空を見る。
ここのところ、息が詰まる。これはもう比喩ではなく、具体的に、肉体的に、息が詰まる。ほんの少し考え事をして、その解決策が見つからなくて、小さくため息をついたときに。以前なら、というか、若い頃なら、「ああ息が詰まるなあ」と呟くところだが、本当に呼吸が苦しくなるようなこともある。そうなると、みぞおちの少し上のあたりを手のひらでさすって、息苦しい感覚が落ち着くまで待っている。
実は40代の終わりに初期の胃がんをやったことがあるので、この息が詰まるような感覚には覚えがあって、ちょっとした恐怖も感じてしまう。まあ、ほとんどは胃腸が少し疲れている程度のことなのだけれど、用心に越したことはないと毎年やっている胃カメラの検査を早めにやってみた。
結果としては、多少胃は荒れているけれど、悪いものはないらしい。ただ、去年と同じように食道裂孔ヘルニアが認められる、と伝えられた。食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が食道のほうへ押し上げられている状態らしいのだけれど、これによってゲップが出やすくなったり、胃液の逆流が起きやすかったりする。
そう言われると、ここしばらくの息が詰まる感覚も納得がいく。納得はいくのだが、それでも息が詰まる感覚は不快だ。いろいろ調べていくと、結局は欧米型の食事と姿勢の悪さが根本的な原因だということがわかった。僕は姿勢が悪く猫背も良いところだし、食事だって還暦を超えているのに、食べたいものを食部過ぎて、苦しくなったりする。そりゃ、体にいいわけがない。
ということで、やり始めたことがある。肉と魚ならなるべく魚を選ぶこと。バス停で一つ二つくらいならなるべく歩くこと。できるだけ、背筋を伸ばすこと。でも、なかなか難しい。難しいから、「なるべく」とか「できるだけ」とか、最初から言い訳から始めているわけだけれど、絶対と言われたら、たぶん一日だってもたないのだ。とりあえず、自分をだましだましやっている。
まだ、「こんなに効果がありましたよ」と報告できるほどの効果は感じられないのだけれど、一つだけ「なるほど」と思ったことがあった。それは、空を見る機会が増えたことだ。少しでも姿勢を良くしようと意識して、歩きながらでも胸を反らそうとすると、ふいに空の青が視界に入ってくる。それがいい。ただ空を見上げただけなのに、一瞬、息が詰まったような感覚を忘れられる。時にはそのまま、息の詰まる感覚がなくなってしまうことさえある。
胸を反らして空を見上げることで、今日も生きていけるなあ、とさえ思うのは、だいぶ僕が弱っている証拠だとは思う。でも、そんな僕が言うんだから間違いないと思うのだけれど、空を見上げるっていうのは、なかなか効果があるんじゃないだろうか。と、いま座っている図書館のテラス席で、試しに空を見上げてみたのだけれど、うん、なかなかいい。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。