石、動く。
夜である。いつも夜である。昼であることは滅多にない。そして、突然である。鼻の脇がこそばゆかったり、もぞもぞしたり、どうも全身がだるかったり、肩が異様に凝ったり。そんな前兆を感じたことはない。いつも夜である。いつも突然である。
その日も、今日のぉ~仕事はつらかったぁ、と伸ばし伸ばし歌うように一日を終え、飯をかき込み、風呂に入って、さあ、寝よう、いやもう寝たかも、いやいや寝たんじゃない? うん? なんか最近には珍しく健やかに寝たんじゃね、おれ。
と思っていた瞬間に、下っ腹がギュッと痛くなったのである。ぐぐっと下っ腹を内側から掴むような痛みが走ったのである。うん、なんだこれは。夢なのか、と思いつつ、うとうとしながら痛みの元を探ろうとする。探ったってわかるわけがない。何しろ、身体の中から痛いのだ。
すると、さらに痛さは増す。下っ腹と同時に背中の方に痛みが走る。そして、これが四方八方へと広がる。広がった痛みは、また下っ腹へと押し寄せて、痛みを増していく。
知っている。俺は知っているぞ。うん。知っている、お前は、あれだ、うんと。誰だっけ。知ってるんだ。この痛み方。ほら、あれだよ。石だよ。石が動く奴だよ。そうそう。腎臓に出来た石が、尿路を通って降りてくる、あれだ! かれこれ20年近いお付き合いだものな。知らないわけがない。しかし、なぜだ。なぜ、こいつはいつもいつも忘れた頃にやってくるのだ。
最初の結石の激痛の時にも救急車を呼んだ。救急車を呼んだのは、あの時以来だ。結石とわかれば怖くはない。痛みは怖いが、ややこしい病気ではないかという恐怖からはさよならできる。あとは、痛みとの対処だけになる。僕の身体にできる結石はそれほど大きくはないらしい。だから、いつも医者は「粉砕療法をやるサイズじゃないんですよね」という。「でも痛いです!」と言うと「そりゃ痛いでしょうね」となぜか笑う。何を笑ってるんだ、と思うけれど、痛み止めなどの処方をしてくれているので、感謝で怒りはわからず、なぜかへりくだった態度で「どうすればいいんですかね」とお奉行に頭を下げるかのように低姿勢だ。
医者曰く「まあ、たくさん水を飲んで、適度に運動をして、早く出してしまうことですね」と。いつもそう言われる。そして「その時、痛いですよね」といつも聞く。すると、医者は「痛いですね」といつも答える。「ま、痛み止めは出しときますね」とこれで終わりだ。
で、だいたい、いつもはそれで本当に終わる。それ以降、急激に痛むことはなく。だいたい、痛みが引いたら、何事もなかったかのような生活に戻るのである。それだけが、結石のありがたさだ。立っていられないくらいの激痛が身体を走る。けれど、数時間が過ぎれば本当になんともないのだ。
というわけで、今回は何度か激痛に襲われ、何度か座薬に救われ、いまに至っているわけだ。しかし、救急車で病院に運ばれ、CTを撮った時に二人の医者が僕のCTを見ながら「おおっ、そこそこ大きいのがあと二つもあるね」「あ、ほんとだ」と話していたのを聞き逃さなかった。そして、彼らはマスクをしているのを良いことに、半笑いだったのだ。マスクをしていたんだから、笑っていたかどうかはわからないのではないかと、あなたは思っているのだろうか。ふふふ。そんなことはない。僕は確かに聞いたのだ。彼らの会話から発せられる半笑いのオーラを。そして、僕は見たのだ。いままに見た結石のCTにはなかったほどの、大きめの影を二つ。これを見りゃ、僕が医者だって笑ってしまう。
ということで、爆弾を抱えた僕は、とりあえず、何の痛みもないいまの間に書いてしまおうと、いま必死でこの文章をたった十五分ほどで書き終えたのである。だって、痛みが出てきたら、本当に死にそうになり、本当に何も出来なくなるんだもの。
いつも、小さな誤字脱字はあったりするのだが、今回に限り、誤字脱字があっても状況を鑑みてご容赦いただきたい。以上。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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Jane
題名から、「お山の石が動いた」みたいなスーパーナチュラル系のお話かと想像しましたが、なんと。。。痛そうですね。今頃もしかして痛くなってらっしゃるかもしれませんね。早く石が出ますように。
uematsu Post author
Janeさん
ありがとうございます。
今のところ無事です。
とりあえず、座薬は手放せません(笑)
つまみ
ひゃあ。
大変ですね、お見舞い申し上げます…の気持ちにウソはないのですが、こういうときのuematsu節がサイコー過ぎて、楽しく読んでしまいました。
無事が続きますように。
しかし、医療関係諸氏は、物言いと表情にホント気をつけて欲しいです!
こっちは、あなたがたの一挙手一投足、表情筋の隅々まで凝視して、なにか自分の身についてのよからぬ、もしくは希望が持てるサインはないものか、とチェックしてることを、少しは考えているのか!えっ?…です。
uematsu Post author
つまみさん
いやほんとに。
で、痛み止めを処方してくれる看護婦さんは、本気で天使に見えるのです。
ああ、ありがたや。