本を手渡す
10月になると、学校も読書の秋、というわけで、働いている図書館には、近隣の小学校から、学級文庫の本を選んでほしい、ブックトークに来てほしい、おはなし会をやってほしい、とさまざまな依頼が舞い込む。
この時期は、毎日だれかしら学校に出かけていて不在、という、児童図書館員にとっては一年でいちばんいそがしい季節である。
(そういえば、夏休みもさまざまな事業でよほど忙しいと思っていたが、のどもとをすぎたら忘れた。)
私は、この職場で児童担当になってたった2年の新米だが、今年はブックトークをメインでやることになった。ブックトークというのは、一つのテーマを決めて、それに沿って選んだ本たちを紹介することだ。読み聞かせとちがって、聞いている相手がその本を思わず読みたくなってしまうように、その面白さを紹介する、というところが、キモである。路上の物売りのようなものだと思ったら、少し当たっているかもしれない。
今年わたしが担当するのは、4年生。
ブックトークのプログラムを考える時に、必要なのはテーマ決めと、本選びである。これはどちらが先、というのはないのだが、私のばあいは、どちらかといえば本ありきで選んだ。最初に、4年生に向けて紹介したいな、と思う本を挙げていって、それらの本の内容から、共通するテーマを探る。そして、あ、これで作れそうだな、と思えたら、その本を核にして、テーマに合った他の本を肉付けしていく、といった感じ。
なんといっても主役は本なので、あたりまえだが何の本を選ぶかが大切だ。一番大事は、自分がその本が好きなこと。
そして、読み物、科学や知識の本、絵本と、バランスよく選んでいく。テーマと合うといっても、似たような本一辺倒にならないように気を付けたい、紹介する順番にも、橋渡しとなる関連付けが欲しい、、、、などと考えていると、あーでもないこーでもない、と、いつまでも頭を悩ますことになる。
今回は、10月ということもあって、『ちいさい魔女』、そして魔女→黒猫つながりで『黒猫ジェニーのおはなし』、このふたつはすんなり決まって、テーマは「ちいさくてもすごい!」にすることにした。
そのあと、『石ころ地球のかけら』で科学の本。ここまでは順調に思えたのだが、そのあとがまよった。
もういっこくらい、科学の本をいれたい。『水草の森』?『ちいさなちいさな』?これはどちらもプランクトンや微生物の科学絵本。はたまたきのこか変形菌?それとも、『チリメンモンスター』でクイズにする?
あまりふだん本を読まない子にも、なにかひとつは興味を持ってもらいたい。
そして、読み物をもうひとつ。できれば日本の著者で、男の子が主人公のもの。
それとも、『黒猫ジェニー〜』を、『たったひとりの戦い』(ヴォージュラード作)にさしかえる?そうすると、雰囲気はガラッと変わってシリアスに…。
とさんざん迷って、最終的に決めたのがこれ。
*『ちいさい魔女』(オトフリート=プロイスラー作 学研)
*『黒猫ジェニーのおはなし』(エスター・アベリル作 福音館書店)
*『石ころ地球のかけら』(桂雄三文 平野恵理子絵 福音館書店)
*『ちいさなちいさな めにみえないびせいぶつのせかい』(ニコラ・デイビス文 エミリー・サットン絵)
*『ちびっこカムのぼうけん』(神沢利子作 理論社)
*『イギリスとアイルランドの昔話』より「ちいちゃいちいちゃい」(石井桃子編訳 福音館書店)
5、6年生が対象だったら、『シャーロットのおくりもの』や『マチルダは小さな大天才』、『大あばれ!山賊小太郎』なんかに変えてもいい。科学の本は、『世界を動かした塩の物語』とかもいいなあ。
こうして本が決まったら、シナリオを作り始める。私は初心者だし、緊張やなので、わりとセリフも言い回しもきちんと作り込んでおく。
どの場面を読むか、物語のどこまでを紹介するか、毎回「さて、これからどうなるでしょうか?」じゃあ、だんだんがっかりしてくるもの。
そして、他の人にも聞いてもらって、どんどんわかりやすく変えていく。自分はよーく知ってる本を、はじめて触れる人にわかるように、かつ面白く言葉で伝えるのは、なかなか想像力のいる楽しい作業だ。今回は、科学の本2冊は、一緒に行く我が師匠(同僚)が担当してくれることになった。
そして、紹介できなかった本や、テーマに沿って合わせて選んだ本、40冊くらいも、箱に詰めて貸し出す。なにかひとつでも、おもしろいのが見つかるといい。
私たちがこうして学校にでかけていくのは、一年にそうないことなので、ブックトークは子どもたちにとって、なかなかスペシャルなイベントだ。
そんなわけで、私たちがブックトークをやるときは、こんなふうにかなりきっちり作り込むし、練習もしっかりやる。
でも、日常的に図書室にいて、散発的にブックトークや本の紹介を頼まれることの多い学校司書だったら(つまみさんみたいな人)、もっとフレキシブルで、その場でぱっと選んで紹介する、といったような瞬発力が必要なことだろう。
わたしは、あーでもないこーでもないタイプなので、毎回、ああ、やっぱりあれにすればよかった、とか、くよくよしそうだなあ。
当日は、1時間目から3時間目まで、3クラスを順番に回った。皆びっくりするくらい楽しそうに聞いてくれて、読み物に興味を示すクラス、科学の本で盛り上がるクラス、と、それぞれ違って面白い。
見た目が地味な『ちいさな魔女』や『ちびっこカム〜』だが、紹介の後に「おれこの本ぜったい読も」などという声が聞こえたりもして、しめしめなのである。
最後には、『イギリスとアイルランドの昔話』という本から、「ちいちゃいちいちゃい」という、ちょっとこわいおはなしを読んだ。
