第17回 海獣の子供
『海獣の子供』は、6月7日に全国公開されたばかり。五十嵐大介の漫画(2006~2011年)が原作。アニメーション制作はSTUDIO4℃。
音楽が久石譲、テーマ曲が米津玄師、主演声優が芦田愛菜。ずいぶん豪勢だね!ぜひ見に行かねば!いそいそと出かけましたが、意外にこじんまりした終わり方。よくある感じの宇宙の画があったけれど原作ではどう描かれてるの?と、読んだところ…
海獣ジュゴンに育てられたと言われる子供「空」と「海」の物語だと思いますが、映画は、中学生琉花(ルカ)の物語として描かれています。彼女を中心に脚色を加えて、きゅきゅっとまとめられていました。一番のキーパーソンだし、全世代が見る作品だし、そうなりますか。
==
幼いころ水族館で、水中で光となって消える「幽霊」を見た琉花。父親の勤める水族館で彼らと出会い、海に誘われ、生命の秘密の一端を担うことになります。
「空」と「海」は何処から来たのか。「空」と「海」とは何か。「空」と「海」は何処へ行くのか。そしてこの夏の海のざわめきは何を意味するのか。彼らと関わる研究者たちも、彼ら自身もそれを知りたい。
原作では、登場人物、彼らの居場所、彼らの過去と現在を行ったり来たりする中に、海にまつわる歌などの伝承・証言(あるいは事件)と、生命誕生に関係すると思われるいくつかの学説(あるいは通説)がちりばめられています。そして「海獣の子供」である「空」と「海」は、映画より不穏な雰囲気をまとっているし、琉花の体験も深い。
生命誕生のシナリオ、命の連鎖や広い範囲の物質循環など、この種の生態系の話は壮大で大好き!(言葉にすると小っさ!笑)
==
そうだ、今回の琉花の映画をつかみにして、「空」と「海」を研究・保護する海洋生物学者ジムと、天才海洋学者アングラードの物語を加えてもらえると、とても嬉しいなあ。「海獣の子供」は、三人とはそれぞれ違う距離で接しているので、三部作になると、原作の自然に対するスタンスというか、視点が色濃くなるのではないかな。
深海の熱水噴出孔や泳ぐダイオウイカを、私たちはテレビで見ることができますが、4K/8Kカメラとて広い範囲の水中を画面に映し出すことはできないし、クジラが泳ぐところを人間がすぐそばで見ることはできません。本作では、原作者のイマジネーションとアニメーターの技で、海の、雨の、水中の生き物のさまざまな質感や量感を画面いっぱいに見ることができました。ぜひ続編を作って、海の中をもっと見せてほしいです。(まだ言ってる)
この夏は海にいこう。海に行けなくても水族館に行こう。と、街の住人は思うのでした。
===
先日BSで放送されましたが、話題のあのヒトのパートナーのお芝居が圧巻の『鉄コン筋クリート』、映像表現の面白さ全開の『MIND GAME』など、STUDIO4℃制作のアニメーション映画は、原作漫画の癖のある絵柄が、動いている!と驚く作品ばかりです。
===
*アイキャッチ画像と動画は、当該作品の公式HPより
米津玄師の『海の幽霊』は、(私の持つ)原作のイメージに近い!