千両マスク。
いま僕は近所のカフェでマスクをしつつ、これを書いている。付けているマスクは、1ヵ月程前に買ったマスクで、これが1箱30枚入りで4000円近いという高額マスクだった。しかし、家にマスクがほとんど残っていなかったので高いとは知りつつ買ったのである。
高いのはいい。別に高くてもちゃんと普通のマスクなら文句はいわない。けれど、僕がいましているマスクはとても作りが甘い。少し引っ張るとゴムが切れる。切れるというか外れてしまう。おそらく、マスクが売れるとわかって、適当に作られたマスクなのだろう。ただ、僕にしてみれば1枚100円以上する使い捨てマスクとしては高額なマスク。これをちょっとやそっとで捨てるわけにはいかないと、意地になって使っているのだ。
1枚100円、1枚100円と思うと、惜しくて捨てられない、と考えていると、ふいに『千両みかん』という落語を思い出した。
みかんが食べたくて食べたくて、ついには床にふせってしまった若旦那。番頭が「みかんが食べたいせいだ」ということを伏せっている若旦那から聞き出してくる。父親である主人は「なんとしても、みかんを買ってこい」と番頭に命じる。しかし、季節は夏。大阪中を駆けずり回ってもみかんはない。そんな中、唯一、みかんを氷漬けにして在庫していた商店を見つける。ここで少し話がこじれて、たった1個のみかんに千両という値段が付いてしまう。それでも、御店の主人は「安い、買うてきて」と番頭に命じる。無事にみかんにありついた若旦那。顔色も戻り、これで持ち直すと御店の主人も大喜び。若旦那も10袋あるうちの7袋を食べて「残りの3袋、お父はんとお母はん、それから番頭どんの3人で食べておくれ」と言われる。ただ、番頭はどうも釈然としない。自分が将来のれん分けしても、もらえるのは数両、それがこのみかんが千両。若旦那が食べて、残ったのが3袋。つまり、ここにあるのは300両。番頭さん、300両300両と思い詰めている間に、「ええい、ままよ」とみかんを3袋もってとんずらした。
僕はこの噺が大好きで、とくに桂枝雀師匠が演じる『千両みかん』はラスト次第に思い詰めて、魔が差している場面の描写が絶妙である。
で、僕の千両マスクならぬ4000円マスクだが、おそらく機能も普通のマスクよりも落ちるはずなので、僕はマスクをしていてもせきやくしゃみをしない。出そうになったらマスクの上から口を押さえる。そして、周囲に人が密になってきたら逃げる。だって、千両マスクを信用していないから。にもかかわらず、このマスクは他のマスクに比べて高額なのだ、と思うと捨てることが出来ないのである。まあ、マスクをもって夜逃げをするほど高額でなくて良かったとは思うけれど。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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okosama
uematsuさん、こんにちは
ニヤニヤしなが読み始め、口を押さえるところで爆笑しました。
カフェがuematsuさんに戻ってきたんですね!
uematsu Post author
okosamaさん
大変な状況になりましたね。
こんな中でも、まじめに自粛する人がいて、
きちんと仕事をする人がいて、
もちろん、文句言う人、ふてくされる人、
絶望する人、中には恋をする人、
飯を食う人、飯も喉を通らない人、
ほんと人それぞれに、
それぞれの時間があるんだなあ、と
思うことがたくさんありました。
まだまだ余談は許しませんが、
とりあえずこわごわながらカフェでの仕事も始めました。