「原稿を落とす」の巻
これまでに、仕事でも趣味でもなんでも、原稿を落としたということはない。書いていて送り忘れた、とか、書いて送ったのに没になった、という経験はあるけれど、すっかり忘れていた、ということはない。直前まで忘れていても、ぎりぎりなんとかなるところで「あっ!」と叫んできた。
ところがである。すっかり忘れていたのである。どんな原稿かって?えっと、この原稿です。毎週水曜日に更新されるこの原稿はだいたい火曜日にメールで送信する。火曜の夜中になったり、送るのを忘れていたり送ったつもりになっていて、水曜になってから慌てて送るということはあったけれど、今回のように「えっと、その原稿は…」という問い合わせで初めて「あれ?そうだったっけ」となったのは初めてだ。
理由ははっきりしている。僕の人生でいちばん、辛くて楽しい一日だったからだ。昨日の火曜日が。
月曜日にスタッフの一人がメール一本で辞めるという、世間ではよくある、僕の事務所では初めての事件が勃発し、とりあえず、火曜日には来るのかどうか、というやりとりが、本人とではなく親族の方とあり、結局、来ないということがわかったのが火曜日の朝。さて、どれだけの仕事が放置されているのか、と見てみると、あれやこれやと途中の仕事が山積み。
ひとつひとつ確認するだけで半日かかり、しかも、入稿が明日と週末に迫っている。なのに、まだ確認が終わっていない。という大混乱へと突入したのでありました。
くそ、これはどういうことだ。なんでこんなことに。と言っているうちはよかったのだけれど、ことはそう単純ではない、ということに気付いてくる。やばい、僕ではわからない。状況もシステムの操作も、そして、問い合わせ先も。それなのに、営業から、代理店から、問い合わせは続く。というわけで、昨日の昼頃は涙を流さんばかりに一人大混乱に陥っていたのであります。
しかし、そこに「大丈夫ですか?手伝いますよ」という仕事仲間が駆けつけてくれて、一つ一つ、ことが解決していく。遠隔操作で手伝ってくれるデザイナー、駆けつけて横で見守ってくれるディレクター、何も出来ないけれどと声をかけに来てくれたデザイナー。みんなが優しくて、やがて事務所の中は笑顔と笑い後で満たされていく。
そして、仕事の段取りがなんとかついて、代理店にも外注さんの仕事仲間の人たちとも「これでなんとかなるんじゃないか」と一息ついたのは夜11時を回った頃だった。
最悪の気分で始まった朝が、なんだか生まれ変わったような気分で夜につながっている。そんなことを経験したおかげで、僕は原稿のことをすっかり忘れていたのだけれど、そのことをこうして書くことが出来て、それはそれで一つの幸せだなあと思うのであった。
(ということで、原稿が遅れてすみませんでした。長い言い訳のような内容だな)
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
「ネコのマロン」販売サイト
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クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。
そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
okosama
uematsuさん、お疲れさまです!
その顛末を読むことができて、それはそれで一つの幸せですわ。
uematsu Post author
okosamaさん
そう言ってもらえると助かります。
本当に、昨日は僕の人生でも一番かと言うくらいに
絶望と喜びを噛み締めた一日でした。
あー、疲れた。
つまみ
uematsuさん、本当にお疲れ様でした。
人生は全てネタ、okosamaさんと同じ感想です。
ふってわいた災難的なことがあって、阿鼻叫喚、疾風怒濤、空前絶後の試行錯誤の時間を過ごすことになっても、一方、連綿と続いている日常(uematsuさんにとってはたとえば、この連載)もあたりまえに存在するって、なんだかフシギですよね。
それは、あっちゃこっちゃで自分をやるってことで、物理的にはハードだったりしますけど、一方で、自分をギリギリ保つ命綱にもなったりして、絶望と喜びを噛み締められるのも、そこにいつもの時間があるからこそ、かなあなどと、あら、完全に自分に置き換えて言ってますね、スミマセン。
uematsu Post author
つまみさん
いやもう、ほんと。驚くようなことって、ほんとうに起きるんだと、驚いています。
しかしなあ、人生は続くしなあ。
涙は出てくるしなあ。
そんで、なんとなく笑えてもくるしなあ。
結局、似たようなあれやこれやを経験して、
なんだかんだと乗り切ってるんですよねえ。
さて、騒動はまだ続いてるので、頑張りまする
アメちゃん
uematsuさん、おつかれさまです。
私は仕事の原稿を土佐堀川に落としました。
会社勤めをしてた20代の頃、
「今から納品に伺いまーす」とクライアントに電話して、
原稿の入った会社の封筒を、自転車の前カゴに入れて天神橋を渡ってたら
ぴゅうと風が吹いて、あ!と思ったときには時すでに遅し。
ひらひらと封筒が川に落ちていきました。
もう慌てて会社に戻り、マッハのスピードで原稿を作り直しましたよ。
まぁ、30分もあれば作り直せるモノだったから
「川に原稿落としたー!あははー」って大笑いしながら会社に戻ったんですけど
昔の紙の版下原稿だったりしたら、真っ青ですよねぇ…。
uematsu Post author
アメちゃんさん
原稿を土佐堀川に落とす!
いやあ、牧歌的でいいですね。
今時、具体的に落とせないですからね。
パソコンで書いて、メールで送って。
手書き原稿を自転車で運んでいた時が懐かしい。