ああ、お買い物。浪費と消費のあいだ
口紅を買った。通販で買った。口紅を買った。失敗だった。その日の夕飯はチキンだった。
ここのところ顔色が冴えないのが気になっていた。寒さのせいとも言えるし、加齢のせいとも言えるし、メンタルのせいとも言える気がしていた。台所の壁に姿見を置いているので、台所に立てば否が応でも自分の姿が見える。この鏡を撤去するか口紅を買うかで迷っていた。
手持ちの口紅がなくなったので、同じものを求めようとお店に足を運んだ。同じものは廃番になっていた。
お店の方は今春の新色やら今人気の色やらを見せてくれたけれど、単体の「色」として素敵なそれらの色は、わたしの顔にはちぐはぐなことはすぐにわかった。お店の照明がきつすぎて、ここで試しても実際の色はわからない気もした。「また今度にします」と言ってお店を出た。
色を選ぶのは実際に手に取ってでさえ難しいのに、ふらふら~と前から気になっていたあるメーカーの通販サイトを見た。「ブラウザの表示の色と実際の商品の色が異なる場合がございます」という注意書きを読みつつも、頭が「口紅 口紅」とささやき続けた。
コライユとかアプリコットとか こころ踊る言葉に2本の口紅の購入手続きをした。
失敗。慎重に慎重に選んだつもりが、手元に届いた2本の口紅はわたしの思い描く色ではなかった。
ああああ、なんでこんなお買い物をしちゃったかなーと気持ちが沈み込む。そればかりか、ここのところの自分の「買い物力」の衰えを感じて冬空を胃の腑に吸い込んだような気になる。
そうだ。そうだ。わたしは最近、「自分の買い物」をしていない。だからだ、だからだ、おかしなタイミングでおかしな買い物をしてしまうのは。。。
シュジンは「買い物」に喜びを感じないひとだ。だからと言って、わたしの買い物に口出しをすることはない。「だったらいいじゃない」という友人がいるけれど、「だから困るのよ」とわたしは返す。
数か月前、「カメラが欲しいので、カメラを買うわ」と言ったわたしに、シュジンは言った。「カメラで何を写すの?」
シュジンの発言に他意はない。シュジンの様子は、梅干を食べて、種を残すのとまるで変わりはない。「何を写すか」と素朴に問われて「これこれを写す!」と言えるほどのわたしに大義はないので、結局このはなしはシュジンの波にのまれたことになる。
いいのか?いいのか?とわたしは思っている。買い物に喜びを感じないシュジンに、買い物に喜びを感じるわたしはのまれている。シュジンはちっともそんなことは言っていないのに、「買う」とか「消費する」という自分の行為に何かぺったりとした罪悪感めいたものがつきまとう。
巷では「専業主婦が自分のための買い物なんて」という風潮もあるらしい。こういう風潮にもの申したい気持ちはやまやまだけれど、現実に日常の中で、「自分のための買い物」に何の抵抗もないかというとそうではない。
こんなはなしをすると実家の母などは、高らかに笑う。「あーた。何を情けないこと言ってんの。あーたは主婦であることをそんなに悲観してるわけ?あーたそれでいいわけ?違うでしょう。家族の一人一人に今と将来が大事なように、あーたにだって今と将来が大事なはずでしょう。家族のみんなに今の年齢が一回きりであるように、あーたにだって47は一回しかありません。何に遠慮することはない。あーたは主婦として胸を張って堂々と自分のものを買えばいいんです!」
期待外れな口紅が届いたその日、大学受験生の息子さんをもつ友人から電話があった。「まったく、わかっていたこととはいえお金がたいへんなのよ。うちなんてほら介護もあるし。よそのおうちがそれぞれどうやってるか。そこんところ、ほんっとに知りたくなるわ」
昨日の午前中、たまたま国会中継のラジオをつけていた。わたしは台所の姿見をハーハー息を吹きかけながら磨いていた。しょーがない。しょーがない。とんでもない指輪を買っちゃったとか、むかしはやんやとCMで流していたスイートテンなんとかをねだったとか、そんなんじゃないんだから。口紅2本は、小さなものよ。。。
