第10回 最近見た映画日記 その2
ごぶさたしていた期間の穴埋めを、その間見ていた映画でしようとする力技企画、今回も続きます。
その1でご紹介した映画は、一部もう公開が終わっているかもしれませんが、こちらはまだ! 公開しているはずですので!! お楽しみください~。
5月某日 「サンドラの週末」
解雇を言い渡された女性が、週末に同僚たちを訪ね歩き、自分の復職を認めるかわりにボーナスをあきらめてくれと説得してまわる、地味なお話。
こんな地味なお話をよく映画にしたなあ…と思うけれど、これがびっくりするほどよくできていて、じんわりとしみいるすてきな作品になっていました。
主人公サンドラを演じているのはマリオン・コティヤール。鬱病から復職しようとするサンドラの、ちょっとしたことにもすぐ動揺し、傷つく回復途中にある心そのものを演じていて、ほんとにびっくり。
後日、これを見た妹とも意見が一致したのですが、サンドラの旦那さんがほんとうに優しくていいんだ~。「オレが守ってやる!」とかじゃなく、現実に根ざした、心からの助けの手をさしのべ続けるのです。
なんかね、こういうのが寄り添うってことなんじゃないかなと思いました。
5月某日 「ワイルド・スピード スカイミッション」
人気シリーズの最新作で、撮影期間中に主要キャラを演じていたポール・ウォーカーが自動車事故で亡くなるという、なんとも皮肉で悲劇的ないわくがついてしまった作品。
車を使ってできることはぜーんぶやってみよう!的なカーアクションの数々が、ふりきった豪華さで笑えるほどすごいです。(特に、車でビルからビルに飛び移るあれが…)
長年チームを組んで無茶もしてきたけれど、そこから卒業していく仲間を見送るという脚本は、制作途中で変えたものなのかなあ。本来、考えさせる余韻やら何やらからいちばん遠いところにいるはずのシリーズなのに、まるでポール・ウォーカーを偲び、弔うために作られたような映画だなあと思いました。
5月某日 「22ジャンプストリート」
前作「21ジャンプストリート」も最高に楽しかったので、1週間限定しかも夜21時からの回だけの貴重な機会に足を運ぶ。
大学生になりすまし、ドラッグ被害の潜入捜査をする刑事コンビのお話なんだけど、あー前作にも負けないくらい面白かった! 頭のよい人たちがすみずみまで考えて、練りに練って作ったコメディってなんでこんなにすてきなんでしょう。
主演のチャニング・テイタムとジョナ・ヒルの組み合わせってほんとにいいなあ。ずーっと見ていたい。
5月某日 「百日紅」
この監督の新作がかかるならば見に行く!リストのひとり、原恵一監督の新作アニメーション映画。前作「はじまりのみち」は実写で、これもまたすばらしかったですが、今回は監督お里のアニメーションに回帰し、しかも原作は杉浦日向子、物語の主人公は葛飾北斎の娘・お栄って……好きなものばっかりそろったお弁当みたいでうれしいなー。
アニメーションでしかできない、想像力がのびやかに広がっていくさまを美しく楽しい映像でたっぷり堪能できました。
ちょうど連休に、東京の隅田川を水上バスで回ったりしていたので、お栄が妹と一緒に川を下るシーンは「こここないだ通ったな~」と歴史の地続き感も味わえてよかった。
東京って、都市としての歴史が長いから、こういう「昔の人もここを通ったのだな」という気配を濃厚に感じられる場所が多いんですよね。面白い。
人の生き死にに対する距離感や湿度が、今と比べると結構さっぱりしているように感じられたのも面白かった。ウェットな人情物もすきですが、今よりもかんたんに人が死んでいた時代ならではの温度の低さが妙にきっぱりしていて心地よかったです。
もちろん、肉親の死は悲しいことなんだけど、死そのものが近いというか。つきはなしたような諦観があって、これはこれで厳しいようだけど、生き続けていくための知恵だったんじゃないかと思いました。
5月某日 「駆け込み女と駆け出し男」
こう言ってはなんですが、がっかりすることが多いので邦画はあまり見ておらずで。でも、井上ひさし原作なら面白いんじゃないかなーと映画館へ。
うーん、お金もかかってるし、すごく悪いってわけじゃないんだけどなあ。
日本の映画やドラマのキャスティングって、もう作品をいちばんに考えられて決められるわけじゃないんだなあ、とここ数年ずっと感じていた問題点をあらためて突きつけられてしまいました。
この人が出ているから面白いですよー、という旗印になりそうなキャストはそろえているけれど、ほんとうにその役がその人に合っているかは二の次というか…。
