とりあえず、言っておく。
映画学校の卒業生と久しぶりに会った。在学時もいろいろと騒ぎを起こした女子ではあったけれど、卒業してからも就職や転職でいろいろ騒ぎがあってしばらく連絡を絶っていた。しかしまあ、それでも映画を作りたいという熱意と行動力には一目置いていたので、気にはしていたので、久しぶりに、ほぼ1年半ほどぶりに会うことになったのである。
1年半前というと、彼女は卒業後1年勤めたブラック企業からホワイトと呼ばれる制作会社に転職が決まった頃だった。この転職がらみで、いろいろ呆れる騒ぎがあって、僕は連絡を絶ったのだった。ということで、新しい職場に移ってからの1年半を知らないで過ごしていたので、その辺りの話をしながら楽しく過ごせればいいなあ、と夕食に行くことになったのである。
ところが、食事を始めてからほんの10分ほどで、楽しく過ごすという目論見は外れてしまうのである。なんと、あれだけ大騒ぎをして転職した会社をもう辞めるというのである。しかも、その会社に出入りしているフリーランスのディレクターについていくというのである。聞く所によると、転職して半年目くらいに仕事で一緒になったそのディレクターが「一緒にやらないか」と声をかけてきたのだという。
常識的に考えれば、フリーのディレクターが出入りしている制作会社の、入社して半年も経たない若手女子に「一緒にやろう」つまり「この会社辞めなよ」と声をかけるのは掟破りである。「ああ、この子と一緒に仕事がしたい」と思ったとしても、そう簡単に声をかけてはいけない。しかし、33歳の若造ディレクターは、なんの迷いもなく声をかけるのである。
そして、声をかけられた女子は満更でもない。そりゃそうだ。なんの実力も無く、この世界でやっていけるのかどうか不安で仕方のなかった女子に、そこそこ活躍してそうに見える若造ディレクターが声をかけてきたのだから。すっかり舞い上がった女子は、もうすでに自分の会社の社長にも上司にも「辞めてあの人のところに行こうと思います」と話したという。
ああ、もう言ったのか。と、僕は肩を落とす。こいつはいっつもこんな感じで、いろいろ失敗を繰り返してきたのに。なんだか、がっかりしながら僕はうつろな顔でのんきに飯を食っている女子を眺めながら考える。いやまあ、絶対に上手くいかないとは限らない。若造がものすごく素晴らしい作品をつくり、こいつにもチャンスが巡ってくるかもしれない。若造のところに出入りする、別の若造に誘われてまた新しいところに行って、そこで別のチャンスに出会うかもしれない。
でもなあ、いまこいつの前でそれを言うわけにはいかん。あくまでも、僕が若い頃に物わかりの悪いおじさんたちに言われたようなことをちゃんと言ってやらないと、と思う。「常識的に考えて、そんなディレクターは信用できないよ」「ちゃんとした会社でせめて3年は働いたほうがいいよ」と、僕が若い頃に言われて「うるさいよ。こっちの気持ちも知れないで」と思っていたようなことをとりあえず、言っておく。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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