つけっぱなしのラジオの中で質問に立った議員の声が耳に入った。「 わたしの知人の宝石店店主に聞きますと、高額商品はバブルの頃と変わらない勢いで売れているのだそうです。ところが、高額ではない、まあ、お手頃な価格の商品は、これが全く動かないと…」
なんとまあ、俗なはなしをあの天鵞絨張りの国会でなさっているものよと思いながら、鏡を磨いて落ちつかせたはずの気持ちが再び波打った。みんなみんな、ひきしめているのだ。。。
シュジンよ。わたしはここに、お買い物に失敗したことを白状します。まことに申しわけない。だがしかし、「カメラが欲しいって何写すの?」という言葉に代表されるようなあなたのその「消費行動」に対する淡白すぎる感覚にも、わたしはほんとはきちっともの申したい。もの申したいけれど、あなたはいろいろ忙しそうなので、今は目をつむることにする。今日のところは以上。
たまたま読んだ小島慶子さんの「専業主婦の覚悟」というエッセイがおもしろかった。http://p-dress.jp/articles/-/315
これには彼女一流の揶揄も漂わないでもないけれど、「覚悟」という言葉と最後のくだりがすばらしい。
「主婦」であるとか「消費」であるとか「社会のしくみ」であるとか、そういったことをじっくり考えたい気持ちがわたしにはある。そしてそこへ、いずれの日にかあのシュジンも同席させたいと思って、今は鏡を磨いている。
青緑
こんにちは。
正月明けた頃、期間限定口紅3本セットを購入しました。年末にデパでお姉さんに勧められ1本購入したにもかかわらず。日によって、顔色が違うのか似合わない日があるんですね。期間限定物はなかなかお得だったんですが、結局1本しか使ってませんの。でも、重ね塗りをしたり、単体で使ってみたりその日の気分でやってます。サヴァランさん、グロスやリップを重ねるといい感じになるかもよ。
Tomi*
口紅を通販で買うのは難しいですね〜 賭けです(^w^)
オークションもそうですね。
当たりだとめっけものだけど、外れると凹みます…
私も自分の収入はゼロなので、出所は全てPAPAのお給料です。
自分のものを買うことが続くと、やはり罪悪感のようなものを感じます。
なので、合間にPAPAのものもポチッとして「PAPAに似合いそうだったから」なんて言って喜ばせて、後ろめたさを誤摩化しています。
小島慶子さんのエッセイにドキッとしました!
まさにPAPAに何かあったら私は生きていけないのです。
時々「過労死」とか考えちゃって怖くなります。
nao
こんばんは
私も気に入らない口紅は、他の色のと混ぜ混ぜして使います。
土左衛門みたいに見えるベージュも、お前年はいくつだと言われそうな可愛いピンクも
適当に混ぜるとあら不思議、結構いける(と思います)。
ご主人から言われる「カメラで何うつすの?」という言葉、わかります。
うちもよくそんな言われ方してる。何ででしょうね?
しかし、うちの場合彼もうちではあまり使いでのない車を欲しがったりするので
単に私が欲しがっているモノに興味がないだけなのかもしれませんが。
七蓮しずく
サヴァランさん、コンバンワ。
深夜ですが、つい…≪ある。ある。≫と、うなずいて書き込みしたくなりました!!
なんとなく買った口紅が、予想と違って『んんん!??』って事は、ありがちですよね(苦笑)。
私も、上の青緑さんと同じく、思った色味でなかった口紅をゲットした場合、落ち込まずに、考え方を変えて、他の口紅や、色付き薬用リップや、グロス等で、グラデーションっぽくして、下の自分なりの使ってました。
☆使い方の参考☆
1)唇の輪郭に、少し明るめの使い慣れてる色味を使用。
2)唇の内側に、思った色でなかった口紅をポンポンとのせる感じで使用。
3)後は、間を使い慣れてる色味で、グラデーションになるよう馴染ませます。
↑
これで、そんなに違和感がなくなるのではないでしょうか?
