ゆみるからカリーナさんへ 2023年4月12日
これは昨年、カリーナとゆみるがメールで交わした往復書簡です。
カリーナ様
お返事を書く間に季節がまた進んでしまいました。私が今住んでいるオフィス街は、結婚後25年間住んでいた下町よりも街路樹やビルの植栽などの緑がずっと多いのです。「山笑う」という春の季語が私は好きなのですが、風に揺れる新緑の街路樹や小鳥たちのさえずりに春を迎えた街はクスクスと笑っているようです。
前回頂いたメールではお気を遣わせてしまいすみません。そしてありがとうございます。職業についてですが私は看護師をしています。結婚して子供が出来るまでの腰掛のつもりで、前の病院で一緒に働いたにゃんこ先輩に紹介してもらった今の病院に転職したのですが、結局子供も出来ずそのまま30年近く働いています。
看護師としては35年くらいの経験がありますが、慢性期や終末期の病棟や病院では働いたことがありません。それがまた後悔の一つになっています。終末期の経験があればもう少し夫の事をよく看てあげられたのではないかと。ただ症状が現れて亡くなるまで1か月もなかったので正解はわかりませんが。
夫の病名が解った2日後に入院のため仕事を休んで付き添って行ったのですが、いつもの朝の出勤のように2人で歩いて駅に向かい、駅のホームのいつもと同じ場所から電車に乗りました。
通勤時間を過ぎていたので電車はそれほど混んでいなくて、入り口の近くに一人分の席が空いていました。夫はいつもレディーファーストと言って私を座らせるのですが、この時も具合が悪いのに私を座らせようとするので、渋る夫を無理やり座らせたのです。結局夫はこのあと生きて自宅に戻ることはありませんでした。
入院の朝の事を書いた理由は、夫が亡くなって仕事に戻り通勤するために電車に乗ると、この時のことを思い出して涙が止まらなくなってしまったから。そのうち落ち着くと思ったのですが、落ち着くどころか電車に乗り続けることも出来なくなりました。その結果、電車に乗らなくて済むように職場の近くの今のマンションに引っ越したのです。
私の場合、引越は正解だったと思います。少なくとも朝から夫を思い出して泣くことはなくなりましたし、おまけにお腹が弱くていつも下痢気味だった猫の調子も良くなりボサボサだった毛並みもふっくら柔らかくなりました。転地療法という感じでしょうか。
そんな話をにゃんこ先輩にしたところ、にゃんこ先輩もお父さんが亡くなって割とすぐに実家を建て替えたのですが、にゃんこ先輩のお母さんも家を建て替えたおかげで気持ちがずいぶん楽になったと話していたそうです。
カリーナさんもご主人が入院されてからしばらくして、お部屋をリフォームされていましたよね。人は自分の決断や行動を肯定的にとらえがちなので、カリーナさんの住環境を変えたことについての感想も伺ってみたいです。
この前の日曜日に近くの交番の若いお巡りさんが巡回連絡カードを持って訪問してきました。玄関先で記入して渡すと、「ああ〇〇病院にお勤めなんですね。よく病院の場所を聞かれます」と言われたので、「お世話になってます!」と言って敬礼するとお巡りさんも笑って敬礼を返してくれました。日本は平和ですね、ありがたい。