あと、どんな役を演じていても地のその人がちらつくというのは、やっぱりわたしは冷めてしまいます。なんだかなあ。
5月某日 「Mommy マミー」
現在26歳、ヴェネツィア国際映画祭やカンヌ国際映画祭でも受賞暦あり、才気ほとばしる俊英が撮った映画…と聞いて、最初は「映像や音楽にはやたらこってるけど、話は面白くないっていう、おしゃれ映画にありがちなやつか…」と思っていたら、ふだんあまり映画を見ない妹からも「すごくよかった!」とおすすめされ。
それならば行かなくては! と行ってまいりました。
いやー、面白かったです。ADHDがどういうものか、その描写についてはあれが正確なのかどうなのかわからないけれど、子供を持つことに対して「どうしたらいいかよくわからなくて、正直途方に暮れ」続けている今の私には、とってもしっくりきました。
(具体的にどうこうという話ではありません)
主人公のスティーヴ、スティーヴの母ダイアン、友人かつ隣人のカイラのキャラクターの絶妙さがすばらしかったです。
物語をひっぱるこの3人が、ほどよく弱く、ダメで、でもいいところもある。とっても人間くさいのです。
同行者は「若い子が考えた人物像には思えなかった…」と驚いてました。うん、そのくらい練られた人物造形でした。これで25歳のときの作品か。すえおそろしく、すえたのしみ。
母親と子供というテーマの作品を見るとき、わたしは自分が女だからかもしれませんが、「母性愛」というものの扱い方ばかりを見てしまいます。
この言葉をおまじないのように高らかに唱えあげ、そこにすべての解決策を棚上げするようなものを見ると、ほんっと勘弁してくれよ…とうんざりするのです。
そういう意味で、この映画はその心配がまったくなかった。グザヴィエ、おまえわかっとるな~とうれしくなりましたねえ。
小関さんの詳細なプロフィールやお仕事はこちら→kittari-hattari
Comet
ああもう、見たい見たい全部見たい〜!
小関さんが選ぶ映画は、どれもツボですが
特に「サンドラの週末」が気になります。
実際に映画館に足を運ぶのはちょっと難しいけれど
よりすぐりの作品を
「見た気」になるだけでも嬉しい(^ ^)
いまねえ
ほんっとに、みんな観たいと思いますね!
「サンドラの週末」は新聞でも紹介されていて興味もちました。
ど派手な「ワイルドスピード」系は最近目が追いつかないなと思ってしまうお年頃。。
「百日紅」は原作がとっても好きなので、アニメ映画となるとは思いませんでした。
映画館に行きたいな。
okosama
百日紅。観てきました(^^)
「クレしん」を手掛ける監督ですね。
小関さんのおっしゃるとおり、アニメならではの楽しさ、美しさ!オープニングのすぐ後にちらっと出てくる風鈴がオシャレでしたよ。
寛げるので最後部席にいたのですが、中程に座って見上げるようにして見れば良かったなあ。
帰宅して「北斎展」の図録で余韻を楽しんでいます(^^)
小関祥子 Post author
>Cometさん
コメント、ありがとうございます!
学校などでお忙しいと思いますので、映画館にはなかなかいかれないかもしれませんが…
「サンドラの週末」は、家でじっくり見るのもまた良さそうな作品だと思います。
広い意味で、人をケアすることについて学んでおられるCometさんがどう感じられるのか、
感想もぜひ伺いたいです~
小関祥子 Post author
>いまねえさん
コメント、ありがとうございます!
「サンドラの週末」、新聞でも紹介されていたのですね。話題なんだなあ。
「ワイルドスピード」は、わたしも途中で「今どこを走っていて何がどうなってるのか」
わからなくなったので、そこはもういいやと思いました…
でも車が景気よく走ったり飛んだりしててそこは楽しかったです。
「百日紅」原作のファンでいらっしゃるんですね。
絵は杉浦さんのものとはずいぶん違うと思いますが、
この世とそうでないもののあわいが美しく描かれていて、一見の価値ありでした。
小関祥子 Post author
>okosamaさん
コメント、ありがとうございます!
そうそう、原恵一さんは、映画版のクレヨンしんちゃんを手がけていた監督です。
風鈴、見ているはずなのに思い出せない……でも、こじんまりとした家の感じとか
とっても好きでした。あのくらいの広さの家に、あのくらいの荷物の量で
さっぱりと暮らしたいものです。
見終わってから、北斎展の図録を眺めるというのも贅沢な楽しみかたですね。
北斎って絵がほんとうまいんだな…と当たり前のことをあらためて感じていました。