少しでも役立てれば、いいなぁ~っ。
くるりん
はじめまして。
口紅、絵の具だと思えばいいのではないでしょうか?
他の方も書き込んでおいでですが、色味を混ぜたり重ねたりして、理想の色に近づけて使えばいいと思います。
市販品ってその時々で流行の色一辺倒になりがちですから、自分に似合う色が見つかりにくいことってありますものね。
ファンデーション、髪、瞳や眉、身に着ける服などの、色…それぞれとの相性、その時の体調による顔色。
気に入った色ですら、似合う日も似合わない日もあると思います。
…お店でお試しになる際、手の甲にテスターを塗って、お店の外でもう一度顔のそばに寄せて見てみる…のもわかりやすいですよ。
自宅より外で人に見られることが多いので、外で似合うかどうかを試すのをおすすめします。
最期に。対象に関心のない人の一言、核心をついていたりしますよね。
その一言に揺らいでしまうのは、多分…相手のせいではないのでは、と思います。
サヴァラン Post author
青緑さん こんにちは。
コメントありがとうございます!
ね。ね。「口紅熱」が上がるときってありますよね。
「わたしの口、ひとつやのになんで口紅たくさんいるねん?」と
自問をしながら、「口紅熱」という乙女心が熱を帯びる。。。
「期間限定」も乙女心を刺激する。。。
グロスやリップで新色づくり、やってみます!
サヴァラン Post author
Tomi* さん
コメントありがとうございます!
そうなんです!そうなんです!通販で口紅なんて暴挙です!
リピート買いならわかるけど、お初の色選びをネットでなんて~
あのとき、わたしの何がポチさせたのかさっぱりわかりません(-.-)
賭けに負けました。撃沈です。(-_-)zzz
「自分の買い物」
Tomi* さんも抵抗ありますか。後ろめたさの解消、ついつい考えちゃいますよね。
自分の買い物で失敗すると、「自分の収入なら良かったのに。。。」と思います。
一人の収入にに頼っている家計の脆弱さ。
口紅の買い物と大矛盾ですが痛感しています。
でも、どこかで「うちはこれでいい。これでいくんだ!」と
腹を括っている気もします。
これも大きな賭けですが、大きな賭けには馬力が出る。
太っ腹で行くぞ!!と思ってます。
サヴァラン Post author
nao さん こんにちは。
コメントありがとうございます!
ベージュ系、鬼門ですね~。一気に体調悪いひと、になれちゃいます。
ベージュもピンクも、ちょっとした色味の違いで顔映りが違うんですよね。
みなさんにお知恵をいただいて 買い物の失敗から立ち直りつつあります。
「カメラでなに写すの?」という類の発言。
本人はゼンゼン悪気はないんですよね。
「今日の夕飯なに?」とまったく同じテンションで聞いてきます。
温度差がありすぎて、「欲しい熱」が音を立てて平熱に。
これ、作戦かいな?と首をひねることもときどきです。
サヴァラン Post author
七蓮しずく さん こんにちは。
コメントありがとうございます!
ありますか?ありますか?なんか、ウレシイです~。
わたしの場合、往生際が悪いんでしょうね。
今回、「なんじゃこりゃ?」という色が届いたときも
「いやまて。もしかしたら実際塗ってみたらOKかも」と思ってました。
塗って見て、「あっちゃ~」と思っても
「いやまて。光の具合が違うとすてきかも知れない」と思って
家の中の光の具合の違う場所を手鏡を手に移動して回りました。
今回は、一番マシに見える洗面所で敗北を認めました。
「こ、この色は、美空ひばりに捧げたい色だ…( 一一)」
でも!
