第28回 クオリティはどうあれ、あの毒舌王より早かったと自負する私のあだ名命名ブーム顛末記、の巻
40代になったかならない頃、私は某大手住宅機器メーカー本社でフルタイムのパート事務員(←矛盾した言い方)をやっていました。
配属先は「じゅうきせいぞうぶ」でした。
ジューキセイゾーブ?
そう聞いてまず最初に脳内変換されたのは銃器製造部。
トカレフとかコルトを黙々と組み立てる自分がイメージされました。
んなわけないよな、で次に浮かんだのが重機 。
クレーン?パワーショベル?
どうやらこれも違うらしい。
じゃあ什器ね、ワゴンやショーケースね、はいはい。
ん?それでもないって?
正解は住器、とんだ伏兵(?)でした。
本社ビルのどでかいエレベーターに乗って連れて行かれた住器製造部で「ここでのあなたの仕事は、全国のシステムキッチン工場の生産管理に関する事務です」と説明されました。
セ・イ・サ・ン・カ・ン・リ???
待ち構えていたメガネ男子ハンダさんは、初対面の挨拶もそこそこに「僕はあと1週間で退職するんです。だからゆっくり仕事を教えられないんです。申し訳ないですね」とさほど申し訳なさそうでもない顔で言うと、たたみかけるように
「accessは使えます?」
「オートフィルタ、可視セルの意味、知ってます?」
「ピポットテーブルは?」
「vlookupは?」
「グラフは作れます?」
「表に計算式を入れられます?」とまくし立てたのでした。
当時の我が家のパソコンはMacで、しかも私はほぼワープロ機能しか使ったことがなかったので、エクセルもワードもほとんど知りませんでした。
何を言われているのか全くわからず、目を??印にして呆けた顔でただただ首を横に振り続ける私に向かって、ハンダさんは一言、「それは・・けっこう大変なところに来ちゃったかもしれませんねー」。
私はよほどそのまま回れ右して人事部に行き、「なんか道を間違えちゃったみたいなんで失礼します」と撤収しようかと思いました。
今思うと、どうしてあのとき、そうしなかったのかよくわかりません。
建物が大き過ぎて人事部の場所がわからなかったからかもしれません。
とにかく、私はそれから1~2ヶ月間ぐらいは毎日「今日辞めようか。明日こそトンズラしようか」と思っていました。
でも、ハンダさんから私の指導を引き継いだ、20代前半の女子社員のナオコさんが、わかりやすく気長に優しく、でも時には毅然と厳しく仕事を教えてくれたので、自分はこの、若いのに人間が出来ている麗しい乙女を裏切るわけにはいかないと、歯を食いしばったのでした。
そして気がつくと、住器製造部長に「部内でイチバン態度がデカい」と明らかに間違った方向で一目置かれるパートに成長したのでした。
ようやっと仕事を覚えた私が次に心血を注いだのが、部内にごそっといる20代後半から30代の、個性があるんだかないんだか、若僧なのかおじさん化しているのか、よくわからない、高学歴ぞろいらしいけれど日常会話を聞いているとかなりおマヌケぞろいの男性陣に片っ端からあだ名を付けることでした。
それまでは仕事を覚えることに必死だったので「ふざけたい心」が抑圧されていたことは間違いなく、それが一気に過剰に弾けたのかもしれません。
まずは、私に「月亭さんは顔を触るのがクセだよね。そうか、だから化粧がとれて朝より夕方の方が顔が老けるんだね」とあぜんとするようなことを元気に言い放ったオオイシさんには、直毛で大量の前髪が邪魔という理由で【モップ犬】。
坊主頭で色白で腰が低くて昭和くさい卑屈キャラのカワダさんには【売れない演歌歌手】。
イケメンだし痩せてて背は高いしメガネの奥がキリリだしアタッシュケースを持たせたら似合いそうなのに、なぜか信用できない感じがうっすら漂うタナカさんには【未公認会計士】。
これまた、眉毛りりしくガタイもあって古き佳き二枚目風なのに、要領が悪くて幸薄そうなフジダさんには【下級武士】。
頭脳明晰なのに、時々急に「オレ、野球がすっごく上手いんですよ。月亭さんもオレのユニホーム姿を見たらあまりにかっこよくて開いた口が塞がりませんよ」などととんちんかんなことを言う小太りで汗っかきのコグレさんには【坊】(by千と千尋・・)。
