11月22日はカレー記念日

カレー記念日

落ちてゆく 枯葉のごとし 抜け毛かな

11月22日はカレー記念日

Jane

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カレー記念日とは?

加齢を実感したら、それはカレー記念日。
抗ったり笑い飛ばしたりしながら、毎日華麗に加齢していきましょう。

あなたのカレー記念日も、教えてください。
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じじょうくみこの崖のところで待ってます

彼女はウソを愛している、たぶん全力で。

みなさま、こんにちは。師走もいよいよ後半戦に入りましたが、大丈夫ですか? ってそんな振り方あるかいって話ですが、少なくともわたしは大丈夫じゃないので安心してください。仕事も年賀状も冬休みの計画も手つかずすぎて「きっとアレだな、年末とか勘違いで今は3月じゃないかな」と妄想タイムワープをくり返しては現実逃避している、時をかける元少女じじょうくみこです。

 

 

とりあえず部屋にラベンダー臭を漂わせてみる

 

 

 

さて。我が家の隣に越してきた若夫婦に、尋常ならざる妖気が漂っている件のつづきです。

前回の話はこちら↓

初めての友だちは、秘密のにおいがした。

 

 

高校で教鞭を執るシマ島ネイティブ・カンちゃんと、彼を追って島へやってきたキリちゃん夫婦が隣に引っ越してきて、初めての冬がやってきました。

 

同じNPOを手伝っているキリちゃんとは相変わらず、すっとこどっこいなエンジェルズに振り回されては、愚痴をつまみに酒を酌み交わす日々。特にスタッフの中で一番若くて仕事が早く、おまけによく気が回るキリちゃんは、何かと雑用を任されることが増えておりました。なんとかならないかと幹部に働きかけてみたりもしましたが、彼女たちはキリちゃんの大変さがまったく理解できずキョトンとするばかり。そして当事者であるキリちゃんはというと

 

「書類作っても無駄な修正ばかり。あのひとたち、おかしいと思いますよ」

「報酬あるって聞いてましたけど、報酬どころか私が経費たてかえるって詐欺じゃないですかね」

 

うん確かに本当のことだしひどいと思うんですが、親密度が増すごとに言語感覚がどんどんワイルドになってきて、聞いてるこちらがヒヤリハット。さらに結婚前のこともぽつりぽつりと語るようになり、

 

「ホテルで働いていたとき、ウエディングの担当だったことがあるんですよ。結婚業界って、ボロ儲けですよ。担当者の自由采配なので、相手を見て料金を変えますからね。感じの悪いカップルからは、料金を100万200万とか平気で上積みしてむしりとっちゃってました♫」

 

話すエピソードがいちいち黒すぎる…。

言っておきますが、キリちゃんは大変な美人です。スタイルも抜群の、クールビューティです。そんな彼女が輝く島の太陽を浴びながら、完璧な笑顔と朗らかな口調でドス黒い話するホラー感ったらないですよ。

 

このひと敵に回したらヤバそう、と思い始めたころ、ダンナのカンちゃんが頻繁に家を空けるようになりました。高校教師という仕事柄、秋冬に行事が多いのはわかりますが、やれ飲み会だ打ち合わせだといっては外出し、さらに週末になると島を離れてバンドメンバーと一緒に全国をライブツアーに回っているというのです。もちろん、キリちゃんを島に残して。

 

そんなころ、わたしはといえば「NPOの手伝いもカマドスーパーのバイトも、マジで足抜けしないと疲弊する一方でヤバイ」という危機感にかられ、ひそかに就活開始。冬は島内各地から求人情報が流れてくるシーズンなので(むしろこの時期しか求人は出ない)、この波を逃すまじ!とガツガツ動き、就活を通じていろんな島民と話すことになりました。そして、どこもかしこも人手不足で困っていたので「キリちゃんというデキる女子が働きたがってますよ」と話してみたりもしたのですが、

 

「ああ、カンの奥さんでしょ。奥さんはいいかもしれないけど、カンがねえ……」

 

