マッチングアプリと、結婚相談所の間に。
以前、学校で講師をしていたことがあって、その頃、教えていた卒業生と食事をすることがある。なかには三十代を迎えた人もいて、結婚したり子どもをもうけたりしている人もかなり多い。
そんな中に、とても元気のいい明るい女子がいて、仮に名前をOちゃんとする。Oちゃんは、僕が直接教えた子ではなく、夏の合宿で二泊三日だけ一緒に映画を撮ったことがあるのだ。その時、Oちゃんがめちゃくちゃ頼りになる子だということがわかった。
ある学生が「こんな作業したくないです」とワガママを言い出したとき、Oちゃんがこそっと僕のところへ来て「先生、あいつ締めていいですか」と笑いながら聞いてきたのだ。10年くらい前で、まだまだ元気のいい学生はいたのだけれど、それでも、さすがに「あいつ締めていいですか」と笑いながら言ってくる子はいなかったので、僕は嬉しくなった。そして、その言葉通り、Oちゃんはその合宿の間、後輩を叱ったり、励ましたりしながら、作品完成に大いに尽力してくれたのである。
さて、そんなOちゃんは数年前に結婚し、いまはめでたくご懐妊。幸せな日々を満喫している。ご懐妊前に何度か一緒に食事をしたのだけれど、その時、今の旦那さんとどうやって知り合ったのかという話になった。
「マッチングアプリか?」と僕が聞くと、Oちゃんはニヤッと笑う。
「マッチングアプリなんか信用できません」とOちゃん。
「あのね、そんな有象無象が集まるようなとこで、危ない奴とか選り分けるなんてアホらしいてやってられませんわ」
「そしたら、どうやって知り合ったの」
「結婚相談所です」
Oちゃんはきっぱり言うのだった。
Oちゃん曰く。結婚相談所は料金が高い。しかも、ちゃんと結婚相談所の相談員が面談をしている。そんな手間と金を惜しんで、適当に引っ付きたいと考えてるマッチングアプリとは違いますよ、と。
その言葉通り、Oちゃんは結婚相談所に足を運んで約半年で、結婚相手を射止めたのである。しかも、その相手がOちゃんの期待通りの質実剛健な良い奴で、ご両親もOちゃんのことを可愛がってくれるらしい。
人間、開けっぴろげというか、開放的というか、そんな人のほうが、なんか幸せがまっすぐに飛び込んで来るんじゃないかという気がしてきた。僕はどちらかというひねてるし、映画なんかみても、ややこしい映画が好きだし、暗い影のある人を見ては「面白そう」なんて思ってしまうから、タチが悪い。
だいたい、ややこしそうな人間は、やっぱりややこしいので、後で本当にややこしいことになることが多い。僕が思っているような、ややこしそうだけど、実は必死であがきながら頑張ってるなんて奴はほとんどいない。だいたいみんな、必死で足掻いている振りだけして、すぐに逃げるし、すぐに人のせいにするし、すきを見せれば、人のものを奪い取ってやろうなんて奴がわんさかいる。
そこへ行くと、Oちゃんは、まっすぐだ。というわけで、僕はこの歳になって改めて、Oちゃんみたいな人間こそが、世の中を明るくしてくれるんだなあと思い知ったところなのである。
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植松事務所
植松眞人(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。

















































































