第117回 ナタ 魔童の大暴れ・ヨウゼン
「ナタ 魔童の大暴れ」(日本語字幕版)を見た。中国の古代神話『封神演義』をモチーフにした作品だ。
人間の両親を持ちながら制御できないほどの魔力を持って生まれた、暴れん坊ナタ。登場時はいかにも悪ガキだ。親子の絆や、龍族であるゴウヘイとの友情、強さゆえの悲哀、正義とは何かを現代風に描いており、香港映画テイストのコミカルなシーンも加わって、家族で見られる映画だ。
とにかく、本作の映像は別格のクオリティー。4Dや応援上映など映画館での体験をうたう仕掛けは色々あるが、映像そのものが「新しい体験」だと言いたくなる。
CGアニメーションってこんなことができてしまうのかと驚くほど、描き込み放題、動かしたい放題なのだ。一度に視界に入ってくる情報量(ものの動きやエフェクト、デザインの精緻さなど)と物量の多さに圧倒される。何をどのように見たらよいのか分からなくなるほどだが、それが中国CG映像の醍醐味なのかもしれない。色んな意味でスケールが違うのだ。私は気圧されながらも、初めて道教寺院を見た時のわくわく感に似ていると思った。
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この一週間前に「ヨウゼン」(日本語吹き替え版)を見た。主人公は『封神演義』の人気者ヨウゼン。こちらの作品も情報量は多かったけれど、「ナタ~」に比べると整理されていたと感じるし、キャラクターが麗しい。
そもそも美男子の仙人で、天眼(第三の目)を持ち、知略と神通力を兼ね備えた英雄だが、本作では、神通力を失い賞金稼ぎになった元神将という設定で話が進む。いつも気だるげで神通力なしでも十分強い。彼が終盤、肉親を想う気持ちと宿命との間でどのように行動するのか。「ナタ~」のようなきっぱりした終わり方ではないところが大人向け(?)
「ヨウゼン」は実写化をイメージでき、「ナタ~」は漫画化をイメージできるというとなんとなく違いを分かってもらえるだろうか。
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申公豹(シンコウヒョウ)というキャラクターがこれら二作に共通して登場している。あの人がここにも!これはどういうこと?と 遅まきながら図書館で『封神演義大全』を借りて読んでみた。
太公望って単なる釣り好きの人じゃなく『封神演義』の重要人物なのか。ヨウゼンは名前を変えて西遊記にも出てくるのか。ナタも出自がずいぶん複雑そうだ。
『封神演義』は、姜子牙(太公望)を指揮官とする周の武王軍が、妖狐のせいで暗君となった殷の紂王を討つお話だ。この人間界の争いに、天界の神仏や仙人、妖怪らが加勢し大規模な戦いになり大勢が命を落とす。天界では戦いで亡くなった名のある勇士らを365人選び、神として祀ることにする。(つまり神に封(ほう)ずるのだ。)彼らが操る武器(?)や法力、神通力のスケールが大きく、霊獣がでてきたり干物が怪魚に変わったり、なんでもアリの戦いが面白い。そして紂王のやることが残虐きわまりない。
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映画はどちらの作品も、彫像・彫刻装飾に彩られた数々の廟建築や、歴史ある水墨画や宝物、広大な陵墓や庭園、景勝など世界遺産を数多く有する国ならではの世界観がうかがえる舞台設定で、中華圏への興味がそそられる。
文学としてあまり重んじられていないという背景があるのだろうけれど、『西遊記』や『三国志』と比べて『封神演義』に関する日本語の本がそもそも少ないのが残念だ。この魅力的な世界をさらに知るためには何を履修したら良いのか、誰か教えてください。