カフェ小景・タカヤスさんの反撃
たぶん30代後半の女性が2人。向かいには50代と思しきおじさんが1人。彼は、彼女たちから所長と呼ばれている。
まあ、喫茶店の片隅で大事な仕事の話をしようっていうんだから、所長ったって、そんなに大きな組織ではない模様。その証拠に彼女たちは、同じ班のタカヤスさん(仮名)の配置換えか、更迭を希望している。
とりあえず、席についてからの30分は、タカヤスさんのクズっぷりが語られ、次の30分で、タカヤスさんをどうして欲しいかという希望が語られる。
まあ、仕事ができない古株の男性をクビにするか、自分たちの目の届かないところへやってくれ、という話だ。
小一時間、ずっと黙って聞いていた所長だが、しばらく彼女たちに反論。そういうあなたたちは、彼にそのことを伝えて、改善を要求したのか。または、自分たちが模範を見せて、班全体がいい方向に行くように頑張ったのか。そんなことを聞く。
しかし、彼女たちの答えは、それは私たちの仕事ではない、ということと、それだけの給与をもらっていない、ということ。
すると、所長はおもむろにスマホを取り出すと、タカヤスさんに電話をする。スピーカーフォンで。当然、その声は、隣の席の僕の耳にも届く。
「もしもし、タカヤスさん?」
「はいタカヤスです」
タカヤスさんの声は明らかに不審そう。
「いま、目の前に、◯◯さんと、△△さんがいるんだよ」
口ごもるタカヤスさん。
「でね、あなたがね、ああだこうだというわけだよ。私は現場を見てないんでね、なんとも言いようがないの」
「はい」
「それで、どうなの?その通りなの?それとも違うの?この際、はっきりした方がいいと思ってね」
すると、目の前にいた彼女たちの方が
「電話で急に聞いても」
と、急に矢面に立たされてしまい、ドギマギしている。しかし、所長はやめない。
「だってさ、こんなの、直接がいいのに決まってるんだから。ね、タカヤスさん」
さすがのタカヤスさんも、この状態で、そんなの嘘だ!とか言えない。
結局、みんなが黙り込んで電話が切られる。
所長は電話をかけただけなのだが、なんだか一仕事終えたかのように、一息吐くとトイレに。残った彼女たちは顔を見合わせて、ため息をつく。そして、二人で顔を見合わせる。どうするの、ねえ、どうするの。こんな仕事のできない所長の下で、タカヤスさんと一緒に働くの、それとも明日にでも会社を辞めるの。瞬時に、二人の女の間に、多くの情報がやりとりされた。
ように、僕には見えた。
うーん、どっちだろう。右側のショートカットの人は辞める気がするな。なんか、ため息も長かったし。
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植松事務所
植松眞人(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。

















































































