50代、男のメガネは近視と乱視とお手元用 ~ サウンドトラックを聴く。
サウンドトラックを聴く。
映画を見るのが好きなのだが、実は映画のサウンドトラックを聴くのもかなり好きだ。最近の流行の出来合いの曲を持ってきて、適当に付けたようなサウンドトラックではなく、ちゃんとその映画に合わせて、作曲家が曲を付けたサウンドトラック。特に60年代、70年代のハリウッド映画のサウンドトラックなんて最高だ。
映画が大作だったりすると、サントラ盤のなかにもヒット曲が一つや二つ入っていて、最初はそれを目当てに聴いていたりする。でも、だんだんとそのヒット曲の合間に入っている静かなバラッドが心に染みてきたりする。そして、聞きこむ時間が長くなればなるほど、ただ主人公が通りを歩いているときにかかっていた、半分擬音のような曲まで覚えてしまう。こうなると、 自分が小汚い商店街を歩くときに、その曲が頭の中でリフレインしたりするものだ 。映画を飛び越えて、サントラが主張し始める。
空を見上げて、その空の色が「あ、あの映画で見た空に似ている」と思ったとたんに、「メインテーマ」がなり始め、少し冷え込んだ夜には「愛のテーマ」が哀愁を帯びた旋律を奏でる。そう、このサントラはもう映画のサントラではなくなって、僕自身のサントラになるのである。そんな名盤サントラが何枚もある。そして、自分自身にとってのサントラになってくれるかどうかは、聴き込むまで分からないというのが、サントラを聴く面白さでもある。
LPレコードをターンテーブルにのせて聴いていたからこそ、こういう我慢強い遊びが存在したのかもしれないと、ふと思う。いまなら、ただ主人公が歩いているだけの場面にかかるブリッジのような曲はリモコンでピョンピョン飛ばしてしまう。それに第一、最近ではサントラ盤そのものが発売されないことが多くなった。時代と言えばそれまでだけれど、なんとも寂しい時代になったと思う。
サントラに限らず、少しでも我慢のいるものは、どんどん駆逐されている。映画でも音楽でも、作り手が退屈を極端に怖れている気がする。昔の映画によくあった、主人公の乗った車がただただ荒野を疾走している、という場面にはなかなかお目にかかれない。主人公を待つ女が、川の畔で本当にたっぷり時間をかけて佇んでいる場面にも巡り会えない。
そんなサントラ盤、サウンドトラックの話を映画の学校の学生にしたところ、「退屈じゃない方がいいんじゃないんですか」と逆に不思議そうな顔をされてしまった。それはそうだなあと思う。彼らには退屈な時間というのがほとんどない。人とめしを食っているときにも、テレビを見てるときにも、なんなら友だちと話をしているときにも、ずっとiPhone片手にTwitterやラインをやってるんだから、そりゃ退屈な時間などない。
だけど、彼らは決して満たされているわけではない。映画のサントラを聴き込んで、それが自分が見たはずの映画から解き放たれて、自分自身のサントラになるまでのとてつもなく退屈で満たされた時間を知らない。僕たちは努力しなくても退屈な時間を目一杯楽しめた最後の世代じゃないのか、と最近思い始めた。
いま、学生たちによく話をするのは、退屈な時間をきちんと過ごして欲しい、ということだ。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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カリーナ
こんばんは!
この前、京都の「ワンスモア」というフランス料理屋さんに行ったのです。(ワンスモアという店名がすでに70年代な感じがしませんか!)、そこで60年代~70年代の映画音楽が流れていたのです。白い恋人たちとか、ある愛の詩とか、ゴッドファーザーとか。そしたら、食事をしながら私、頭の中で歌っていたんですよ。歌詞つきで!次から次にというとちょっと大げさですが、かなり、歌詞付で歌えて「ああ、あの頃って、映画音楽のヒット曲に歌詞がついていたんだー」とものすごーくしみじみしたんです。映画のタイトルが日本語に訳されていた時代。歌詞も和訳されていたんですね。
とってつけたようで恐縮ですが、「サウンドトラック」が自分自身のサウンドトラックになるってよいですね。風景が劇的になるし、退屈しなさそう。素敵です。
わに
植松さん こんばんは
>僕たちは努力しなくても退屈な時間を目一杯楽しめた最後の世代じゃないのか、と最近思い始めた。
ひとつの物語が始まるようなフレーズです。 好きです。
昔 汚れた英雄という映画に はまりました。
正確に書けば 汚れた英雄の映画の音にはまりました。
封切り見て 二番館でもみて
テレビ放映があった時は 当時 ビデオを持ってなかったので
(ビデオ持っている家庭少なかったと思う)
音をカセットに録音して カーステレオで聞いてました
映画は 良くも悪くも角川ですから(笑)
ストーリーは忘れていたのですが
ひさしぶりに ユーチューブで 見て (聞いて)
ライダースーツの革のきしむ音 バイクの音
あああ
ベタな 言い方ですが 「青春が。。。蘇るぅ」
(ホントは青さは通りこした年齢でしたが。。。。)
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FMから流れてくる音をカセットレコーダーのマイクで録音して
ネコの鳴き声や電話の呼び出し音がかぶさった曲を 継ぎはぎして
自分だけの カセットテープ作った事も思い出した。。。
uematsu Post author
わにさん
汚れた英雄、ヒットしましたね。
あの頃の角川映画は本当にワクワクしました。
サントラも意識的に売れ線狙ってたし。
邦画も洋画もあの頃のサントラはなかなか面白いです。
uematsu Post author
カリーナさん
確かに、英語をそのままカタカナにしたタイトルが増えました。
味気ないですよねえ。
ゴッドファーザー愛のテーマは、確かに尾崎紀世彦が歌ってたんじゃないでしょうか。