道の仕事。その4
案の定、アイツらは起きてこない。すでに時間は深夜12時を過ぎ、1時近くになっている。僕は初めての仕事で、特に最初の1時間ばかりで緊張しすぎたのか、すっかり疲れ切っていた。そして、「12時には交代」という言葉が反故にされた後の時間の長さったら…。しかも、実際に交通量を調査している車と、アイツらが眠っている車との間は距離があり、起こしにいけないのだ。もちろん、当時、携帯電話を持っているやつなんていない。
僕はずっとアイツらに「起きろ!起きろ!起きてくれ!」と念を送りながら自動車をカウントし続けた。交通量調査の難しさは、一つ向こうの信号が青になった途端に最初にやってくる塊のカウントだ。でっかい車の向こうに小さな車が隠れている。車と車の間をバイクが走り抜けていく。そんな車たちが寄せては返す波のように、続々と押し寄せるのだ。
今となっては、「適当で良かったはず」と思うのだけれど、まだ当時は若かったし、シンナーくんに言われた「数字が合わないとやりなおし」という言葉が恐ろしくプレッシャーとなり、必死でカウントしていたのだった。それでも、時折、見逃した車があったり、思い返すと、あのトラックの向こうに乗用車がいたんじゃないのか、という疑念がぬぐえず、想像だけでカウントを一つ二つ増やしたりして、「でも、このせいで数字が合わないかも」とそれはそれで恐怖を感じたり。
そんな時間を3時間も過ごすと、僕はちょっとしたパニックになっていた。しかも、アイツらは起きてこない。まだまだこんな時間が40時間以上続く。そう思うと、僕は思いきって、カウントをとめて、アイツらがいる車に走って行き、ドアをガンガン叩いて、「起きてください」と大声を出した。
「な、な、なんや。どうしたんや」
「もう、1時ですよ」
「おお、そうかそうか。交代やな」
「お願いします」
「よう三時間頑張ったな」
「はい」
「すぐ行くから、車に戻っといて」
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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okosama
ほんまに!アイツらは!
uematsu Post author
okosamaさん
いやほんと。
人間、睡魔に襲われると、人のことなんて考えられなくなるんだと思い知りました(笑)。