〈晴れ 時々 やさぐれ日記〉「ああ デパート。情熱と冷静のあいだ (その二)」
――― 先週に引き続き、「ああデパート」。 半年に一回の帰省で、半年に一回の集中デパート探訪。半年分の栄養補給に8時間が必要十分な時間、というところからの続きです。―――
今回の帰省では2日に分けておおよそ4時間ずつ。ローカルすぎるはなしで恐縮だが、初日は名古屋駅周辺で翌日は栄周辺。万歩計の持参を失念したが、わたしは山口の日常では考えられない距離を歩いた。初日は、デパートウォーキング健康法の母とともに、主にハイファッション分野を攻略。攻略といっても「ジャストルッキング」、もしくは老母の威光を借る荷物持ちに過ぎない。でもまあ、半年間「禁デパート」生活を送る身にはよいリハビリテーションだ。
きらびやかな照明。吹き抜ける大空間。「今」の空気、「今」の欲求。そんなものをザワザワと感じる。半年間焦がれていた感覚は「これ」なのだ。ほら、あの方の横顔が素敵!ああ、この青年も、いい顔してる!とりどりのファッション、とりどりの顔を乗せ、上昇と下降、近接と離反を繰り返すエスカレーター。名古屋人御用達のMデパートの宣伝コピーはたしか、「生活と文化を結ぶ○○屋」であった。
2日目はぐっと「生活」目線。単独行動のため、ウォーキングの距離とタイムは前日をはるかに上回る。水分補給も糖質補給もなし。もちろんバナナだって口にしない。デパートに連れ出すことが絶望的な主人の身の回りのもの、サイズ変化が著しい息子のもの、予め用意した「買い物リスト」に従って店内を歩き回る。既に両方の実家で数日を過ごしているので、その中で感じた「これがあるといいんじゃない」というものも合わせて物色する。物色にことかりて、「鑑賞」にもついつい熱が入る。うわ~これが有元葉子さん愛用のお急須ですか~。
それにしても。このデパート集中探訪で毎回思うのは、帰省シーズンというのはセールと並行して商品展開の移行期で、ある意味デパートの中の「残念シーズン」だということだ。あれ、違うかな。
1月と8月。「買い求める」ことより、断然「観る」「触れる」ことに重きを置くわたしに限っては、セール最中もしくはセール後のこの時期のデパートは、季節の草木が頗る少ない「植え替え時期の花園」なのだ。
デパートの「顔」とも言うべきメインのウインドーディスプレイも、「ホントはまだ寒い(暑い)のにごめんなさいね」と所在無げである。デパート全体が、活気があると言えばあるのだが、反面、何かわさわさして落ち着かない。半年に一回の「セール」を上手に利用される方も多かろうが、そこはやはり普段からの「傾向と対策」があったればこそ、とわたしなどは思う。全体を見渡して、「今のムード」を吸い込むのに精一杯な浦島太郎に、赤い文字のプライス付きで「ほら。これ。」と「今」を山盛り盛られてもこちらは食傷するばかり。むしろ手足をひっこめて「亀」になるしかない。ころん。
夏の猛暑の中、「新着でございます」「お袖のお丈つめは一週間ほどで承れます」と秋物のコートの試着を勧められる。ごめんなさい。わたし、亀なの。お直しのいるアイテムは、風と共に去る客には目の毒なの。そもそもわたしのお財布が、こういう「先取り」を全く想定してないの。「こちらの食器は、明後日また新しいシリーズのものが入って参ります」。ありがとう。でも、ごめんなさい。わたしはいないので。明後日ここに。
「春の海」がBGMに流れるお正月の初売りのごったがえしの中で、目当てに向かって直進するフットワークは、もはやわたしからは失われている。「あの。ちょっと。え」。セールのための特設に限らず、最近のデパートはフロアやショップの入れ替えも頻繁なため、地方からの「時間制限つき」「おのぼり」のわたしをやさぐれさせる。「あのお店、なくなってる…」。
それでも、わたしはデパートへ向かう。想像力をかきたてる 魅力的なもの、そして ひと、さらにはショートストーリーに、かなりの確率で出会えるデパートは、町の中のもうひとつの美術館であり、映画館であり、頭と脚を使うスポーツジムなのだ。
今回印象に残っているのは、お馬のマークのH社(← 音が出ます。ご注意ください)のショップでのこと。まず、この会社のルーツである馬具のコーナーのショーケースに、わたしは面白いものを見つけて母を呼んだ。ガラスのケースの中で、馬術用の鞭やワックスと並んで平置きにされたそれは、本体は茶色のかぎ針編みレース、その上部左右に長さ10センチほどの布帛でできた三角の袋状のものが縫い付けられている。あら、もしかしたらこれはあれかしら。お店のスタッフは、丁寧に説明してくれる。「こちらは馬用のキャップでございます」。
そういうやりとりの横で、80代と思しきおじいさまが、ハンガーに掛けられたカシミアのセーターを見ていらっしゃった。今はもう珍しい、古き良き昭和の紳士 と言ったらいいのだろうか。体格はたいへん小柄。羽の付いた中折れ帽、べっ甲の眼鏡。風合いと仕立ての素晴らしく良い、柔らかくて軽そうなハーフコート。そこへスペインL社のショルダーを斜めがけされているのは、お年を考慮すれば軽快でいて安全、かつちょっとチャーミング。ステッチの効いた革手袋にイントレチャートの茶色のステッキ。なんとも温かそう。そして穏やかに豊か。
手にされたセーターのお値段をスタッフの方に尋ねられ、「ま、ばあさんと相談しなきゃならんな。ありがとう。」と、片手を挙げてゆっくりとにこやかにお店をあとにされた後ろ姿を、わたしはしばらく眺めてしまった。
どういう人生を歩んでこられたのだろう。
どういう時間を重ねてこられたのだろう。
わたしが母とこういう時間を過ごせるのもいつまでだろう。
さまざまな人々が、さまざまな家族が、とりどりに集う愛しのデパートよ。
今回もまたいろんな「まあ…素敵…」をありがとう。
写真は、ママ友とのおしゃべりタイムで毎回不思議な盛り上がりをみせる泉屋のクッキー。このクッキーが山口のデパートの食品売り場にあるのを知って、鼻をすすったというひとを何人か知っている。サンタ・マリア・ノヴェッラのローズウォーターと「プラダを着た悪魔」のDVDは、「禁デパ」由来のやさぐれ解消の友。
長い駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
お好きなもの。こころときめくもの。お教え頂ければ嬉しいです。
byサヴァラン
爽子
とーーーっても、面白かったです。
このデパート探検記を読んで、わたしも、行ってきましたよ。デパートへ。笑
こたつむりも、気持ちよくて好きですが、たのしいお出かけになりました。
サヴァラン Post author
爽子 さま。
爽子さま~~~。
ありがとうございます~~~。
わたし、あのおしゃべり会のあと、
母と待ち合わせて梅田の阪急に行ったんです。
グランドオープン前でなんだかすごいことになっていましたが、
デパート狂はあれでまたスイッチが入り。。。
あの日、いろんなスイッチが静かにonになりました。
「求めていきたい。」
ガンガンという性分ではないので、
ゆるゆる~とかたつむりのように。
爽子さまの遠泳。
わたしも入れてください!
お花のいっぱいついた水泳帽で泳ぎます!