髭を生やしてみようと思うのだ
若い頃、いくら髭を剃らなくても3日4日は大丈夫だった。髭だけじゃなく、胸毛も生えないし、脇毛も薄い。いわゆる体毛というのがほとんど生えなかったのである。ところが30歳を越えたあたりから、髭も3日ほど経つと「ああ、剃らないとな」という程度には目立つようになった。相変わらず胸毛は生えないが腹毛は生えている。すね毛もそこそこある。けれど、若い頃に髭が薄かったせいで、60歳を越えるまで、一度も髭を伸ばしたことがない。ヒッピーに憧れたときがあって、ジョン・レノンのような髭は蓄えられないだろうかと思ったこともあるのだが、その時はしょぼい毛が密度低くショボショボと伸びるだけで、髭を蓄えているという感じにならず断念した。
で、例の『PERFECT DAYS』である。主演の役所広司が朝、顔を洗って、小さなハサミで髭を整える場面がある。彼は毎朝、それをルーチンにしている。それが格好いい。いや、たいして格好良くはないのかもしれないけれど、あれがやってみたい、と僕は思ったのだった。
ということで、今日で髭を伸ばし始めて5日目である。まだ、役所広司のように小さなハサミで髭を整えるとこまではいかない。いかないけれど、家族や知り合いは「あれ、髭伸ばしてるんですか」と気付く程度には伸びている。役所広司のように、顎や頬はシェーバーで剃り、鼻の下だけ伸ばしている。中途半端なので、取引先に行くときなどはマスクをする。このご時世、マスクをしている人が多いので、マスクをしていても誰も何もいわない。ありがたい。
おそらく4月の終わり頃になると、すっかり「髭を伸ばしている」という感じになるだろう。その時に「あ、こりゃ似合わねえな」と思ったら、剃ろうと思っている。と書きながらもかなり恥ずかしい。なにしろ、「髭のばしている人って、自分でそれを丁寧に整えているんでしょ。なんかオシャレに気を遣っているふうで、いやだなあ」なんて髭のあるオシャレ男たちをディスっていたのである。それもかなり声高に。でも、せっかく生えるようになったんだから、一生に一度くらいは伸ばしてみてもいいじゃないか、という気分になったんだもん、仕方ないよね。
と、ヨメに話したら、「あんた、それは役所広司に影響されすぎや」と大笑いされた。ま、一度大笑いされたんだから、ここで辞めたらもったいないので、このまま伸ばそうと思うのである。
植松さんのウェブサイトはこちらです。お問合せやご依頼は下記からどうぞ。
植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。
Jane
『PERFECT DAYS』やっと観ることができました(うちでですが)。『PATERSON』を思い出しました。
uematsu Post author
Janeさん
そうですね、『パターソン』と似たテイストですね。
『パターソン』を撮ったジム・ジャームッシュの出世作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』は、『PERFECT DAYS』のヴェンダースから余ったフィルムをもらって作った映画だったなあ、と思い返して、なんだか胸が熱くなりました。
そして、どちらも小津作品に深く影響された作家だと思いながら見ていると、確かに小津作品と共通したトーンのようなものが感じられる気がするんですよね。