【月刊★切実本屋】VOL.7 「小説の漫画化」についてのダブルスタンダードな見解
このたび、仕事先の小学校の図書室のおかげで、長い間の懸案をクリアしました。夏目漱石の『坊っちゃん』を読了したのです……ただし漫画で。
夏目漱石は若い頃からけっこう好きで、特に『門』と『それから』は何度も読みました。一時期、「則天去私」という思想も自分の心にヒットし、その「ヒットした」という事実だけで、自分が「一皮剥けた人間」になったようにすら思いました。幻想でしたけれど。
が、が、どうにも『坊っちゃん』は苦手でした。十代の頃、何度かトライしたものの途中で挫折。当時の自分には、主人公をはじめとした登場人物が、なんだかこぞってめんどくさくてうっとうしいヤツに思えたことと、中学3年生のとき、NHKで放送していた柴俊夫主演の「新 坊っちゃん」の存在が大きかった気がします。私の中では長らく、山嵐といえば西田敏行、赤シャツといえば河原崎長一郎で、小説というより映像の印象になったのです。
あれから幾星霜、もう『坊っちゃん』のことなどまったく考えない人生を長く送ってきましたが、先日たまたま仕事先の小学校の図書室で『文芸まんがシリーズ 夏目漱石:坊ちゃん』を発見しました。
20年以上前の本で、色褪せ、本棚の最下段の端でホコリをかぶっていたそれは、まるでロストブックス(?)でしたが、なにげなく読み始めたら止まらず、家に持ち帰って一気に読んでしまいました。長年もつれてダマになっていたヒモがするするとほどけるかのような気持ちの良さを感じながら読んだのでした。
実は、小説の漫画化にはけっこう懐疑的なクチです。小説と漫画の世界観は違う、だからこそ、それぞれの土俵上で、工夫とチャレンジ精神を見せてくれる作品が読みたいと思うのです。制約があることと、限界があることは違うんだと思わせて欲しいのです。安直には両者を行き来して欲しくない。
…融通のきかない人間なのかな、私。
その気持ちは、今回の「漫画版坊っちゃん」を読んでも変わりませんでした。(変わらないんかいっ!?)そもそも、絵柄にあまり魅力を感じなかったし(失礼な!)、小説に忠実で登場人物のセリフは明らかに小説そのままなので、こども向けとはいえ、漫画にする意味があるのだろうかなどどと今も思っている自分がいます。
でも、読み始めたら止まらなかった。気持ちよかった。しかも、小説と遜色のないみっちりと充実した読後感が残り、要するに、堪能したのは明らか。小説の漫画化に対する自分の見解は、とんだダブルスタンダードです。
『君たちはどう生きるべきか』(吉野源三郎/著)が話題になっているようです。2年前に読みましたが(感想はこちら⇒★)、刊行から80年の時を経て今年漫画化され(未読)、さらに宮崎駿監督によってで映画化されることが決まった由。
先日まで短期集中連載されていて私も参加した【このマンガがなんかすごい。】であらためて、マンガの威力というか、奥深さ(というより、底知れなさ)に畏敬の念すら覚え、まだ余韻を引きずっている私ですが、ここにきて小説の漫画化についてもいろんな気持ちが湧き上がります。結論なんてカンタンに出ない種類の。ダブルスタンダードも辞さない(!)たぐいの。
相反する気持ちが交錯するのも悪いことじゃないかもと思ったりもしているうちに、秋の夜長はカンタンに更けていくのでした。
by月亭つまみ
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊 切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4、5木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 ゾロメ日記】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
凜
つまみさん、こんにちは。
小説の漫画化、たしかに既に読んでしまったものについては違和感を覚えることもあるでしょうね~
逆に「おおこういう解釈?!!」と新鮮な感動することもありそうですね♪
高校生の時に源氏物語を漫画にした「あさきゆめみし」がクラスの女子の間で大流行し、もはや持ち主がわからないくらいに回し読みしてました。おかげでやたら古典テストの平均点が上昇してました。高校生が源氏物語全部読むなんて、漫画でなかったらなかなかないことで、いまだにありがたい作品だったと思っています。角田さんの源氏物語も気になりますが(^^♪
坊ちゃん、読んだことはあったのですが、なぜか映像化されていた(二ノ宮くん主演)ものを見た時のほうが心にしみました~
アメちゃん
こんばんわ。
