。
今日スーパーでもし見つけたら、名残惜しさとともに
「かき菜とベーコンの炒め物」を作ってみたいと思います。
はしーば
ミカスさん、こんにちは。
まさしく、そのとおり!
私なんぞは、片栗粉どころか小麦粉、水分少な目、ダマだらけです。
イライラは、更年期と重なると増長する気もします。我慢も良くない、とは言いますがね〜。
私の奥の手は、「抑肝散」という漢方です。
7月のイベント、お会いできるといいなぁ・・
ミカス Post author
kokomoさん
ありがとうございます。
肉親だからこそ、ですよね。
もし、お母さまを介護する時にkokomoさんが憎しみを抱いてしまっても、冷たくしてしまったとしても、それは仕方のないことです。
ただ、その感情がエスカレートしてしまわないよう、エスカレートする前に吐き出す術を用意しておきましょう。
そうだ、もしそんなことがこの先あったら、私に吐き出してください。
かき菜、そろそろ終わりですね。
ぜひ名残を楽しんでください。
ミカス Post author
はしーばさん
ダマになった小麦粉状態ですか⁈
大丈夫⁈
私も、母の物忘れ外来の先生から抑肝散を処方されたことがあります。
どうしてもイライラしがちなお年頃。
上手に乗り越えたいものです。
7月、ぜひいらしてください!
ほっこり
こんにちは、ミカスさん
介護には直面していませんが、だからこそミカスさんの生の声が響きます。
なんでも直面しないと本当の姿は見えないものですね。
7月、ミカスさんのお話聞けると嬉しいです。
ミカス Post author
ほっこりさん
何事においても、実際に経験して初めてわかることってありますよね。
私も、自分で介護をするようになって、それまで自分がいかにきれいごとを言っていたのかを思い知りました。
でも、体験してないんだからわからない、と諦めないで、知ろうとする気持ちを持つだけでも大きく変わると思います。
7月、ぜひいらしてください。
介護する人の気持ちを覗いてみませんか。