【エピソード 18】寿退社と指輪〜昭和のOL事情〜
さてさて、聞いた話を形に残すことを仕事にしている「有限会社シリトリア」(→★)。
普通の人の、普通だけど、みんなに知ってほしいエピソードをご紹介していきます。
【エピソード 18】
「腰掛けОL」なんていう言葉も最近はとんと聞かなくなりました。女性は大企業に数年お勤めして、数年後には寿退社――本人の希望はもとより、「職場の花」(この言葉も死語ですね)はやっぱり若い女の子じゃないと!と思っている会社側にとっても、これが一番幸せな仕組みだったのでしょう。いわゆる〈雇均法以前〉の昭和には、けっして珍しくなかったそんなОL時代を、平成の今、もはや笑っちゃう!と言いながら振り返るカズミさん。カズミさんの過ごした会社とは、どんなものだったのでしょう。
・1日3度に加え、突然の「お茶入れ」も
大学の家政学科を卒業して、ふつうに就職活動をして、カズミさんはある大手の建設会社に採用になりました。配属されたのは人事部。部長以下10人程度の男性。そして、先輩同期合わせて4人の女性。こじんまりした部署でしたし、みんな親切で雰囲気のいい職場でした。
カズミさんの仕事は、人事部内での福利厚生部門。社員の社会保険を取り扱う、なかなか責任の重い仕事でした。転勤や入退社や家族が増えた社員が出るたびに社会保険事務所に出向き、手続きをします。メールやインターネットはおろか、ファックスもまだ普及していない時代です。すべてのツールは電話と自分の足。ほかの部署に、ほぼ「お茶くみ」として配属され、年中「ヒマ~」と時間を持て余している同期の子が羨ましいほど、忙しい毎日でした。
それほどまで忙しい社員でも、他部署の「ヒマ~」な社員でも、どちらにもこの会社は分け隔てなく(!)、ちゃんと「腰掛ОL」としての役割分担を求めてきました。朝は男性社員より30分早く出社して部署全員の机を拭き、始業と同時に人数分のコーヒーを入れます。みんなの自前のカップに、〇〇部長はクリームなし、△△課長はブラック、××係長はお砂糖たっぷり――それぞれの好みでサービス。部署に届いた郵便は、「親展」以外はすべて封を切って(これまた信じられない!)それぞれの机に配ります。部署内の全員へのお茶入れは、朝のほかに昼休み明けと3時。一日3回繰り返されます。
受付から来客の連絡が来たら、どんな仕事も中断してエレベーターの前に走っていってお出迎え。応接室に通したらお茶をサービス。お客様は部署の社員全員あてに来ますから、この仕事はまったく前触れなしに降りかかります。厚生年金の書類チェックや計算の真っただ中だって容赦ありません。席を離れて給湯室から戻れば、はて、電卓の数字はどこまで入れたんだったか――もちろんパソコンもない時代。昔のОLは本当に勤勉でした。
1988年、バブル時代のOL漫画『お嬢だん』(中尊寺ゆっこ)
・「寿退社」と「指輪」
そしてこの会社の女子社員の「腰掛けОL」の真骨頂は、なんといっても退社の日です。会社としては翌年度の採用人数をできるだけ早く把握しておきたい。そのため、前年秋ごろになると、女子社員は別室に呼ばれ、聞かれます「君は、来春には辞めるつもりはある?」最初の2年はまあ辞めないという返事がふつう。ところが3年めの秋には、尋ねる方もリアリティを持ってきます。そう、女子は3年経ったらとりあえず入れ替え時期。もちろんそれ以上の長きにわたって勤める人もいましたが、「目安3年」というのはこの会社の不文律でした。
でもこれは、カズミさんのいた人事部だけの話で、よその部署は、けっこう好きな時期に退社できたようでした。いずれにせよ退社する女子社員は、その日の午後になると全部署を挨拶に回ります。そのときに「寿退社」であれば、必ず婚約指輪をはめて回る。もちろん、結婚以外の理由で辞める人もたくさんいましたから、指輪をしてなくても表立って何か聞かれるわけではありません。が、逆に言えば、「寿退社」と「指輪」は必ずセットだったわけです。キラキラ光るダイヤの指輪。ブルーの地味なユニフォームと、それはそれはミスマッチではありましたが…。
キラキラ!
今になって振り返れば…とカズミさんは言います。上司からのセクハラすれすれの発言もいっぱいあったし、ことほどさように女子社員に求められる行動様式すべてが、今でいうパワハラに近いものだったかも。でも、そのときは、そんなものだろうと思って働いていたし、なにより部内の雰囲気はよかった。だから今なら、信じられないねーと笑い話にできるのでしょう、とも。
もちろん人を傷つけるような深刻なハラスメントはどの社会でもあってはならないことですが、そこそこ面白がりながらいろんな経験をするのも、これまた楽しい人生かもしれません。
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perako
思い出しました! 男女雇用機会均等法施行の年に就職しましたが、朝と15:00のお茶出しありましたね~
みなさんの湯飲み覚えましたよ、今じゃできない!
そう言えば、秘書さんは新聞にアイロンかけてました。
クリスマスケーキにたとえられ女子は職場の花で3年~5年で交代が当たり前でしたね。
あのT自動車も「自宅から1時間で通勤できる方」が応募条件でした。
女性は実家から通う・・・身持ちが固い?ってことでしょうか?
今じゃありえない!
まゆぽ Post author
perakoさん、こんにちは!
そうですか、perakoさんもお茶出ししてたんですね。
新聞にアイロン! 受けました〜。
わたしは「浪人、留年した女子はダメ」で、
たくさんの会社に門前払いくいましたけど、
今から考えると、ケツの穴のちっちぇえ会社ですよね〜。