【エピソード16】 50年前のペット事情
さてさて、聞いた話を形に残すことを仕事にしている「有限会社シリトリア」(→★)。
普通の人の、普通だけど、みんなに知ってほしいエピソードをご紹介していきます。
【エピソード 16】
50年あまり前、犬や猫を飼っている家庭は多くありましたが、だいたい道で拾ってきた元野良犬や元野良猫たちでした。血統なんて誰も考えていなくて、雑種が当たり前。犬は番犬として庭で飼われ、猫は家の内外を自由に行き来して、飼い主の家は猫の数多くの居場所の一つくらいな感じでした。
西日本のある町に暮らしていたヒデキさん一家(両親と妹の4人家族)の猫もそうでした。メスの三毛猫 “クロ”はヒデキさんが生まれる前から家にいる“家の主”的存在。
ヒデキさんはクロが大好きでしたが、クロは子どものヒデキさんなんて相手にしない風で、我が物顔に家の中を歩き回り、箪笥の上の定位置に座って目をつむってくつろいでいました。出入口はトイレの足元の小さな窓。自由気ままに1日の半分は外で過ごして、食事時と寝る時に家に戻ってきました。
食事(つまり餌)は、とにかく残り物。ペットフードなどはなく、どの家もだいたい残り物をあげていたと思います。残ったご飯にかつお節が定番で、夕食が焼き魚の時はその骨も追加され、これはごちそうでした。
トイレだって自然のまま。だいたいは外で済ませてくれていたのですが、たまにヒデキさんのベッドの下が臭くなっていて、それはクロがベッドの下でウンチをしたからです。「こらっ~」と一応クロを叱りますが、今から思うと家族全員、仕方がないとあきらめていた気がします。
そして、妊娠も自然のまま。実は、クロはその町の女ボスで、たくさんのオスを従える姐御猫でした。なので、いつも妊娠して子を産みます。生むのは押入れの奥です。ヒデキさんと妹は、ある日、押入れの奥からの小さな鳴き声に気づきます。興奮してお母さんに「赤ちゃんが生まれてる!」と報告します。
子猫はいつも3~5匹生まれました。でも数週間後、お父さんは段ボール箱に子猫たちを入れてどこかに連れて行きました。貰い手が見つかったのか、どうしたのか…、ヒデキさんにはわかりませんでしたが、そうやって子猫がいなくなるのもまた、仕方がないと思っていました。
そんなことが繰り返されていましたが、ヒデキさんが忘れることのできない出来事があります。
ある年、クロが生んだ5匹のうちの1匹が生まれた時から体が小さく、いつまでもよろよろとしか歩けません。クロのお乳は兄弟で奪い合うので、小さい子猫はなかなかおっぱいが吸えず、ますます弱っていきました。
ある日、物置からクロのうなり声が聞こえます。変だなと見に行くと、なんと、クロが弱った子猫の頭を口の中に入れていたのです。何か異様な雰囲気を感じて、急いでお母さんに「クロが子猫に何かしてる!」と報告すると、お母さんはヒデキさんに来ないよう告げてから、一人で物置に行きました。
後から聞いたことですが、クロは自分で長くは生きられないだろう弱い子猫の命を奪ったようです。動物の本能なのでしょうか。大好きなクロが、今まで見たこともないような怖い動物に見えた出来事でした。
(ぶろぐ@くぼっちゃんねる より)
そんなこともありましたが、クロは変わらず、町の女ボスで、ヒデキさんの家でも威張っていて、元気に過ごしていました。
数年後、ヒデキさん一家は、お父さんの仕事の関係で町を離れることになりました。町のボスだったクロを、住み慣れた町、家から引き離していいものかと家族で悩んだ末に、結局一緒に新しい町に引っ越しましたが、引っ越してからのクロはなんとなく元気がないような…。
そして半年後に交通事故で亡くなりました。慣れない町、慣れない家が、クロの命を縮めてしまったのではないかと、ヒデキさん一家は悲しみ後悔しましたが、クロはもう戻ってきません…。
今とはずいぶん違う、自由でおおらかで、でもちょっと悲しいペットのお話でした。
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