白い奴を殴る
狭いトンネルのようなところを歩いていたのだ。なぜか映画学校の恩師と二人で。そしたら、向こうから後輩が来たのだ。曰く因縁のある奴である。そいつが向こうから狭いトンネルを歩いてきた。すれ違うのがやっとの狭さだ。もう何年も会っていなかったのだが、次に会ったら殴ってやるとずっと思っていた相手だった。そして、会った瞬間にやはり「殴ってやる」と思ってしまえたのだった。それでも、僕は我慢したのだった。いまは恩師もそばにいる。そこで暴力などもってのほかだ、と。なるべくそいつを見ないように、僕たちはすれ違った。
その瞬間に僕はそいつを見た。白い顔色をした小太りの中年男だ。そいつが、僕と目が合った瞬間になんとも嫌らしい顔をしてニヤリと笑った。笑ったのである。
何の躊躇もなく僕はそいつの肩をつかんで、こちらに向きなおさせると迷わずに右のストレートを入れた。白いデブはそこに仰向けに倒れ込んだ。狭いトンネルの中なので、相手には逃げようがない。僕は膝を相手の腹の上に置いて押さえつけて固定した。その上で、さらにそいつの顔を右手で殴った。何度も何度も頬のあたりを殴った。
ドテ、とか、ベチ、とかいう音がした。小太りだからか、そいつの頬は湿気ていて、殴るたびにべちゃべちゃと僕の右手は湿気てきた。それでも、効かないのか相手はヘラヘラと笑いながらこっちを見ている。僕は気持ち悪くなると同時に恩師のことを思い出して、殴りながら恩師に目を向ける。恩師は、どうしようもないなあという顔をしながら「しゃあない、いってしまええ」と僕を煽る。煽られた僕はやめるわけにはいかなくなり、さらに殴り続ける。
という夢を見た。そんな夢を見た翌日、僕は仕事の取引先のオフィスへ出かけた。すると、そいつがいた。白いデブ野郎が顔を腫らすこともなくそこにいて、僕に向けてでっかいiPadを向けて、どうやら動画を撮っているようだ。そして小さな声で、隣の席の奴に「証拠を撮っておかないとね」とまたニヤニヤ笑いながらいうのだった。
という夢を見た。夢が夢の中に出てくるというややこしい夢だ。夢の二段重ね、夢の二人羽織である。
起きた瞬間まだ右手が痛かった。痛い右手をさすりながら、現実の生活でも実際に曰く因縁があり、いまでも会えば殴ってやりたいと思っている相手のことを考えた。
考えるのもいやだけれど、こんなにはっきりとした夢を見たのだ。考えてしまうのは仕方がない。こうなったら、アドラー先生もなにも関係ない。
次に会ったら、僕は夢のように、本当にあいつを殴るのだろうか。そして、あいつは夢の中のように「証拠を残してやる」と言いつつ動画を撮るような真似をするのだろうかと。
答えはすぐに出た。「わからない」だ。わからないなら、考えても仕方がない。夢に見てしまったと言うことは、僕がいまだに怒っているという証拠だろう。だけど、次に会ったときに本当に殴るかどうかは、会ってみないとわからない。というか、たぶん殴ったりすることはないだろう。だとしたら、やっぱり答えは「わからない」だ。
今年55歳を迎えるというのに、こんな感じだけれど、正直、みんなこんな感じで悶々してるんじゃないのかと推測するのだけれど、どうだろう。
あれ、もしかすると、これがアンガーマネージメント?
いや、違うのか(笑)
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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