素敵な谷根千
引っ越しをして、千駄木の住人になった。15年ほど前に大阪から東京にやってきてから、最初の 一年が市ヶ谷。その後はずっと神楽坂で暮らしていた。ところが、昨年、急な引っ越しを迫られ る事態になり、あちこち探したのだが、ネコが飼えて家族四人で住めて、手頃な家賃という賃貸 物件が見当たらず、最後の最後、上石神井に住むことになった。
長い間、神楽坂近辺に住んでいたせいか、上石神井での生活は思いの外、散歩する場所に困り、 ストレスをため込むばかりだった。そこで、上石神井の住人になってからも神楽坂近辺の物件を 探し続け、ふとしたきっかけで千駄木の借家を見つけた。
千駄木の団子坂のすぐ近く。ネコも飼えて、家族四人で住むにはちょうどいい間取りの借家。心 配事と言えば、隣近所がとても静かな住宅街なので、関西弁で家族四人がわあわあ声高に話す我 が家が、ご近所迷惑にならないか、ということだけだった。
引っ越してから約1ヵ月。とにかく、散歩する場所に事欠かないというのが嬉しい。上石神井で はどうしても郊外ということがあり、一つの目的地までバスや電車で出かけると、次の目的地ま でまたさらにバスや電車を乗り継ぐ必要があった。
しかし、いまの住まいは昨今流行の谷根千の渦中にあるので、歩みを進めるだけで、次々と興味 深い場所が目の前に現れる。団子坂から谷中銀座。谷中銀座から西日暮里へ向かうも良し、引き 返して根津神社に詣でるも良し。手頃な価格の蕎麦を食べ、安っぽいソフトクリームをなめ、濃 いめのコーヒーを飲んで、土産物屋をのぞく。
谷根千の魅力は庶民的な商店街だったり、歴史のある街並みだったり、由緒正しき寺社仏閣だっ たりするのだが、それだけなら他にもいろんな谷根千候補があるだろうと思うのだ。にもかかわ らず、谷根千が谷根千としてブームのようになっているのは、やはり交通の便の良さと、そこに便 乗してしっかり商売をしようとする商魂たくましい人たちがたくさんいたという事ではないかと 思う。
しかも、それが後もうちょっとでさびれかけていた、というのがちょうどいい。新宿の真ん中や 銀座のように大手の資本が入り込む前にブームになってしまったので、頑張って売ろうとする商魂 に地元の人たちの顔がひとつひとつ入り込んでいて、時にはやさしく、時にはいやらしくがめつ く、街行く人たちを誘い込もうとする。
その人間くささこそが谷根千の魅力なのだと思う。さて、今週末は久しぶりに根津神社にお詣り でもしよう。その前に、段ボールだらけの家の中を片付けないといけないのだけれど。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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nao
随分面白そうなところに居を構えましたね。
私も人の暮らしが身近に感じられるような町が大好きです。
uematsuさんの谷根千だよりを楽しみにしています。
uematsu Post author
naoさん
派手なもんなんてなくてもいいんですが、
散歩できる街並みはほしいですよね。
しばらくは散歩三昧です。