うちに帰ろう:フキ豚炒め
前回ちらっと触れましたが、伯母の退院に付き添うため、横浜へ出かけました。
病院に着いて、手指の消毒をし、マスク、フェイスシールド、防護服などで完全防備をした看護師さんによる検温などを経て、やっと病棟の入り口までたどり着くと、退院の支度を整えた伯母が看護師さんに車椅子を押されてやってきました。(コロナ感染を防ぐため、家族は病室へは入れません)
看護師さんと談笑しながらやって来た伯母ですが、私の顔を見た途端ぽろぽろと涙をこぼしながらこう言いました。
「迎えに来てくれたの?私、家に帰れるのね!」
家に帰れる。
この言葉を聞いてふと思いました。
ああ、家か。やっぱりまだ1人で暮らしていたあの家に戻りたいのだな。
最初に骨折をして入院した時に、もう一人暮らしはできないから老健に入所するのだよ、その後は特養へ移るんだよ、という話を噛んで含めるように言い聞かせたことを思い出しました。
また最初からだ、そう思った時、伯母が言いました。
「〇〇(特養の名前)に帰れるのね」
驚きました。
伯母の中で「家」は、あの一人暮らしの小さな家から、約1年暮らした特養へしっかりと変わっていたのです。
病院まで迎えに来てくれた特養の車で10分ほどかけて、伯母の「家」に着きました。手を洗い、車いすの車輪を消毒してロビーに入ると、生活指導員の方(指原莉乃さんをさらに愛らしくしたような美人さん)、担当の介護士さん、ユニットの看護師さんが次々とやって来ては伯母の前に膝をついて「Tさん、お帰りなさい!」と声をかけてくれます。遠くから「あんた、どこ行ってたのよぉ!」と大きな声を掛けてくれたのは、伯母と一緒にフラワーアレンジメントの教室に参加しているという「花友」のおばあちゃん。
伯母は「私、ずっと病院から出られないと思っていたのよ。一生帰ってこられないと思ってたの」と、またもやぽろぽろと涙をこぼしています。
私はと言えば、まだ面会が禁止されている特養に長居をするわけにはいきません。感動の再会を横目に見ながら必要な手続きを済ませて、伯母に言いました。
「私はここで帰るわね」
「私の部屋まで来ないの?」
「うん。今は新型コロナウイルスが流行しているから、私はお部屋までは行けないの。本当は建物にも入れないのよ。今日は特別」
「そう。でも私は入れるのね。私はここの家族だから入れるのね」
その後伯母は、介護士さんに車椅子を押してもらって自分の部屋へ戻っていきました。もしも伯母が振り返った時のために小さく手を振る用意をしていた私でしたが、そんな私に一瞥をくれることもなく、介護士さんと話をしながら伯母はエレベーターに乗り込んでいきました。
あっけないものだわとちょっと笑いながら、その一方で、本当にありがたいことだと思いました。新しい環境を受け入れて、しっかりと順応してくれた伯母。そして、伯母をしっかりとサポートしてくださった特養のスタッフの皆さん。
入所当初は元来の口の悪さに輪をかけてああだこうだと文句を言っていた伯母でしたが、「自分で探し出したわけでもない全く知らない場所に連れてこられて『今日からここに住むんですよ』と言われたら、誰だって文句のひとつも言いたくなります。当然のことです」と、指原さん(似)は笑顔でさらりと言いました。
英語にtransitionという単語があります。意味は、移り変わり、移行、過渡期。伯母の場合は、このtransitionがとても上手く行った例だと思います。
86歳にしてまるで後ろ髪をばっさりと断ち切るようにして新しい「家」を受け入れた伯母に比べて、振り向かずにエレベーターに乗り込んだ伯母に一抹の寂しさを感じてしまった私の方がtransition下手なのかもしれません。
さて、こちらもtransition下手と言われてしまうでしょうか。
10月から翌年の5月が旬だとされているフキですが、我が家の庭では6月の今が盛りのように生い茂っています。栽培しているのではなく、野生と言うのでしょうか、毎年勝手に生えてきます。一般的な旬とはちょっとずれていますが、しっかりとしたフキを収穫することができます。
