荒野にぽつんと。
「荒れ果てた暗く寒い場所に立っている。姿は見えないけれど、少し離れた場所からは無数の野犬の気配がする。そこに立ち尽くして身動きができない」
そんな場面が頭から離れないと言ったのは、学生時代の恩師である映画監督の高林陽一さんだった。その話を聞いた時からその場面は僕の心の風景となった。
「追いかけても追いかけても何かに手が届きそうで届かない。それは若者特有の焦燥だと思っていたのだが、四十になっても五十になっても同じように何かを追いかけ、追われ続けている」
そんな意味合いの主人公の心情を描いたのは開高健だった。その文章を読んだ時から、その心情は僕の心情となった。
これらの言葉をあげた先達二人はともに物を作る人たちだけれど、彼らは自分の中にあるそんな暗く淀んだなにかを知るために、そして生き延びるために表現せざるを得なかった人たちなのだと思う。
こう書くと、彼らがあらかじめ答えを見つけていたようにも感じられるけれど、実際はそうではないのだと思う。最初にあったのは、たぶん「荒野にぽつんと立っている」という寂寥感だろう。誰もがふと感じる、「この世界にたった一人」という寂しさ。「じゃりン子チエ」の中で父のテツが、桜の満開の下で仲間たちと大騒ぎしながら「チエ、わし孤独や」と涙を浮かべる、あれだ。
そして、その孤独とはなにかを知ろうと歩みを進めてしまった不幸な者たちが言葉を手に入れていく。もちろん、そこに答えはないけれど、ぼんやりとした輪郭のようなものだけがある。答えを取りこぼさないように、どんどん外堀を埋めていく。範囲はどんどん狭くなる。けれど、答えは見えない。見えないけれど、優れた作家はおそらく答えを内包した美しい物語を僕たちに届けてくれる。
世界中が見えないウイルスに萎縮している今だから、なにか書かなきゃと思うのだけれど、こんな時に限って、面白いこともためになることも書けない。ただ、引っ越しの準備をしている時にふと手にした若い頃に見聞きした古今東西の巨匠たちの仕事に圧倒されるばかり。そして、テツのように「チエ、わし孤独や」とつぶやきたい衝動にかられるのである。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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Jane
植松さん、やっぱり引越しされることにしたんですか?
uematsu Post author
Janeさん
もともと引っ越しありきでさがしていたので、「凶」×3連発の後も探し続けなんとか見つけました。その時もおみくじを引きに行って、家族3人で出たのが「大吉」「吉」「末吉」でした!
okosama
uematsuさん、こんばんは
今、面白いことを読ませてもらえなくても、私は平気です。なぜなら、最初の段落からの連想で、少し離れた場所からポインターにポイントされた話を思い出して、笑ってますから(笑)
お引っ越し先でも、uematsu家に幸あれ!
uematsu Post author
okosamaさん
ありがとうございます!
これまでのネタで笑っていただけてるなら幸いです(笑)。
ほんと、新型コロナ、収束してほしいですね