コーヒーショップで自分と同じような人に会う。
いつもの駅のいつものコーヒーショップ。いつもの時間にいつもの席に向かう。なにしろその席は特別で、席の後ろの壁に電源コンセントがあるのだ。他にも電源がある席はあるのだが、それはすべて窓際のカウンター席で、隣との距離が近い。つまり、隣に座る人によって快適度が格段に違う。汗臭い奴が座ると汗臭いし、センスをパタパタ仰ぐおっさんが座ると、オッサンも匂いにまみれる。主に、匂いハラスメントが多い。あとは、マウスがガンガン打ち付けられるとカウンター席は一枚板なので、ガンガン響く。あ、それから、隣でオンライン会議なんぞ始められた日にはうるさくて仕事にならない。
ということで、その店でただ一席だけ貴重な二人がけのテーブル席で、実はあまり多くの人が気付いていないコンセントがある席があるのだ。しかも、その席は店の隅っこにあり隣の席との距離もあり、密かに長時間、パソコンを使った作業をするにはうってつけなのである。
と言うことで、今日もこの席に向かって僕は突き進んでいた。いつもこの時間なら、必ず空いているその席に向かって。すると、僕の半歩前を歩く僕と同年代の女性がいる。目的も席まではまだ距離があるのだが、その足取りで、その目つきで、わかったのだ。こ、こいつもあの席を狙っている! し、し、しかし、まだわからない。と言いつつ、僕は確信している。こいつも、あの席を狙っている。だって、だって、あの席をまっすぐに見つめて視線を外さないじゃないか。
かくして、そいつは、いつも僕が座るその席に座ったのだった。しかたなく、僕はその席が視界に入る一番近い隣の席に座る。そいつが席を立ったら、すぐに取って代わるために。今日は長めのコピーを書かなきゃいけないのだ。どうしても、コンセントがいる。せめて1時間半で席を立ってくれ、と願いながら僕は仕事を始める。僕のパソコンは最近、2時間半〜3時間で少しバッテリーが心配になる。
すると、くだんの女性は思った通り、パソコンを取り出し、そして、コンセントケーブルを取り出し電源をつないだのだった。お、おぬし、や、やはりか。しかも、こやつめは、長めのケーブルを用意してやがった。そうなのだ。この席、コンセントがあるのはいいのだが、ほんの少しコンセントまで距離がある。僕もこのコーヒーショップに来るときには長めのケーブルを用意するのだ。そして。こやつもきちんと長めのケーブルを用意してやがったのだ。
う〜ん、これはいかん。長居される様相を呈してきた。そんな攻防はありつつも、目の前の仕事をしなければならん。隣の自分と同じような女性をなるべく見ないようにして、仕事に集中する。意外に仕事に集中できて、そこそこいいコピーが書けている気がする。そう思い、少し伸びをして女性の方を見る。すると、いないのだ。おお、席が空いた。と思ったら。テーブルの上に上着が置いてある。でた。いつも僕がやるやつだ。上着だけを置き、パソコンなどの貴重品をもって、トイレに行き、その後、コーヒーのおかわりを買ってきて、仕事も続きをするのだ。はたして、こやつめもそうなのか?そう思っていたら、帰ってきた。ほら、コーヒーのおかわりを手に持っているよ。こうなったら、あと1時間は席はあかないだろう。しかたない。今日はバッテリーが落ちるギリギリまで仕事をして、あとは家に持ち帰ろう。
そう開き直って、隣の席を見る。すると、くだんの女性が再びいないのだ。さっき、コーヒーをおかわりしたばかりなのに、いないのだ。しかも、テーブルの上には上着も何もない。どういうことだ。ふと見ると、その女性は外のテラス席で電話をしている。この時期、テラス席は暑すぎて、誰もつかわないのだ。だから、僕も仕事の電話にでなければならないときには、パソコンをもって、汗をかきながらテラス席で電話するのだ。
一瞬、空いた席に移ろうかと思ったのだが、きっとあの電話はもうすぐ終わるはず。なんとなく、表情が仕事の電話くさい。もしかしたら、同業なのかもしれない。すぐに電話が終わったときのことを考えて、僕は元の席でそのまま仕事を続けることにした。ま、今日は調子がよくてもうすぐ仕事が終わりそうだしね。しかし、次来たときにはあんたには負けないよ。次はきっとその席をゲットしてやる。お、おぼえてやがれ。きっと、僕がこんなにヤキモチしていることにさえ気付いていないとおもうけど。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。
らーら
その後、仕事が、すぐ終わって、帰られましたか?
それとも、、、
とても気になります(笑)
続きは次回でしょうか?
もしかして今書いている途中で、いいコピーとは、この記事だったりして?
uematsu Post author
らーらさん
その後、くだんの女性はしばらくして電話を切り、元の席に戻ってきました。
で、翌日、またほぼ同時にコーヒーショップに行き、また、先に席を取られたのでした。まあ、明日は僕が必ず(笑)
ちなみに、そのとき書いていたのは、わりとガッツリ起業案内のコピーでした。企業の代わりに何か書くって、だいたいつまんないんですけどね。
こないだ書いてたのは、なかなか愉快な書きようができて楽しかったですよ。
らーら
うえまつさん
その後、ありがとうございます!
愉快な仕事は、良いですよね〜
uematsu Post author
らーらさん
こちらこそ、ありがとうございます。
コメントもらうと、うれしいです。