カリーナさんの本
一日遅れのなんかすごい。
ずっぱり頭から抜けておりました…。何度目だよ。
このうっかり具合、自分が本当におそろしい。銀杏葉エキスを飲むべきだろうか…いやそれより脳スキャンを…。
実はちょうど昨日、カリーナさんとツマミさんと3人でメッセージのやりとりをしたのだった。
そんで、あー、鍋でも囲みてえ、と言い合ったあとに、3人の夕飯がはからずも全員カレー!ということが判明!(カリーナさんはチキン、ツマミさんはシーフードと舞茸、私はミートソースの残りをカレーに転用)
こりゃあ、3人で鍋囲んだようなものだね、となった。(そうか?)
そのとき、私の頭の中に翌日の投稿がこれっぽっちもなかったなんて、おしゃかさまでもご存じない。
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さて、なぜおとといお二人とやりとりをしたかというと、ある嬉しいできごとをお知らせしたくて、私がメッセージを送ったのです。
私は公共図書館で働いているのですが、おととい週に1度の選書会議があった。その週に買う本を、会議で話し合って決めるのである。
通常選書の方法は2通りあって、ひとつは見計らい、もう一つは新刊案内というのがある。
「見計らい」というのは、文字通り本屋さんが「こんなのあんたとこで入れないかね?」と「見計らって」新刊の見本を送ってくる、その実物をみて選ぶ。
「新刊案内」は、図書館に配本をする取次会社が、その週に出たすべての(ほんとうにほぼすべての)本が載っている冊子を毎週発行していて、そこから選ぶ方法である
新刊案内を発行している取次会社はいくつかあるのだが、公共図書館界で圧倒的シェアをほこっているのがT社の「週間全点案内」で、うちの図書館もそれを使っている。
おととい見た号が、ちょうどカリーナさんの著書『夫が倒れた!献身プレイが始まった』が掲載されている号だったのだ。
そして、それだけでなく、カリーナさんの本には、注目の一冊を示す★が付いていた。しかも3つも!
『週間全点案内』は、本の紹介の仕方に独自の工夫があって、著名な作家の新刊や、今話題のトピックスなど、言っちまえば売れそうな本、図書館が絶対に買うだろう本は巻頭に、小出版社の少部数のものや、ラノベや官能小説や楽器のコード本などは後半に持ってくるなどしている。「書評に載った本」などのページもある。そして、多くの本は写真付きで、簡単な紹介文とともに掲載されており、ときどき「注目の本」を示す★マークがついている。
星の数は、1から3。カリーナさんの本には、もう一度言うが★が3つ付いていた。
これを見た私はひそかに興奮した。★★★星3つ!
T社がどうやって★をつける本を選んでいるのか、明確な基準はわからないのだが、おそらく内容と、時事性や話題性、著者の知名度、出版社のオシなどから総合的に判断していると思われる。
そして私の経験からみるに、初の著作で★3つというのはけっこうめずらしいことだ。
データを作る人たちは、じっさいに本の実物を手にして作業していると聞いている。この本が、新聞連載に端を発して出版されたという事前情報も得ていただろうが、大量の新刊を短い作業時間で登録していくなかにあっても、やはりこの本が発する熱量が、彼らに★をつけさせたのだな、と思わずにいられなかった。
こうした「全点案内」の工夫は、私たちにとってはありがたいと同時に、あらかじめT社によってバイアスがかかっているということでもあり、評価がわかれる部分ではある。でも、経験を積んである程度の選択眼を持った者が、そのリスクも踏まえて参考にするにはとても役に立つ情報ツールで、特にこの★の付け方については、私個人はかなり信頼を置いている。
しかももうひとつ嬉しいことは、おとといの時点で、すでにこの本、図書館で購入していた。そして、予約が何人も付いていたのだ。
このことは、図書館が購入を検討する前に、利用者さんからリクエストが入ったか、「見計らい」で本が届き、購入が決定されたかどちらかということを意味する。
前者なら、利用者さんが事前になんらかの形でこの本が出版される(た)ことを知り、読みたいと思ったということだし、後者なら、私の同僚が、本の実物を手に取って内容を確認し、図書館に入れたいと思ったことということで、どちらも嬉しいし誇らしい気持ちだ。
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……ということをカリーナさんと、私の元同僚で元公共図書館員、つまり全点案内のことをよーく知っているツマミさんに、知らせたかったのです。
森で木イチゴのいっぱいなっている場所を見つけたクマみたいに、「おーい、こっちこっち、見てご覧よ!」と。
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ついでに、と言ってはなんだけれど、本を読んでカリーナさんに送った感想を、こちらにも載せてみます。(これはツマミさんがこないだの記事で書いたのの真似)
ほぼ同様の内容を、あまぞのレビューにも書いた。あまりに私的すぎるかなとも思ったのですが、この本について言いたいことは、みんなここに書いたしな。
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カリーナさま
ついさっき、本を読み終えました。
ほんとうは2日にもう手に入れていたのに、今は落ち着かないから、時間がちゃんとあるときに、といっては、先延ばしにしていました。
正直、読むのが少し怖かったからです。
カリーナさんがこの2年間くぐり抜けてきた現実を、直視したくなかった。
読むことで、揺り動かされることがこわかった。
そして、カリーナさんの体験、カリーナさんだけのものを、まるで自分に引き寄せて、まだ起きてもいない未来を見るような気持ちで読んでしまうだろう自分の浅ましさがいやだな、という気持ちもありました。
でも、そんな自意識過剰のつまんない感傷をふっとばし、何よりも言葉の力に圧倒されました。
