『いまからでも楽しい数学』顛末記3
中学時代の恩師・川勝先生に問題を出してもらって、それを必死になって答える。
というコンセプトは間違っていない、という読み通り、うまく行けば本当に面白い本になるぞ、と僕は確信していた。しかし、それはすべてが順調にいけば、と言うお話だ。
第一の誤算は、問題がこちらの望み通り、少しずつ難しくなったり、数学の面白さと人生の面白さを重ね合わせたりはしてくれない、ということだった。もちろん、川勝先生は普通の数学の先生だし、本にするという都合に合わせて、うまく数学の問題を紡ぎ出すというのは簡単なことではない。
そこで、こちらが大きな道筋を考えて、その上で、問題を出してもらうなど、いろんな手を考えた。それでも、やっぱり一筋縄ではいかない。テレビで数学についてペラペラと話しているタレント教授とは違う。この話を始めたころは、まだ現役の校長だったわけで、そう簡単に時間だって作れるわけではない。
こちらの読み違いもあり、本当にこの本は苦労した。いままで作ってきた本は執筆とデザインをあわせて約一ヵ月半、長くても二ヵ月という早技で作ってきた。ところが、この本は企画から三年以上経っても完成が見えないままだったのだから。
前回も書いた通り「これ、本が出来なくてもええわ。楽しいから」と先生が言い出したのは、こんな状況の中だった。僕は「ええ加減にしてくださいよ。遊びじゃないんですよ」と答えたのを覚えている。でも、よくよく考えたら、遊びだから面白いのだった。遊びだから、やってみようという話になったのであって、あくまでも仕事だ!と思ったら、こんな本を出そうとは思わなかったはずだ。いや、思ったとしても絶対に途中で取りやめにしている。
文系で数学嫌いな僕と、数学しか取り柄のない元数学教師が、真ん中に数学を置いて遊ぶ。それがこの本のいちばん大切な部分だったことに、僕は先生のその一言で気付いたのだった。
それからの展開は早かった。問題を一通り出した先生にはしばらく休憩してもらい、僕がせっせと問題を解き、その問題から浮かび上がってくる課題を眺めながら、全体の構成を考え直す。すると、だんだん、数学の大切さ、生活との結びつきが見えてくるような気がしたのだ。
去年の秋に出そうという計画は少し延びて、今年の2月になった。ちょうど、先生が「これ本が出なくてもええわ。楽しいから」とつぶやいて半年後に刊行することができた。部数が少ないし、前にも書いたように、一度や二度増刷しても、絶対にまったく儲からないくらいに、勝手に企画して勝手に経費を突っ込んで作った本だけに、いままでのように「出版できて嬉しい!」という単純な喜びはない。
ただ、なんだかんだと頑固で、言うことを聞いてくれない、どうしようもない団塊世代の恩師が、「本に出来なくても楽しい」と言ってくれたことで、少しは恩返しが出来たという気持ちがする。そして、それがこの本を作ろうと思った本当の理由だったような気がする。
いや、ほんとはそんなきれい事じゃなかったような気もするけれど。
どんな本かをまとめたCM動画
出版社の立ち読みページ
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Amazon販売ページ
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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青緑
こんにちは。
本は手元にありますが、読みが進まないのです。難しいんです。最初の4問くらいは楽々でした。植松さんの挑戦ページを読むとこんがらがるので先生ページでまず確認です。脳にしわができる前に眉間に深~くしわができそうです。よって、数日に1問読むということでいいですよね。
先生の熱く穏やかなご指導が伝わってきます。イラストもたくさんあって挫折しそうな読者を引き留めてくれそうです。「おっさんの頭」これからいろんなおっさんに頭面積をおしえてあげたいと思います。☆4つ!(数学は嫌いなので☆1つは減らしました)
uematsu Post author
青緑さん
読んでくださって、ありがとうございます。
こういう本は、人それぞれで本当にさじ加減が難しいですね。
「簡単だよー」という人も、いれば「難しい!」という人もいる。
でも、そんないろんな感想も楽しいです。
本当にありがとうございます。