決まってそう言われ、渋い顔をされるのでした。

 

そんなある日、わたしは島で行われたイベントに出席し、タオちゃんという女性と知り合うことになったのです。ひとまわり年下の島民タオちゃんとは、何か心の深いところで共鳴するような不思議な感覚があり、このあと彼女と濃密な時間を過ごすことになるのですが、そんなことよりいま大事なのはタオちゃんとカンちゃんが同級生であるという事実でありました。

 

ザビ男のハブとマングース(!)の例でもよくわかる通り、シマ島では同級生というのは血縁に匹敵する一生ものの関係です。冠婚葬祭はもちろん宴会、行事、仕事のつきあいにいたるまで、清濁併せ吞んでのおつきあい。それなのにカンちゃんキリちゃんの引っ越しを、全面的に手伝うはずの同級生がなぜ誰も来なかったのか。答えは一つ、

 

 

「あいつがどうしようもないクズ男だからですよ、くみさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンのおじいちゃんは島では知らないひとのいない有名人だったのですが、そんなじいちゃんの名声を傘にカンが島でやりたい放題だったこと。学校を卒業して内地で暮らし始めた後も、定職につかず親からの仕送りで音楽活動に精を出し、芸能人きどりで島に帰ってきたこと。バンドメンバーの彼女やファンに片っ端から手を出し、仲間に嫌われていたこと。芸能人の友だちを島に連れてきたときは、VIP待遇で応対するよう各地で指示を出して島民に総スカンをくらったこと。

 

タオちゃんから聞いたのは「よくUターンしようと思ったよね!」と逆にカンちゃんのブレイブハートに感動するほどの悪行三昧でありました。

 

「カンが島に帰ってきてまっさきにやったこと、何か知ってます? 頼むから自分が結婚したことをSNSなどで言わないでほしい、と同級生全員にメールしてきたことですよ」

「そんなこといってもみんな知ってるわけでしょ? なんでわざわざそんなことを?」

「くみさん。やつはね、スターなんです」

「は」

「正しくは、スターだと思ってるんです」

「はあ」

「スターはみんなのものだから、ファンに結婚したことを伝えちゃいけないんです」

「バカなの?」

「はいバカです」

 

カンちゃんは決して有名バンドのメンバーではありません。それなのに島民は全員知っている結婚をなかったことにしようとは、なんだその滑稽すぎる隠蔽工作? けれど奥さんのキリちゃんに罪はないわけで、島民としてはキリちゃんにどう接していいのか困ってしまうわけで。それが結果としてキリちゃんの目には「島のひとは冷たい」と映ってしまうのだ、ということがわかってきました。

 

そんな風に島内であやしい動きを見せ、新妻を置いて週末ごとに島を出るダンナを、頭のいいキリちゃんが何も気づいてないはずがない。もしそうならば、みんなでカンにお仕置きをして家庭を大事にするよう動くこともできるかもしれない。「あいつホント、ダメなんですよ!」とキリちゃんが一言でも愚痴ってくれれば、みんな全力であなたの味方をする! とシマ島の民は思っていたようです。けれど、

 

「私はひとりでも大丈夫ですよ。カンちゃんが音楽をやることは私も応援しているし、がんばってほしいんです。それに、カンちゃんの悪口を言っている島のひとたちのことを、私は信頼できないです」

 

いつものように完璧な笑顔で語るキリちゃんに、取りつく島はないのでありました。

 

 

 

 

嫌な予感しかしない

 

 

 

 

 

年が明けたころ、事件は起きました。

 

カンちゃんが仕事を休みがちになり、家に引きこもっているという噂が流れるようになりました。たまに姿を見かけることがありましたが、カンちゃんは決まってキリちゃんと一緒で、挨拶すらすることなく虚ろな目で下を向くばかり。ただならぬ雰囲気に怖気づいていると、タオちゃんから連絡。

 