☆使い方☆、くわしく教えてくださってありがとうございます!
肌と唇の境界の作り方でも、かなり見え方が違いますよね。
口紅リベンジ、みなさんお知恵が豊富で助かります!
サヴァラン Post author
くるりん さま はじめまして。
くわしいアドヴァイスをありがとうございます!
そうなんですよね。口紅の映え方って、いろんな条件が関わってきますよね。
雑誌でよく、「40代以降にお薦めはこの色!」などという紹介がありますが
「40代以降」の万人にどんぴしゃりの色っていうのはたぶんありえないハナシ。
(ああ、本当に、なんで通販なんかで選んだんでしょう。。。)
今度、お店で選ぶときには「お店の外」で色味を見る意気込みで参ります!
胸から上の至近距離で見るのと、雑踏の中の遠距離で見るのとでも違う気がする…。
たかが口紅。されど口紅。
体調や着るもの、出かける場所。さまざまなものとの対話がいるのかも知れません。
「口紅の失敗はいたいな~。煮るわけにも焼くわけにもいかないし~」などと
おかしな凹み方をしておりました。
「口紅は絵の具♪」のおことばどおり、手持ちのものとの色作りもあれこれ楽しんでみます。
>対象に関心のない人の一言、核心をついていたりしますよね。
同感です!わたしはいつもシュジンからこれをやられて絶句します。
絶句するということは、わたしのほうに確信がないからだと、絶句のダブルです。。。
爽子
美空ひばりに捧げたい色だ!で、お色の全容を見た気がするのです。
それは、なかなかに手強い。うん、手強いぞ。
皆さん、いろいろと技をお持ちだと感心しながら、コメントを読んでました。
わたしも、新しい口紅を買ってみようかと、乙女心がぽっと^_^
そういえば、何十年も前に、春咲き小紅というのがありましたね。
大学時代だったような。
サヴァラン Post author
爽子さま
春さき小紅見に来てね♪
覚えてます~。駅のポスターでもよく見たなー。
あの頃、ブラジャーの新作CMなんかも賑やかでしたよね。
「美空ひばり」でご理解いただいて
うれしかです。
これ塗ったら、「悲しい酒」か「柔」でも歌わんばならんばい!
って感じの ひばり色です。。。
あ。ひばりファンの義母にもらってもらおうか!(←ああ黒嫁)
買い物で失敗すると、なんとかブツを抹消したくて。。。
いけませんね。こういう発想。
爽子
案外喜ばれるかも知れませんよ。
両お母様にいかがでしょう。
遠くからでも、唇の形だけクッキリ見えそうですからね。ひばり色は。
まぜまぜ作戦は、完全消費に長期間を要しそうです。
なんて、どす黒いこと書いちゃいますが。
ちゃんとした口紅から遠ざかって、何十年も来てしまいました。
デパートの化粧品カウンターにも、長いこと行ってません。
ドラッグストアの化粧品ばかり使ってるので、いっちょ張り切って、YSLの口紅をゲットしてみようかしら。
化粧品カウンターから足が遠退くのは、おねえさんとのやり取りに、煩わしさや疲れを感じるからなんですが…。
サヴァラン Post author
爽子さま
義母は喜んでくれそうです。
実母には傷口に塩を塗りこまれます(笑)
この口紅
なんでもテクスチャーがソフトだとかで
リップバームに近いという触れ込みだったので
その「シアー」加減に期待したのでした。
デパートの化粧品カウンター
ほんとに年々面倒になります。
至近距離で差し出される鏡にも
パカーーンと明るすぎる照明にも閉口。
おねえさんとのやりとりも
ついつい自虐に走り出してしまって疲労が免れません。
そして今、わたしのpcのブラウザには
あちこちのメーカーの口紅の広告が。。。
ドラッグストアがいちばん静かに選ばせてくれる!
今回の失敗の教訓です。