寝ていても無表情。
バスの中は面白い話の宝庫である。東京でも大阪でもバスの利用者は年配者が多いので、とにかく喋る。特に関西では二人寄れば漫才が始まると言われるくらいなので、ヘッドホンで音楽など聞いてる場合ではない。
こないだも、実家近くのバス停からバスに乗っていると途中からお婆ちゃんの二人連れが乗ってきて、僕の真ん前の二人がけに座った。おお、これはなかなか面白い話が聞けそうだ。そう思った僕はわざわざつけていたヘッドホンを外して、待機する。すると、そろりそろりと会話が始まる。
「もうね、ずっと寝てるんだけどね」
「うんうん」
「無表情なのよ」
「あら、そうなの?」
「そうは言っても家族は世話をしないといけないから」
「そうよねえ」
「ただまあ、無表情だからねえ」
という会話を聞いて、僕はもうお婆ちゃんたちのお友だちがそろそろ危ないという話なのだと思った。だって、寝たきりで無表情だっていうんだから。
「まあ、よかったわよ。無表情で」
うん? よかった? なぜ?
「普通は年寄りにうつると大変だって言うから」
もしかして?
「よかったわよ。無表情で」
「ねえ」
って、それは無表情じゃなくて無症状だと思われます。はい。だいたい、歳をとってくると淡々と会話が続くので、ちょっと聞いただけじゃ楽しい話なんだか哀しい話なんだかわからない。そこいくと、十代女子の話なんて、話の内容はわからなくても楽しいのか哀しいのかくらいは、声のトーンだけでわかる。いやまあ、朝からバスの中で驚いた、というお話しでした。とにかく、無症状でよかったよかった。
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植松眞人(うえまつまさと): 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。