私は逆に、「坊っちゃん」は引き込まれて読んだクチです。
若い頃、たまたま古本屋で30円で売られてた「坊っちゃん」を買って読みはじめたら
文章の小気味の良さや、
坊っちゃんが、自分をよそ者扱いする周りの人達を皮肉るのが可笑しくて
夏目漱石ってこんな面白い人だったのかぁって思いました。
恥ずかしながら、夏目漱石は
小説の題名は知っているものの、まともに読んだことがなかったんですよね。
(じつは今もあまり…。つまみさんの好きな漱石の本、今度読んでみようかな)
マンガの威力といえば
私にとってはやはり、「あさきゆめみし」ですね。
これも、たまたま仕事の資料でコミック全巻(宇治十帖まで)をあてがわれて
ま、ちょっと読んでみるか…と読みはじめたら
まぁ、止まらん止まらん。
一気に読んでしまいましたよ。
もうこれで源氏物語はばっちり!って感じで。
その後、これをきっかけに源氏物語を読んでみようと
谷崎潤一郎や田辺聖子の訳本を手に取りましたが、まったく進みませんでした。
つまみ Post author
凛さん、こんばんは。
「あさきゆめみし」、たぶん私は成人してたぐらいの時期ですが、読んでいません。
でも、周囲では大人気でした。
そうですよね。
源氏物語の読破はなかなかハードですが、大和和紀さんというフィルターを介すれば、源氏物語でもあり、あらたな視点でもあり、一粒で二度美味しいものとして読めるんですねえ。
今回の坊っちゃんの漫画は、そういう新しい解釈的なものとは無縁でしたが(いや、描いた方は工夫しているとは思うのですが)映像も漫画も、小説と地続きの発展形と思うといいのかもしれませんねえ。
つまみ Post author
アメちゃんさん、こんばんは。
おおっ!そうでしたか。
私とは逆の漱石体験!
『門』や『それから』は、暗いっちゃあ暗いのですが、閉じた感じが好みでした。
アメちゃんさんも「あさきゆめみし」!
めきめきと読みたくなっております。
素直ですわ、私(^O^)
はらぷ
坊ちゃん」漫画、「絵柄に魅力も感じず」、「セリフもほぼ小説そのまま」で、「漫画にする意味あんのか」とまで言っている、にもかかわら、ず!
「読み始めたら止まらなかった。気持ちよかった。しかも、小説と遜色のないみっちりと充実した読後感が残り、要するに、堪能した」って……すげー意味不明!!
相反するにもほどがある(笑)
わからなすぎてわたしの石頭がぐらぐらと揺れました。
わたしも、そんな交錯する感情に放り込まれてみたい。
でも、それにはやはり「堪能した!」とまで言ってはばからないダブルスタンダードの精神が肝要だな(笑)精神の自由!
小説と漫画って、いちばんちがうのは人称の描き方(移動)かなと思います。
同じ一人称でも、小説は一貫して固定された視点からものごとや人間を見、内的世界を掘り下げていくのに対し、漫画は、一人称のかたちをとりながら、同時に別の登場人物の心の中も主人公の視点を外したかたちで描けるのですよね。。
小説を漫画化する場合、そこには必ず「翻訳」が発生することになる、そして、どこを描いて、どこを語らせるのか、そこに肝があるのだろうなあ。
目線の先、指先のうごき、風ひとつ描くだけで、それが表現できてしまうことがある、というのが漫画のすごいところだよなあと思います。映画の表現ともまた違うのですよね。。。
関係ないけれど、こないだ大河ドラマの「直虎」を見ていたら、死を前にした母のセリフのシーンで、カメラがずっと直虎の顔をうつしていて、あ、これは漫画的な表現だなあと思っておもしろかったです。
「君たちはどう生きるか」、漫画も映画化もすごく気になります。
漫画、評判いいですよね。読んでみようかなあ。
つまみ Post author
はらぷさん
そうなのよ。
相反する二極に自分の気持ちが引き裂かれ、ちりぢりになるかと思いましたわ(^O^)。
最近とみに、相反する気持ちが共存してる気が。
ブレるとか、ダブルスタンダードを一直線に悪者にしてしまうと、モノや人や事象の一部しか見えなくなるかも、と思うんですよねえ。
若い時があまりそういうことを考えなかったから、これぞ加齢のなせるワザ?
ジャッジする 不遜さ臭に 敏感です
おそまつ。
小説と漫画の違いについて。
そうそう!人称は大きいですよね。
あたりまえっちゃああたりまえですが、文字を使わず表現できてしまう、そして文字も使えるって、漫画の身体能力おそるべし!
『君たちはどう生きるか』、漫画版、私も読んでみようかな。
昨日、久しぶりに本屋さんに行ったら、大プッシュで、逆に萎えました。
あとね、最近『サラバ!』を読んだんですが、ちょっと『君たちはどう生きるか』がよぎった。
『サラバ!』自体は、私はあまり好みではなかったんだけど。