Posted on 2026年2月11日 by uematsu
父の字の母からの手紙。
以前、ここでも書いたのだけれど、人生で一度だけ親から手紙をもらったことがある。二十歳を過ぎて、一人暮らしをし始めた頃のことだ。
映画の専門学校を出て、学校の仕事をしたり、助監督の仕事をしたりしていたので、お金はないくせに忙しいという状況も相まって、年末年始も実家に帰らずに過ごしていた。まあ、もともと親との折り合いも悪かったので、そのほうが都合が良かった。
家を出てちょうど半年ほど経った頃、母の名前で封書が届いたのだった。内容は、あまりに帰ってこないし連絡もしてこないので母は心配しています、というものだ。母の名前で書かれたその手紙は、どこからどう見ても父の字だった。
僕は「やめてくれー」と叫びながら、丸めてゴミ箱に捨てたという話だった。
で、最近になってこの手紙のことを思い出す。なぜかというと、父が亡くなり、一人残された母が、どうやらそういうことに一切気持ちが向かない人だと言うことがわかったから。
僕は以前この手紙のことを書いたとき、父が母の名を騙って自分の気持ちを送ってきたのだと思っていた。いまも、若干そう思っているし、だいぶそうだと思う。だけど、一人になった母を見ていると、おそらく父は僕に対する苛立ちとともに、母に対しても苛立っていたのだと思い始めた。
「オレが書く前に、お前が電話するなり、手紙を書くなりしろよ」とたぶん父は思っていたのではないか。そんな気がしてきた。そして、思い出す度に、それが確信に変わってきた。
そうだった。父はそんな人だった。決して、僕に呼びかけたいだけで、母の名を騙って手紙を書く人ではない。それよりも、これは本来、母が書くべき手紙だ、ということを母に向かって言いたかったのだと思う。だからこそ、封書の裏書きに大きく母の名前を書き、その封書を母に郵便ポストに入れさせたに違いない。
そう思ったとき、今頃になってゴミ箱に捨てたあの手紙が、父からの一方的な手紙ではなく、なんだか家の中をぽんぽん跳ねたあと、僕の手の中にやってきたもののように思えるのだった。
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植松事務所
植松眞人(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。














































































