in her SHOES ~ おばばは何を考えて? #5
~ 16年振りの帰郷。どさりと送られてきたおばばの靴たち ~
日曜、おばばから電話。
「もしもし?あたくしよ!あたくし!
あのね。あーたに用じゃなくて、たろうに用があんの!
あ、たろうくん?
あなた先週の日曜は、おかあさんと揉めて
『は~、波乱万丈です』って言ってたじゃない?
ばあば、あれが気に入っちゃって。
で?今週はどうなの?
今週はどうなのかな?と思って電話したんだけど?」
娘と孫のいざこざを
外野で面白がる祖母。79才。
そうだ。
先週の日曜は、朝から掃除のことでたろうとケンカをしたんだった。
わたしの注意に、短気だのエゴだのとたろうが屁理屈を言うので
わたしはその後の二人での外出の予定を反故にして
一人で地下鉄の駅まで行き、駅のホームでおばばに電話をして
ことの顛末を話したんだった。。。
「ま。
あーたの言ってることにも
たろうの言ってることにも一理ありってとこね。
あーたの怒りが収まるまでは、
一人で美術館にでも行ってきなさい。
その頃にはあたくしも出かける準備ができてるから
電話をくれればどこかでお茶でもすればいいでしょ」。
おばばは、その間に、たろうに電話をして
「波乱万丈」のセリフを聞いたということらしい。
あの日、
待ち合わせの場所に現れたおばばは。。。
おしゃれだった。
「あのね。たろうくんの『波乱万丈』ってセリフ、
ばあばは、だ~い好きだから、また波乱万丈になったら
ばあばんところに電話をしてきなさいね」。
火曜、髪を切りに行く。
タートルネックは、カットの邪魔になるので
おばばのお古のワンピースを着て行った。
このワンピース。美容師さんたちに褒められた。
特に後ろが凝っていると言って、感心された。
この30年前のワンピース。
たしかに、凝っている。
一見、なんでもないようでいて
よく見れば、かなり凝っている。
おばばはこのフェラガモのワンピースを
「バックシャンのワンピース」と呼んでいた。
「バックシャン」なんて。
今どき、通じますかいな。
「あのね。
それ、おっきな肩パットがついてたでしょ。
でも、あたくしが自分ではずしたわよ。
それで、そのままだとアームが太すぎておさまりが悪いから
お袖の下のところをつまんで、おさまりを良くしたわ。
クリーニングにそのまま出したから
どうなるかな?と思ったら、
ま~、上手にアイロンをかけてくれるわね~。感心したわ。
こいうところが、古くて信頼できるクリーニング屋さんのいいところ。
な~んにも考えないで、ジューってただアイロンをかけたりはしない。
お洋服のこと、ちゃんとわかってるってところが何より大事。
ただ洗う。ただプレスする。そういうお店には出したらダメってこと。
それにしても。
ね~。ごらんなさい。あたくしって、やっぱりこういうこと上手ね~。
自分で、こうしたい!と思う所は、ひとまかせにはしないものよ。
自分の手で、自分の思うように、びみょ~な手加減をしていくのは
結局、自分の感覚が頼みだし、自分でするしかないってこと。
ひとまかせでは、びみょ~なところまではうまくいかないもの。。。
ちょっと!
あーた。わかってるの?
ったく。なんでもひとまかせは考え直しなさいね!
すこしはあたくしを見習いなさい!あたくしを!」
ひとこと、ふたこと
いやいやかなり。
「あたくし」語りはセリフが多い。
でも、まあ、たしかに。
おばばはこの手の「DIY」がうまい。
わたしの七五三のときの紅絹のしごきは
その後、中に綿を入れて真っ赤な丸ぐけの帯締めになった。
実家の台所の改装のときは
職人さんが、珪藻土を壁に塗るのに、
「もっと素朴な感じにしてくださる?こんなふうに鏝目を残して」と言って、
自分でじゃんじゃん壁塗りをして、
職人さんをあっけにとらせた。
一事が万事おばばはこうだ。
自分が「これ」と思う方向へ
口より先に自分で動く。
おばばのこのワンピース。
わたしの友人たちは今でも話題にすることがある。
「あんたのママのあのワンピース。
あれ、かっこ良かったよね」。
「あのね。あーたがあのワンピースを着るんなら
ヒールの細いハイヒールはやめなさいね。
あの洋服に、ハイヒールは老けるから。
あのワンピースには、低いかかとの靴。
その方が、若さがあって絶対にいいから!!」。
譲ったワンピースに合わせる靴まで
あれこれ指示出しするのはどうかと思うが
わたしはそもそもハイヒールなんて履かないし、
そんな持ち合わせもないので
「おばばのお古ワンピース」には
「おばばのお古シューズ」ということになる。
「そうだ。あーたんところにあげたお靴で
ヒールが凝ったお靴があったでしょ?
黒のエナメルで前にグログランリボンのついた。
あのワンピースにはあのお靴がいいわ。
ワンピースがバックシャンだから
お靴も少しだけバックシャンがいい。
そうだ!そうだ!
あのお洋服を着るときにはあのお靴になさい!
いい?わかった?聞いてんの?あーた!!」
おばばがこの洋服を着ていた時期
おばばにとって、つらいことが多かったのをわたし覚えている。
それでもおばばは、「バックシャン」であろうとしていた。。。
なんかしゃん。ほんっと、おばばはいちいちうるさいでいかんわ。。。
( 名古屋弁:なんだか知らないけど。ほんとうにおばばはうるさくていけないわ)
本日のお題 * もしもし、おばば。「バックシャン」は今や古語です。
【サヴァランのやさぐれ中すday 】更新予定~
第1火曜 …「もってけBENTOU」
第2火曜 …「サヴァランは見た!」
第3火曜 …「おばばの靴」
第4火曜 …「やっぱりおやつ♡」
いつでもどこでもやさぐれサヴァラン♪
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