「くみさん、大変なことがわかりました」

「どしたどした」

「近くのタテ島にミス・タテ島っているじゃないですか」

「ああ、あのテレビなんかによく出てくる、正統派美人のキャンペーンガールだよね」

「そうですそうです」

「そのミスがどうした」

「カンのやつ」

「うん」

「ミスと婚約しました」

「こんやく」

「はい」

「婚約…」

 

ちょ、ちょっと待てよ。カンちゃんにはキリちゃんという伴侶がいるわけで。そのカンちゃんが別の女子と結婚しようとしているってことで。それって、え、待って待って、つまりあの、ワイドショーなんかでときどき聞いたりする…

 

 

 

 

 

 

重婚

 

 

ってやつじゃないのかなっ!!!!((((;゚Д゚)))))))

 

 

 

これまでライブだといっては島を離れていたカンちゃん、じつはライブとは真っ赤な嘘で、キャンギャルのところに通っていたことが判明。しかも、そのキャンギャルはタテ島随一といわれる名家のご令嬢で、先方の両親にも気に入られてすでに結婚式の準備も進んでいたというのです。

 

近い島同士というのはそれなりにネットワークがあるもので、名家の娘とバンドマンとの婚約話がシマ島に伝わるのは時間の問題でした。そして当然のことながら「婚約って、カンは結婚してんじゃね?」となるわけで、まさかの重婚疑惑に島民騒然。あまりに醜聞すぎて口にすることすらはばかる島民が多いなか、なぜかキリちゃんにはしっかと伝わり、隣の家ではすさまじい地獄絵図が展開されていたのでありました。

 

「でもくみさん、それだけじゃないんです。キリちゃんも知らないことなんですが…あいつ私にはアホみたいにベラベラしゃべるからもう抱えきれなくて…」

「どうしたタオちゃん、言ってごらん。オバちゃんが受け止めるよ」

「カンのやつ、島の女子とも不倫してます」

「ひっ」

「しかも、わかっているだけで3人いる!」

「ひいいいいっ」

 

カンという男はどうやって人目を盗んだのか、高校で一緒に働いていた新任教師や島に通っていた旅行者などに次々と手を出し、それが校長の耳にも入ったんだからサア大変。カンを取り巻く色恋沙汰は島きっての大スキャンダルに発展したのでありました。

 

 

ゲス

 

 

ゲス!

 

 

 

ゲスでゲス!!

 

 

 

いやーひどい。なんて気持ち悪い話なんだ。同じころに島に来て、同じように過ごして来たキリちゃんの心中を思うと、胸がはり裂けそうです。せめて一緒にやけ酒でもして、愚痴でもなんでも聞くことぐらいしかできることがない! と思ったのですが、当のキリちゃんはいつもの笑顔で

 

「じつはカンがどうしても島になじめないみたいで、春に島を出ることになりました。私はぜんぜんなじんでいるから島に残りたくて、仕事を探しているんですが、やっぱり嫁だけ残るのはむずかしいみたい。せっかく仲良しになれたのに残念ですが、私も一緒に出ることになりそうです」

 

どうやら彼女は「夫の内地転勤についていく妻」を演じつづけることに決めたようでした。

そして表では「残念です、カンがなじめないばかりに」とくり返しながら、家の中では離婚しようというカンの言葉を頑として受けつけず、夜な夜な罵詈雑言の嵐が静かに、じっくりと、くり広げられたといいます。

 

 

 

 

凄惨すぎて震え上がる

 

 

 

 

 

3月、別れの季節がやってきました。

キリちゃんが私に本音を語ることはついにありませんでした。

 

カン家とキャンギャル家から巨額の慰謝料をふんだくることでキリちゃんが離婚を決めた、ということは風の噂で知りました。島を出ると同時に別れることで手はずは整っていたようですが、キリちゃんは妻としてのふるまいをやめることはなく「カンちゃんの仕事が決まらないので、私が先に仕事を決めて来た♪」「カンちゃんの職場の近くに新居を見つけて来た♪」と彼女がうれしそうに報告してくるのを黙って聞くしかない地獄。