くりかえしでこわさをもりあげて、さいご、ワッと大きな声でびっくりさせて突然終わる、ジャンピングストーリーという種類のお話なのだが、最初2つのクラスでは、読んでいくうちに、「え…ちょっと…こわいはなしなわけ…」とそわそわしはじめ、くり返し毎に「ええー…やめてよーーー…」って感じになり、最後の場面でほんとにぴょん!って飛び上がる!という狙い通りの反応が見られて、私は勝利の喜びを味わった。しかし、3つめのクラスでは、先生の介入が多く、ややクラスが落ち着かなくて、そこそこの出来だったので、まだまだ修行が必要である。
先生が、一緒になって聞いてくれるか、チャンスとばかりに別の仕事をしていたりするか、ということにも、クラスの雰囲気は大いに左右されてしまうのだなあ。
最初の2クラスは、先生は後ろに控えていて、一緒に聞いてくれていた。最後のクラスだけ、先生は前の机に座っていて、一冊紹介するごとに、「この本に興味持った人!」などと子どもたちに聞いたりするのだった。そのくせ、最後のお話の時には、よりによって何か書き物をしていて、そのちいさな動きがなんとなくクラスに伝わってしまった。
と思わず愚痴を言ったが、ようは自分の力量がおよばないということだった。
こんなふうに、やったことへの反応がすぐさま、こんなにも強烈なかたちで返ってくる仕事というのも、そうないなあ、と思う。
もちろん、図書館の中で日常的にやるおはなし会などもそうなのだが、クラス約30人分の、かたまりのエネルギーはほんとうにすごい。
学校司書のひとたちって、毎日こういうことに触れているのか。
本を手渡すよろこび。
いい反応が返ってきたときの多幸感は、くせになりそうな気もするが、なんだかコントロールしたい病みたいになりそうで、ちょっと怖い。
ほんとうは、森の奥に芽生えたひこばえみたいに、目に見えなくてもいいのかもしれない。
By はらぷ
追伸:
9/20〜30まで開催した、祖父の作品展「祖父の人形のこと」(西荻窪 もりのこと)、多くの方に見ていただいて、無事終了しました。
このサイトを見て…と来てくださった方々にもたくさんお会いすることができて、ほんとうに嬉しかったです。
週末、店番をさせてもらったのですが、作品を見ているみなさんの様子や、発するコメントを聞いているだけで、にやにやしてしまうくらい、しあわせな時間でした。
そして、会期終了後には、天才爽子さんから、なんとこんな絵手紙が!!
実家の祖父の部屋に、しばらく飾っておこうと思います。
この、表情と、足の質感よ!
展示に合わせて作成した『祖父の創作ノート』は、引き続きもりのことさんで販売していただいています。
(通信販売可)
もりのことonline shop →※
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
爽子
はらぷさん、こんばんは!
読書の秋ですね。
プロフェッショナルな仕事の流儀を読ませて頂き、なんかすごい!とおもいました。
はらぷさんやつまみさんのブックトークが聞ける小学生が羨ましいわたしも、50年若返って、子供達と一緒に聞いてみたいです。
子供の頃、そんな風に図書館の先生にお話し聞いたことがあったのかしら。
なかった気がする。
孫たちがおおきくなったら、聞かせてあげたいわ。
是非本を読むのが好きになってほしいです。
^_^^_^^_^と、読み進めてるうちに。
ぎゃあああ、なんか見たことある絵が。お恥ずかしい。
おじいちゃんのお部屋に飾ってくださってるなんて、とってもとっても嬉しい。ありがとうこざいます。
YUKKE
こんな熱心で素敵な選書をしてくれる司書さんがいて、子どもたちは幸せね〜。
わたしも大人になって、魔女が出て来て、魔女のお祭りでいつまでもちびっこでという話なんだけど、題名がわからなくてと、図書館の司書さんに聞いたら即座にこの本を出してくれたこと思い出しました。
赤木かん子どもたさんみたいな本の探偵さんだと思ったわ。
うちの若さまにもいつかこういう選書でブックトークしてほしいと願うばあばです。
はらぷ Post author
天才爽子さん!こんばんは。
うふふ、載せちゃった!
忙しさが一段落して、時間ができたら、合う額を探しにいきたいな、と思ってます。
「すごいねえ、たいしたもんだ」と祖父ならきっと言うだろうなー。
ブックトークって、子どもの頃にはありませんでしたよね。
そもそも、学校図書館の先生というのがいなかったです。
私はまだまだ新米なのですが、一緒に行った同僚(我が師匠)はさすが、子どもたちを引き込むのもうまくて、みんな面白いくらい前のめりで聞いていました。
ふだん自分からはなかなか本に手が伸びない子も、ブックトークで紹介されると、読みたくなるんですよね。
わたしもつまみさんのブックトークは聞いてみたい!
絶対読んで、つまみ先生に感想言いにいこ!って思う気がするなー。
はらぷ Post author
YUKKEさん、こんばんは!
コメントありがとうございます!
わー、YUKKEさん、そんな司書体験を…!
全国にかん子あり(笑)
その司書の人、YUKKEさんの中に「ちいさい魔女」がずっといたんだーって思って、嬉しかったでしょうね。
昔読んで好きだった本、年齢別のおすすめの本、こんど読み聞かせにいくんだけどどんなのがいいの?、うちの子アリが好きなんだけど……もっともっと何でも聞いてもらえたらいいのにな、と思います。
一度でもがっかりされちゃったら、もう聞いてくれないかもしれないので、毎回勝負だ(笑)
ブックトークは、時間をかければそれなりにいいものができるのですが、日々子どもたちに接する中で、あるものの中から「これ!」って選んで紹介できる、っていうふうにもっとなれればいいなーと思っているところです。