【月刊★切実本屋】VOL.27 中島族讃歌
猛暑お見舞い申し上げます。みなさま、無事生きてますか?!
ここ数年、夏の傍若無人さ、容赦のなさに恐怖を覚えます。いったいぜんたい、この先、日本の…いや地球の夏はどうなっちゃうんでしょう?このまま暑さのインフレが続いたら、夏を乗り切ることが人生の大命題になり、ある年齢以上は「秋を無事に迎えられればそれだけでシアワセ。あとはどうでもいい」になってしまうんじゃないだろうか。あ、すでになってる?…二重の意味で恐ろしい。
暑くて脳がとろけそうですが、決死の覚悟で(?)本題に入ります。
今まで「好きな作家は?」と聞かれて、中島たい子さんの名前を出したことがありませんでした。不覚でした。あらためて、中島たい子さんが好きであることをここに告白させていただきます(勝手にしろ)。
デビュー作の『漢方小説』も、PMSを正面から取り上げた『そろそろくる』も、ヤングアダルトの哲学書というイメージが強いちくまプリマー新書の貴重な小説のひとつで、学校行事の前に決まって喘息の発作を起こしてしまう少女が主人公の『がっかり行進曲』も、中島たい子さんの書く世界は一貫したものがあると思います。
一言で言うと「心身のバランスを模索する小説」でしょうか。
バランスよく生きているように見える人っています。でも「ハタからはそう見えるだけ」なのかもしれないし、たとえ今はバランスよく過ごせていても、心身は日々変化しているものだから今後はどうなるかわからない。もちろん、精神を鍛えることは有効でしょうが、それにはやっぱり「模索する」という段階が不可欠だと思うのです。
人生はままならない。ままならないからこそ、なんとか自分を保つ考察と工夫が模索されるのであって、その結果が中島たい子さんの小説のような気がします。
そんな土台を基に構築された小説は、心身への着眼点が予定調和でなく、しかも、まず着地点ありきで綴られていないので、ウソくさくなくて私には好感が持てるのです。
今回読んだのは『院内カフェ』という小説です。
総合病院の中にあるチェーン店のカフェから、物語は始まります。主な登場人物は、このカフェでバイトをしている主婦で小説家の亮子、バイト仲間の村上君、カフェの客で、毎回同じオーダーをし「ここのコーヒーはカラダにいい」とつぶやき続けるウルメイワシのような目をした男ウルメ(亮子が命名)、同じく客で、眉と体毛が濃くて態度のデカいレジデントとおぼしきゲジデント(亮子が命名)、そして50代の孝昭と朝子夫婦…以上です。
亮子はなかなかこどもができず、朝子は親を介護し燃え尽き、孝昭は難病を患っています。バランスを保つことが容易ではないそんな3人の日々や思いが、ウルメやゲジデントや村上君を時に織り込みながら語られます。
リアルです。ありありとリアル。特に、いつのまにか「介護人生」に取り込まれてしまった朝子のところは、自分の現在の環境のせいかもしれませんが、身につまされることのオンパレードでした。
たとえば
朝子が、介護のきっかけを「自発的にやった実家のオーブンレンジの掃除からだった」と振り返ることとか、たまに実家にやってくる二人の兄に共感して欲しくて愚痴をこぼしたところ、「そう?あいかわらず元気じゃない」と言われがっくりすることとか、介護のために準備段階で諦めた仕事に対して母親がずいぶん経って「そういえば、フラワーアレンジメントの教室は、うまくいってるの?」と言うこと、さすがに見かねた兄が言った「ヘルパーに来てもらえよ。金がかかってもいいから」という当然としか思えない言葉に涙をあふれさせてしまうのも。
親を看取った朝子のバランスを次に揺るがすのは、孝昭の病気です。もともと自分をさらけ出すことのない孝昭は、入院となっても心を閉ざしたままです。その彼に、マダム・スプラッシュ朝子(亮子が命名)が書く手紙…。この手紙ですが、なんというかもう!「読んでくれ!」としか言えません。
そして、群像劇のように描かれる、こどもにめぐまれない亮子と夫の会話(「今回は、ごめんなさい」とか)、村上君の免疫に対する考察、ゲジデントの海外でのエピソード、ウルメの変化、そして、ちょっと甘すぎるようにも思える心あたたまるエピローグ…どれもやっぱり「読んでくれ!」です。
この作品は4年前の刊行ですが、うっかり見落としていました。気づいてよかった。自分が読んだから言う訳ですが、なんでもっと話題にならないんだろう、この小説。
それでなくても中島業界には、京子女史とか義道センセーとか敦学士、みゆき歌姫や慶子画伯…などなどツワモノがたくさんいますが、たい子さんも負けてない。さすが、中島族だ!?
by月亭つまみ
中島
くぅぅぅ〜 優しか〜〜〜 涙
最後のは、私への応援歌ですね♡
ありがと ありがと!
中島たい子さんの『院内カフェ』、イオンの本屋さんになかったので、
amazonでポチりました。
ゾロメ読んだら、早く読みたくてたまらなくなってます。
心身のバランスを模索して風穴をあけたいです。
つまみ Post author
「中島」慶子さ~ん!
お仕事で描いたイラストを景子さんがTwitterでUPしてくれるたび、「おおっ!慶子さんが頑張ってる!私も私の持ち場で頑張ろう!」と思います。
それは、どこかの金言や名言より、ずっと自分に響いて、なぜかというと、慶子さんの人柄や、少し教えてもらった近況で、仕事の結果を出している姿が、ありありと感じられるからなんじゃないかと思います。
『院内カフェ』は、人によって感じ方の違う小説かもしれませんが、自分にドンピシャじゃなくても、模索することであく風穴があるなあと思えてよかったです。
暑いから、ムリすんな(^O^)
凜
つまみさん、こんにちは。
「院内カフェ」読みました!
朝子さんの手紙、毅然としていて、たくさん苦しんだ後に行きつくこの彼女の境地にハッとしました。聡明な女性ですよね。この旦那さんにはけっこうイラ~っときたけど、この手紙で心をぱっと開いたんだな・・・てことがわかる返信メールで、よかった・・。大なり小なり、朝子さんみたいな状況・立場の方はものすごく多いですよね。この作品ドラマ化されたらいいのに~!つまみさんのおっしゃる通りたくさんの人に知ってもらいたい作品ですね。この作品があまりに良かったので、「漢方小説」も借りてしまいました。
いつも素敵な作品を教えてくださってありがとうございます(^^)
つまみ Post author
凛さん、残暑お見舞申し上げます。
日本列島、洩れなく猛暑ですが、体調など崩されていませんか。
私は、ここ数日で家のことが急展開して、なにやかやと落ち着きません。
と、プチ近況報告で、コメントの返信が遅れた言い訳にして(?)
ありがとうございます!
読んでいただけてうれしいです!
そうですよね。私も、この夫には途中までイラッとしましたが、徐々に、こういう人もいるんだろうなあと思い、「院内カフェ」という独自のポジションを独自の捉え方に持っていた作者に好感を持ちました。
ドラマ化、いいですねえ。
ヒロインの小説家はミムラかなあ。
朝子さんは…逆風も吹いているようですが、小泉今日子はどうでしょうか。
漢方小説も、じわじわ効いてくる小説なので、お読みになったらぜひ感想を聞かせてください。