 

「キリちゃんが決めたことなんだから、つきあうしかないよ」というザビ男とともに最後まで彼女の嘘につきあい、引越しの手伝いをしてふたりを送り出すことにしました。荷物はすべて、同じ住所宛でした…。

 

そしてカンちゃんは「内地に転勤して島のひとたちにさみしがられる俺」というテイで船に乗りこみ、誰一人アンタの見送りじゃないのに号泣しながら港に手を振るというおバカぶりを披露。一方でキリちゃんは「カンちゃんは学校のひとと行きたいと言うので」とひとり飛行機で旅立つことになりました。いつもなら盛大なセレモニーが行われる、島の見送り。けれどキリちゃんの出発に立ち会ったのは、ごくわずかな島民だけでした。

 

「むこうに着いたら連絡しますね! 島にもすぐ来ますから! また飲みにいきましょうね♪」

 

いつもの完璧な笑顔のキリちゃんでしたが、事情を知らないカンちゃんのおばあちゃんに泣きながら抱きつかれたとき、目頭がキラリと光った気がしたのはわたしだけでしょうか…。

 

 

その後、キリちゃんとは二度と会っていません。けれど一度だけ、離婚の報告メールが届きました。そのときに初めてわかったこと。

 

「くみさん、じつは私、バツ2なんでーす♪」

 

 

いやあーー。人間ってほんとにわからない…。

というわけで最後まで謎しかなかった、お隣さんの話でした。「LOSTみたい」「カルテットのよう」とみなさんいい感じで読んでくださったのに、こんなゲスな話でなんかすいません。

 

次回がセカンドシーズン最終回となります。来週日曜日、2017年最後に崖のところでお会いしましょう。じじょうくみこでした!

 

 

text  by  じじょうくみこ

illustrated  by  カピバラ舎

 

*「崖のところで待ってます。」セカンドシーズンは12月24日(日)が最終更新です。

 

バックナンバーはこちら→

2ndシーズンはこちら↓

2-1 ハーフセンチュリーは嵐の季節。

2-2 シマ島の2年目は、モヤモヤから始まった。

2-3 恋わずらいみたいになって、あのひとにメールを書いた。

2-4   あのひとは言った、「未来のためにはアレを焼け!」

2-5   島暮らしってサバイバル。だって、ハブとマングースのはざま。

2-6  はじめての友だちは、秘密のにおいがした。


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コメント、ありがとー!

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    まんぷく

    じじょうくみさま お寒うございます。毎回愉しみに読ませていただいていましたが、今回ばかりは展開と結末に腰を抜かしました…。「カンキリ」コンビさんったら。
    まるで女性作家の小説のようで、こんな現実を身近で日常として関わったくみさま、驚きやら戸惑いやら、モヤモヤやらをお察しいたします。ちょっとエロネタを入れて、新潮社の女性作家のR-18小説にできそうなハイレベル。もっと読みたい!

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    はしーば

    やー、やー、やー、カオスです。
    シマ島、濃すぎて肌呼吸すら苦しそう(>人<;)
    くみこさん、本当にあなたは凄い所にお嫁に行ったのですね。
    「訳わからん」ということにおいては、ある意味、LOST越え。

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    じじょうくみこ Post author

    >>まんぷくさま

    こんにちは!お返事大変遅くなってしまい、申し訳ありません!!
    改めまして、読んでいただきありがとうございました。

    事実は小説より奇なり・・・とは本当のことだったんだなあ、と
    この年にしてしみじみと実感した事件でした(^_^;)

    >>はしーばさま

    こんにちは! すっかり遅くなってしまってごめんなさいー!!
    いやほんと、わけわからん世界ですよ、シマ島。
    東京で奇人変人にはずいぶん会ってきたと思っていましたが
    東京ではぜったいに会わないような人しかここにいない(笑)

    どこまでわたしの胆力で維持できるか、
    来年に乞うご期待!?

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