他にも【デ文鳥】【殺人現場にチョークで描かれた人型】【殺し屋】などなど、大勢に命名しました。
そして、 部署のレイアウト変更の際に更新した新しい座席表を全員にメールするようにと指示された私は、それに便乗して、同じフォーマットであだ名バージョンも作り《危険!門外不出》というタイトルで一部の当事者と女性社員に送信したりもしました。
5分後の私のパソコンは、爆笑と罵倒の返信の嵐でした。
モップ犬や殺し屋達は、ひでえひでえと言いながら喜んでいました。
殺人現場にチョークで描かれた人型に至っては
「みんなはまだいいじゃないですか!俺なんて生き物ですらないんですよ!」
と私にではなくなぜか殺し屋に向かって文句を言っていました。
寂しそうに「私にはあだ名がないんですか」と言ってくる人もいました。
ちなみに、あだ名として完成度が高いと好評だったツートップは、未公認会計士と下級武士でした。(ツートップって・・)
その会社には4年半いましたが、いろんなエピソードがありました。
調子に乗って悪意あるあだ名をつけまくっていたせいで、私は後日、逆襲に遭ったりもするわけですが・・、それについては、機会があればいつか紹介させていただきたいと思います。
ところで、最近読んだ秀逸のあだ名・・じゃなかったタイトルの本はなんといっても中島京子さんの『妻が椎茸だったころ』です。
このネーミングはすごい!と思っていたら「2013日本タイトルだけ大賞」を受賞していました。
中島京子さんの小説ですから、中身ももちろん素晴らしいです。
ちょっと幻想的だったりする小説を集めた短編集ですが、シニカルさと不気味さと温かさが共存しています。
現実で、相反するいろんな感情や印象が共存することはままあると思うのですが、絶妙にいやらしくなく小説にするのは難しい気がします。
さっすが【中京】(なかきょん)!
by月亭つまみ
こんなブログもやってます♪→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
ami
つまみさん はじめまして!
社内のひとにあだ名をつけるのはわかるのですが
ご本人にもバレバレってすごいですね 笑
有吉さんや坂上さん、毒舌王がブレイクしていますけど
Mな人が多いってことでしょうか
”妻が椎茸” も気になるので 図書館で借りてみます
つまみ Post author
ami さん、はじめまして!
コメント、ありがとうございます。
ホントですよね。
あの頃の自分に「なにを考えてるんだ!」と言いたい感じです。
でも「サトイモ」とか「つけっ鼻」と命名した人には言わなかったんですよ。
姑息です。
ちなみに、サトイモは部長だったのですが、飲み会で天然のパート仲間にバラされそうになり、あわてました。
「部長にもあるんだよねーつまみちゃん。えっ?ヒントですかあ。野菜!」
あわわわっ、みたいな。
バラされたくなかったら、あだ名なんてつけるなよ!ですよね。
“妻が椎茸”、短編集ですが、特に表題作が良かったです。
ごまぷりん
つまみさんのセンス、スバラシイ!!
私もすぐ人にあだ名をつけてしまう人です。
本人には決して悪気はない(キッパリ!)のですが、気を悪くする人もいると思うので
基本的には非公開です。家族には話したりしてますが…
某放送局のアナウンサー氏は目も鼻も口もくっきり大きい方なので「福笑い」
そこそこイケメンなのに何となくパンチが足りず淋しげな顔立ちの方は「さちうすお」
てな感じです。
ちなみに、私はとても口が達者な子どもだったので
「スーパーじゃまぐち」と付けられました。(笑) 今なら、座布団5枚くらいはあげたいです。
つまみ Post author
ごまぷりんさん、こんばんは。
奇遇です!
私の周囲にも「さちうすお」と呼ばれている人がいます。
それと、「福笑い」が誰か気になります。
最近、個人的にウケたのが、ウエストランドというお笑いコンビのすごくちっちゃい方に、あのタモリがつけたというあだ名、「でしゃばり一寸法師」です。
私の場合、命名に悪気はないと言い切れないところがどうも・・(苦笑)。
その分、因果応報は覚悟の上です!?