この本の唯一無二さを決定づけているのは、カリーナさんが葛藤のはてに到達したもの、伝えたいこと、それはもちろん大前提なのですけれど、自分を、他者を、状況を観察し、分析し、言葉におきかえた、その、言葉に変える力量のすさまじさだと思いました。
起きたこと、そのときの自分の目にうつったもの、通り過ぎていった感情、表面を覆うものと沈殿したもの、絶望、不安、怒り、みじめさ、愛おしさ、滑稽さ…
自分が選んだ言葉は、それを語る順番や熱量は、それらを正確に表現しているか。複雑な溝を構成し、しかもつねに形を変え続ける心情を、ぴったり合う歯の詰め物を作る腕のいい歯医者か彫刻家みたいに、薄く削ったりわずかに肉付けしたりして、形づくっていく。
そこには、徹頭徹尾、他者の目線や価値感が入り込む余地はありません。ひたすら、カリーナさん自身に正直なだけです。でもその「だけ」=「これしかない」言葉の「だけ」が、どんなにか、立場も境遇も違う他人の心の溝に浸潤していくことか。
カリーナさんの本を読んで、自分の気持ちをこんなにも代弁してくれた、と思う人達はきっとたくさんいるけれど、ほんとうはその人たちの数だけ、千差万別の「だけ」は存在する。
でも、それを言葉にするためには、おそらく才能と、書き続け、言葉を練り続けるという鍛錬がなくてはなりません。
カリーナさんがこの本を通してしてくれたことは、言葉を突破口にした認知と共有を、その「技」を駆使してしてくれたということだと思う。
そこかしこで、周りや自分の中の呪いの言葉に押しつぶされそうになっている人々がいて、その人に向けて書きたいと思ったときに、カリーナさんは、始めから終わりまで、自分のこと「だけ」を書くことがそれをすることになると本能と経験で知っていた。
そして、自分がもがきながら獲得した言葉を、他者と共有することになんら躊躇がなかった。
そのことが、本当にすごいことだと思いました。
私は、本文中でカリーナさんがふと突き放すように書いた、「私以外の誰がそんな細かい心の襞までわかるというのか。」という一文が好きです。
勝手に推し量るなよ、そちらの幻想やセンチメントを押し付けてくるなよ、と反撥する、好意だからっていつもありがたがらなきゃいけないのかよ、と思う、と同時に、ふっと「人の気持ちなんか、わかるはずないよなあ…」と思う。そこには、他者への共感と、真っ暗な淵を覗き込むような深い孤独の両方を感じます。
そして、そこには「自分も他人の気持ちなんてわかっちゃいないんだ」という自己に潜む残酷さを見つめる視点もあると思うからです。
書くことは、まさしく芸なのだなと思う。
そして、技術は人を自由にする。自分だけでなく、ときには他人も。
あと、やっぱりカリーナさんは正直で誠実で優しくて超いいやつで、大好きだな!と思いました。
最後子どものような感想になった。
真夜中に書いているので変な文章になりましたが、今の気持ちを送ります。
はらぷより
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最初の写真で、カリーナさんの本と一緒に写っている本
『猫はあくびで未来を描く』猫新聞監修 竹書房 2020.8
唯一無二の猫の新聞、猫新聞監修のアンソロジーです。生きている猫も死んでしまった猫も、猫と生きるということが、39人それぞれの筆致で書かれているすばらしい本。
by はらぷ
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※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。
※はらぷさんが、お祖父さんの作ったものをアップするTwitterのアカウントはこちら。
Jane
オバフォーの記事スケジュールは把握しておりませんが、昨日は、なにかが足りない、大きなものが、という気がしました。
そして私も、昨日はチキンカレーをつくりました。(月に1回くらいしか作らないから、結構な偶然でしょう!)昼食でしたがね。でも時差を考えれば、ほんの数時間の差だったはず。さすが、カレー仲間だな….。いや、ほんとその時カレー短歌に送ることまで考えていました….。
今はただ 食べれる分だけ 作るカレー
(昔は多めに作っていましたが、今は残ったのを食べる大食いの息子もいないし、自分で翌日食べるには胃がもたれるので、カレーは月1でいいよ、という心境)
カリーナさんの本へのコメント、アマゾンのあのページの中でどう見えるのか、見に行ってしまいました。私は数年前、友達の書いた本にレビューをアマゾンに書きました。最大級の賛辞を書いたつもりですが、その時「他のレビュアー(他の本へのものを含め)は平均どのくらいの分量/熱量で書いてるの?」とか気にして、結構、字数や個人的感情を抑えて書いていました。そういうつまんない枠を超えたはらぷさんのレビュー、なんかすごい!はらぷさんのうっかりぶりにも、大物感あり。
はらぷ Post author
Janeさん
こんにちは。
わーわー!Janeさんもカレー仲間!
あの日ov40かいわいで、局地的カレー現状が発生していたのか…。
海を超えて、我らカレー・メンバーズ。
しかし、私もカレー大好きなんですが、年々カレールウが体に重く感じられるようになりました。
当日のサラサラ系はいくらでも入るんですが、翌日ドロドロになったのがきますね…。
とくにじゃがいも入れるとダメ。
アマゾンのレビュー、そう、そうなんですよ!他のレビューとのバランス!
今回はじめてやってみたのですが、投稿した後に確認したら、そのことに気付いてギャーとなりました。(先に気付けよ)
ちょっと恥ずかしくてあれから見に行ってない(笑)
でも、ある人に「個人的なレビューでないと人の心は動かないと思う」って言ってもらえて、そうかと思いました。
自分の思いを書くことと、「まだ読んでない人に伝える」ことは、重なっているようで違うし、レビューって難しくて面白いですね。
つまみさんとコメさんのレビューは、そう言う意味でやっぱりさすがだなあと思いました。