ゾロメ女の逆襲

【月刊★切実本屋】VOL.102 悪との闘いのあとに残るべきもの

「自由研究シリーズ」(またの名を「ピップシリーズ」、あるいは「”向かない”シリーズ」)で知られるホリー・ジャクソンのノン シリーズ『夜明け前に誰かが』を読んだ。

自由研究シリーズは、本国イギリスは言うに及ばず、世界的にも評価が高いようで、日本も例外ではない。海外ミステリーのランキングに、今までこのシリーズの複数の作品がランクインしてきた。10代ピップの、イマドキのクレバーさと正義感と無鉄砲さが魅力で、わたしもハラハラドキドキワクワクヒリヒリして読んできた。

今回、そのピップは登場しない。文庫本の裏表紙のあらすじ(別名ウラスジ)によれば、ヒロインであるレッドを含む10代中心の男女6人の乗ったキャンピングカーが夜遅く、人里離れた場所で何者かに狙撃され、6人は車内に閉じ込められる。狙撃者からの指示は、6人を最大級の疑心暗鬼状態に陥れる内容で、実行猶予は夜明けまでなのだ。

本編に入る前にこのウラスジを読んで、現在の自分は、ハードで心理的駆け引きもありそうなミステリーに耐えられるだろうかと思った。でもまあ、読んでダメなら止めればいいわけである。そこは本当にそうなのである。で、実際に序盤を読んでいるときに身内の不幸があり、一度止めた。そりゃそうだ。ずっと頼りにしてきた義母が危ない、ああ、今回は‥というときにサスペンスは読めない。

告別式が終わって落ち着いて一応再開したものの、前半は遅々として進まなかった。ウラスジで途中までのおおまかな展開がわかっていたことで、そこに至るまでを長く感じてしまったのかもしれない。感情移入できる登場人物が、ヒロインを含めひとりも見当たらなかったことも大きい。レッドは、謎の劣等感と欠落感、そして罪悪感に苛まれたけっこうイタい女子で、そうなった経緯が物語の展開の中枢を担うであろうとは予測できても、じれったくて、やっぱり途中離脱かも!と思ったのである。

なのに、いつのまにかグッとのめりこんでいた。かったるさがウソのように、寝る間も惜しんで、自分もキャンピングカーの中にいるような気分になっていたのだ。当初は単体に見えたレッドの秘密が、実は根を張っていることがわかり、それがまたどんどん一箇所(一人)に集約される終盤は見事だった。

えっ!?だから〇〇の態度がそうだったわけか!ってことは、ああああー、なんてこと!!それにつけても、こいつ!許せん!!‥と気持ちがブンブン振り回された。ホリー・ジャクソン、さすがである。お礼に堀井寂損という漢字名を贈呈したいくらいだ(ありがた迷惑)。でも、寂しいと損したような気分になる侘び寂びの妙味をホリーなら理解してくれるんじゃなかろうか(バカ)。

★★★★

この小説のようなとんでもない状況ではなくても、複数の人間の集う場が、ほんのちょっとしたことであっけなく、親密になったり結束したり、逆に、陰鬱、苛立ち、憎悪の気配が入り込むことをわたしたちは知っている。苛立ちや憎悪という感情は言葉にすると激しいが、それに類するものは存外にするりと場を支配するように思う。

わたしはそのことをずっと怖いと思ってきた。大人数が苦手で、みんなが興奮して同じ方を向いているような状況が、たとえ方向は概ね正しくても居たたまれない体質であることを自覚してきた。だから申し訳ないけれど、デモとかアツい集会に近寄ることができない。一気に負の感情になだれ込む恐怖が高じて、あまりに一気にいい感じになることすら落ち着かない。高揚とか歓喜とか。この小説を読んでいて、そういうことも考えた。いや、あくまでも考えただけで特に小説の展開とは関係ない。閑話休題として読み流していただきたい。なんか、ごめん。

これは6人が自分の「悪」を曝し合い、を誘発し、同時にそれと闘う物語だ。罪感、露行、邪意、循環‥。なのに、読後感は悪くないので安心して読んでほしい。あえて、そう「一筆入れておく」のは、そんな小説には嫌感しか湧かない、読む気には到底なれない、と避けないでほしいから。を退治するのみならず、と対峙した再生の物語でもある。

by月亭つまみ

 


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