『ダチュラ』とつぶやいた日々
村上龍の『コインロッカーベイビーズ』が読みたくなり、ふいに書店に飛び込んだ。あの疾走感あふれる文章にもう一度ふれたいという思いが、我慢できないほどにあふれてきたのである。
1980年に刊行されたこの作品は、当時の若者を熱狂させた。村上春樹とともにW村上と呼ばれていた村上龍は、明らかに村上春樹よりも新しかった。喫茶店のマスター然として、カウンターの向こうから出てこようとしない村上春樹の小説の主人公よりも、目の前の邪魔者を蹴倒し、自ら核のボタンを押そうとするかのような危険な主人公を擁する村上龍の小説に、僕たちは夢中になった。
コインロッカーに捨てられ、息を吹き返した、ハシとキクは、母の影を引きずりながら、見えない敵を追い、引きずり出し、地球の上に恐ろしく気圧の低い渦巻きを作り出すように旋回する。そして、『ダチュラ』とつぶやくのである。
これを読んだとき、まだ僕は高校を卒業したばかりだったのだが、世の中の秩序やモラルに異を唱え、拳を上げるハシとキクに僕たちはしびれたのである。おそらく、バブル景気がやってくる前の、どことなく閉塞した空気の中で、何かが分かるという期待感に、この小説が呼応したということもあるだろう。
僕は一度読み終わった『コインロッカーベイビーズ』を間を置かずにもう一度読んだ。世界が閉じられ、また開き、さらに大きな円を描いているような錯覚に陥ったものだ。それほど、この小説の密度はすごかった。改行が少なく、びっしりと並んだ文字をじっと眺めていると、ハシとキクが、その文字の間を疾走しているような気持ちになった。
僕はあの頃と同じような閉塞感を感じているのかもしれない。絶望的な選挙の結果よりも、吉本の社長の会見を食い入るように眺めている世の中は、ハシとキクが駆け抜けたあの小説の世界よりもさらに停滞している。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
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はしーば
ああ、当時のヒリヒリするような感覚を、それこそ瞬時に思い出しました。
「コインロッカーベイビーズ」は読前と読後。
人生がバンっと舞台装置が反転するように感じたものでした。
再読してみようかな。
uematsu Post author
はしーばさん
小説を読みながら「早く読まないと、ハシとキクが行ってしまう」という焦るような気持ちがありました。