【月刊★切実本屋】VOL.31 わたし、落ち着いて半人前なので
2020年は、新しい住まいで年を越した。
結婚して数年後の1980年代なかば、夫の両親と同居を開始し、以来30余年、東京の東のはずれの<ちんまりした、陽当りのあまり良くない木造2階建ての家>で4人で暮らした。
家族が増えそうになったこともあったが、もう一歩及ばずで増えることはなく、ずっと4人だった。
長い間にはそりゃあいろいろなことがあったが、前年との違いがないような、かわりばえのしない生活もけっこう続いたので、4人の生活がこれからもこのままずっと続くんじゃないかと、2015年ぐらいまで思っていた。
でも当然、そんなわけはなく、2017年に夫の父が鬼籍に入り、2018年の夏には、精神疾患の初老の女性が家に来るようになって事態が一変した。
夫の母の要介護状況が悪化した時期とも重なり、<ちんまりした、陽当りのあまり良くない木造2階建ての家>で暮らすことが難しくなった。夫と私は仮住まいに避難し、夫の母は老人保健施設に一時入所した。
2018年暮れには、仮住まいで母との同居を再開したが、自分たちの先行きも見えない上に、母の日常が本当に不安定で、毎日不穏だった。
常に臨戦態勢、もしくは何事もないようにふるまわないと、不穏さに気持ちが持って行かれそうで怖かった。母の前では平静を装った。不安が伝播し、明るくない未来予想図ばかりが脳内で描かれることを回避したかったのだと思う。
でも、いつも挫けそうだった。たとえ今の瞬間はぎりぎりセーフでも、明日…下手すりゃ1時間後はどうかわからないと思うと、何をしていても安心できなかった。
再同居9ヶ月で施設再入所を決めたのは母だった。ショートステイではなく入所がいい、と強く主張した。息子夫婦、特に嫁を気遣っての決意であることは明らかだったので、いろいろな感情が溢れてむせそうになったが、引き留めることはしなかった。
あとから、もう少しなんとかできたかもしれないと幾度も思った。だが、あの瞬間、夫と私は限界だったとも思う。もし、もう一度あの時点に戻っても、たぶん「引き留めない」という選択をするだろう。
母の入所後、夫の再就職が決まった。非常勤だが専門職なので、ガッツリした講習が始まった。人は、新しいことを始めることで日常を取り戻したりもするものなのだと、夫を見ていて思った。一方で、私はそれまでの緊張感が一気になくなり、やたらぼんやりしてしまった。
そんなある日、中古マンションのオープンルーム見学に散歩がてらに出向き、夫が一気にその気になった。私は「新しい住まいのことは、せめて仕事が落ち着いてからがいいんじゃないか」と思ったし実際、口にもしたが、そのときはもう、流れに乗ってしまっていたのだと思う、たぶん私も一緒に。
そのタイミングで<ちんまりした、陽当りのあまり良くない木造2階建ての家>の買い手が決まったこともあって、①夫の再就職 ②新しい住まいの契約 ③古い住まいの売却 ④引っ越し という、単品でもなかなかハードなビッグイベントをいっぺんに行うことになった。気が抜けた~なんかやる気が出ない~とダラダラしているわけには行かなくなった。怒涛のようなあわただしさが始まった。
全部が一段落したのは去年の11月末だ。
年が明けて、さすがに新しい住まいの片付けは終わったが、まだモノの置き場所が定着しきっていない。特にキッチン関係は、いまだ日々、使い勝手を模索している状態だ。
ただ…落ち着いた。ものすごく落ち着いた。
仮住まいのマンションの住み心地も悪くなかったので、離れることを躊躇し、選択を誤ったんじゃないかと思うこともあったのに、仮じゃない住まい(もちろん、今後どうなるかなんて誰にもわからない)がこんなに落ち着くとは思わなかった。
やっと住民票が移せるとか、壁に画鋲が気軽に挿せるとか、長く使える収納を決められるとかいう物理的な問題だけじゃない。もちろん、それも踏まえた上だが、気持ちの落ち着きがハンパじゃない。むしろ不安になるくらい(笑)。
こうなって初めて、いかに自分がこの1年半、ざわつきっぱなしだったかをあらためて思い知っている。
子どもの頃は引っ越しばかりしていたけれど、結婚後30年以上同じ場所に住んでしまったことで、腰を落ち着けて暮らすことに安心感を持つ人間に成り下がってしまったらしい。
今年はじっくり本を読もう。
去年の終盤は、原田ひ香と、佐川光晴の「おれのおばさんシリーズ」、そして、ダウンサイジングとか、小さな家で暮らすとか、50代60代からの住まい…的な本ばかり読んでいた感じだが、今年は今まで以上に手当たり次第に、自分を知らない世界に連れて行ってくれる本が読みたい。
最後に2019年に読んで印象的だった3冊を発表します。
順位はありません。
今年もよろしくお願いします。
『ヒッキーヒッキーシェイク』(津原泰水/著)
『人生オークション』(原田ひ香/著)
『往復書簡 無目的な思索の応答』(又吉直樹・武田砂鉄/著)
by月亭つまみ
okosama
つまみさん
今年もよろしくお願いします
そうすると、カイゴデトックスの時は、怒濤にもまれてたんですね。
落ち着いて、良かった!
落ち着いて、良かった!
猫ちゃんも、気楽にヘソ天ですなぁ笑
私、昨年後半は気力が溜まるまで、ダラダラぼんやりブラブラしてました。この年末年始でようやく自宅を整えることができました。
落ち着くと、趣味活に力がはいりますね。
nao
激動の2年余り、お疲れ様でした。
時折記事を読んでいて大変そうだなと気になっておりましたが
新しい住まいに落ち着かれて良かったです。
まだまだこれからいろんなことがありそうですが
健康に気を付けて乗り越えていきましょう!
つまみ Post author
okosamaさん
あれやこれやと、本当にありがとうございます!そして今年もよろしくお願いいたします。
そうか。
okosamaさんも、エネルギーチャージ期間が必要だったのですね。
私も、あせらず、フライングせず、ちゃんと溜まってからいろいろやろうっと。
カイゴデトックスのときはまだ怒涛中でした(^_^;)
参加者のパワーに立ち向かう気力が不足していたかも。
…頼まれてもいないおみくじ作って、何言ってる?ですけど。
つまみ Post author
naoさん
お心遣い、いつもありがとうございます。
naoさんがおっしゃるように、まだまだこれからいろんなことがあるとは思いますが、体調が悪くなくて、くつろげる住まいがあれば、なんとかなるだろう、と今は思っています(思い続けていられるか自信はありませんが(^_^;))
今年もよろしくお願いします。