『ノーラ・ウェブスター』を読んで。
コルム・トビーンというアイルランドの作家の小説は、とても面白い。まるで映画を見ているかのように場面が浮かんでくる。小さなディテールを積み重ねるのだけれど、意外に物事はスピーディーに展開していく。そんなテンポも大きな魅力のひとつだと思う。
『ノーラ・ウェブスター』はアイルランドの街に住む四十代の主婦ノーラの物語。上の娘の一人は結婚して家を出ている。もう一人の娘は大学に進学して家にはいない。残っているのは、まだ手のかかる息子二人と教師である夫のモーリス。誰からも尊敬され慕われていたモーリスは、病に倒れ逝ってしまう。そこからこの小説は始まるのだが、自分には趣味の一つもなかったと立ち尽くすかのようなノーラの描写が素晴らしい。
この小説は途方に暮れていたノーラが、やがて仕事を始め、職場でのいじめを克服し、思春期の息子たちと折り合いをつけ、社会主義に目覚めた娘の動向に心を痛めながら、自分自身の立ち方、生き方を見つけていくという物語だ。
それにしても、コルム・トビーンという小説家の書く主婦ノーラは、なんと複雑で純粋で生きづらそうなのだろう。それでも彼女は、ふいに前向きになり、突然扉を開く力を見せつけながら歩みを進めていく。
特に大きな事件が起こるわけではない。ただ、時間が過ぎ。ただ小さな物事が動き。人がそこに生きている。そんな描写がゆっくりと積み重なって、ノーラの人生を一緒に経験しているかのような感覚を持ってしまう。
夢とか希望ではなく、「生きなくてはいけない」という必然に迫られながらノーラが自分の人生を手に入れていく。この小説は作者の母を中心とした自伝的な作品であるらしいのだが、市井の人々が暮らしの大きな変化の中で、自分自身を立て直していくダイナミックな力強さが静かな感動を伝えてくれる。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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kokomo
夫と別れた理由が「死別」という点以外ノーラと似た状況にあることもあり、この本に興味を持ちました。別れに付随するすったもんだを経て、自分の人生を生きていなかったことに今更ながら気づいて唖然としているところです。アマゾンで早速ポチリました。久しぶりに読書にわくわくしそうです。紹介ありがとうございました。
uematsu Post author
kokomoさん
この小説、大げさな立身出世とかではなく、
しっかりと立つ、ということが
テーマになっているのが嬉しいです。
ぜひ