煮るのももちろん美味しいのですが、それだけでは飽きてしまうので、今日は豚肉と炒める『フキ豚炒め』をご紹介。
フキ豚炒め
- フキは鍋に入れやすい長さに切り、多めの塩を振ってまな板の上で板ずりにします。
- 大きめの鍋にたっぷりのお湯を沸かし、1のフキを茹でます。
どの料理に使うにしても、ここで加熱し過ぎてしまうと仕上がりの食感が損なわれてしまいます。固めに茹で上げましょう。 - 茹で上がったフキを水にとり、冷めたら皮をむきます。
(フキの皮むきって永遠に続くようで面倒だと言う人もいますが、私はフキの皮むきが好きです。フキの皮むき、イカの皮むき、ねぎの小口切りを一日中する仕事があるならやりたいくらいです) - この段階で保存する場合は、水と一緒に密閉できる保存容器に入れて冷蔵庫で保存してください。毎日水を交換すれば3日くらい日持ちします。
- 豚肉の薄切りを食べやすい大きさに切り、醤油、酒を振って10分ほど置きます。
- フライパンに油を引いて温め、5の豚肉を炒めます。火が通ったら取り出しておきます。
- 6のフライパンにフキを入れて炒めます。ここでお好みの固さまでフキに火を通してください。
- 豚肉を7のフライパンに戻して炒め合わせ、砂糖、酒、醤油、オイスターソースを加えて味付けします。
- 仕上げにごま油を少々垂らし、さっと火を加えたら出来上がり。
transitionが上手な人は得てしてスマートな人が多いような気がします。過去に固執せず、さらりと先へすすんでいく。私はといえば、飽きっぽいくせに固執する。50代も半ばに差し掛かった今、過去に固執するのは時間がもったいないような気がします。きれいにtransitionをして先に進んでいける人になりたいものです。
ミカスでした。
Jane
フキ~。私の実家の庭にもたくさん生えていましたので、母がホタルイカと煮たフキをよく食べていた気がします(あまりに遠い思い出すぎて本当にホタルイカだったか定かではないのですが)。実家で以外食べたことがないので、私にとっては郷里の味です。この歳になると、フキとかセリとかナズナとかタラの芽とかゼンマイとか山椒とか、その季節にしかとれない、あまり都会のお店で見かけないものがご馳走だなーと思います。
アメリカの私の住んでいる辺りのお店では少なくともフキを見かけませんが、生えている場所を二ヶ所知っています。シニアセンターの庭と市民の憩いの場である大きな池のほとりです。まだ池のフキがフキノトウ状態の時に、葉っぱを5枚失敬して家でフキ味噌にしてみました(小さじ1杯分にもならず)。本当にフキか半信半疑でしたが、フキの味でした。しかし公共の池ですし、特にステイホーム中は常時人が周りを散歩している状態ですので、もっと採るわけにはいきません。今はかなり立派に育ったフキの茎を「採りたい~!食べたい~!」と思いつつ散歩しています。
ミカス Post author
Janeさん
子供の頃は、山菜や香りの強い野菜が苦手だったけど、大人になるとその味わい深さが楽しめるようになってきますね。
大人の特権!
Janeさんのお母さまの煮物、どんな味だったのかなぁ。
ホタルイカと一緒に煮たのであれば、味はしっかり目だったのかしら。
とても気になります。お母さま、今でも作っていらっしゃるでしょうか。
アメリカでふきのとうに出会ってしまったら、うれしくて飛び上がっちゃいますね。
ふき味噌を作ったJaneさんの気持ち、よくわかります。
今は海外でも色々な日本食材が手に入るようになっていると思いますが、
それでも日本でないと手に入りにくい特有の食材はあると思います。
私がカナダにいた時は、太い長ネギ(白い部分が多いもの)とかぶが食べたかったなぁ。
筋子とマツタケが思いがけず手に入ったのはびっくりでしたが。
Janeさん、またそちらでの日本食事情を教えてくださいね。