男の背中。
電車に乗っていたのだ。コロナ禍というのに、そこそこ混んでいたのだ。そこそこというのは、誰とも触れあわずには立っていられない、というくらい。そんなに押し合いへし合いではないけれど、優しく押したり押されたりという感じ。
右に揺れれば右の人の肩にあたり、「あら〜ごめんなさいね〜」と心の中で謝り、当たられた右側の人も「いいえ〜お互い様ですよ〜」と心の声が聞こえる感じだった。こういうのは、実際に聞こえなくてもわかるのだ。なんとなくのあたり心地とかで。
しかし、しかしである。僕の後ろに「あら〜ごめんなさいね〜」と心の声を発しながら当たった僕の背中に、「なにしやがるんでい〜」と荒々しき心の声を浴びせる奴がいるのだ。いや、本当に声を出しているわけじゃなく、背中のあたり心地でその荒ぶる心が伝わってくるのだ。
なぜ、伝わってくるのか!?硬いのだ、背中が。カチカチなのだ、背中が。なぜ、硬いのかと振り返ると、やはり、その硬い背中の向こう側には女がいたのだ。なにげ可愛い女子がいて、この硬い背中の兄ちゃんは、自分の彼女を守ろうと背中をカチカチにしていたのだ。
いやあ、男の背中だ。かつて、僕も似たようなことをしたことがある。そういえば、その昔、椎名誠が似たような状況をエッセイにしていたことがあった(と思う)。つまり、男たるもの、誰もが1度はこの背中カチカチ状態になったことがあり、また、なるべきなのだ。(知らんけど)
でも、誰もが一度は自分の彼女を守るために背中をカチカチにしたことがある、という仮説はおそらく、誰か学者が本気で研究すればあっと言う間に証明されるだろう。きっと、その証明のための方程式には「愛」という言葉や「優しさ」という言葉が見え隠れするはずだ。
次に、電車の中で男のカチカチの男の背中を感じたら、「あら〜ごめんなさいね〜」ではなく、「お前のような気持ち、おれも知ってるぜ」という言葉を投げかけてみたい。それで何かが変化するとは思えないけれど、きっと彼の背中から発せられる荒ぶる心がほんの少し落ち着くかもしれないという気がする。(知らんけど)
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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