それにしても、「スーパーじゃまぐち」って(^O^)
もしかして近隣に「スーパー山口」というのがあるのでしょうか。
花緒
こんにちは!
部内でイチバン態度がデカいパート…何かかっこいいです(*^o^*)
つまみさん、あだ名付け上手ですね~。
「未公認会計士」、最高です!
「千と千尋の神隠し」が大好きなので、「坊」にもウケました!
そうそう、タモさんもあだ名付け上手いんですよね、そういう特技のある人って頭がいいんだろうなぁ。
「妻が椎茸だったころ」すばらしいタイトルですね。
私も小説を読むのが好きで、自分もこういう小説が書けたらなぁ、と思う事があります。
実際は難しいと思いますが、ユニークなタイトルを考えてみようかしら?と思いました(爆)
まず中島京子さんの本を読んでみなくちゃ。
じじょうくみこ
つまみさま、私やっとわかりました。
なるほど、他人の職場ってめっちゃ面白い(笑)
今日は一日中、殺人現場にチョークで描かれた人型くんのことで頭がいっぱいでした。
いやーもっとくわしく聞きたい!
それにしても、なんというネーミングの妙。
本人知らないけど、きっとビターッと合ってる自信がある。知らないけど。
椎茸妻、ハートを射抜かれました。早速探します!
つまみ Post author
花緒さん、おはようございます。
褒められた!わーい!!
イチバン態度がデカいという評価を不動のものにしたのは、夏、デ文鳥がアツイアツイとエアコンの設定をどんどん下げて、女子が全員凍えてしまい、代表してバトルをしたせいでした。
途中までは遠慮がちに「ちょっと設定を上げてもらえますか」と頼んでいたのですが、全然効果がなく、自分の体感温度優先なので、徐々にこちらも「寒いっつってんだろーがよ!」になってしまい、その現場を、当時、異動してきたばかりの部長に目撃されました。
そして、飲み会のたびに「月亭さんは誰よりもイチバンエバってるよねー」と言われるようになりました。
未公認会計士はちょっとイヤなところもある男子でしたが、一昨年ぐらいにみんなで集まったら結婚してとても雰囲気が良くなってました。
男子こそ、結婚で変わるのでは?と思った次第です。
奥さんに「未公認会計士」というあだ名だったと言ったらウケた、と言ってました。
おいおい。
中京、いいですよー。
ぜひぜひ。
中島
つまみさん天才だー!
どれもこれも想像すると楽しい!!
でもやっぱり殺人現場にチョークで描かれた人型が1番気になりました。
いったいぜんたいどんな人なのですか?
会ってみたいです^^
つまみ Post author
じじょくみちゃん、おはよーです。
ですよねー。
ひとんちの職場の話って面白いですよね。
じじょくみワールドに感化されたのかもしれません。
領空侵犯していたらすまぬ。
ムダに転職しているので、いろんな職場を経験しましたが、「ふつうの職場なんてない」というのが実感です。
「殺人現場にチョークで描かれた人型」クンにはもう1個あだ名があって(もちろん私がつけました)「夕方の伸びきった影」でした。
要するに、肩幅がない感じでひょろ~んとしてるわけです(^_^;)
顔にもメリハリがなくて、でも見せてもらった子供の画像はとても可愛く、「解せない!」と思った記憶があります。
つまみ Post author
おっ中島。さんも殺人現場にチョークで描かれた人型派ですか(^O^)
人気者だなー(笑)。
お調子者でしたよ(気になる箇所はそういうことじゃない?)。
当時のマイブームだったみたいです、あだ名命名。
その後はあまり。
あ、でも、ゾロメ小説「キャッチャー・イン・ザ・ライブラリー」の酒屋のバカ兄弟は、図書館で一緒に雑誌担当をしていた男子2人がエプロン姿で雑誌を括っているのを見て、私が「あなたたち、酒屋のバカ兄弟みたい」とコメントしたのがきっかけなのでした。
そういう妄想力という天分だけはあるのかも!?