四十路独女じじょうくみこの「崖っぷちほどいい天気」(20) 〜ボウズが占う私の未来、てかハケンさん。
突然ですが、9月いっぱいで会社員をやめました。
まあ会社員といっても非正規雇用、いわゆる派遣社員というやつでございます。そもそも非正規雇用って表現どうなのよって話はおいといて、とにかくこの3年間みっちりがっちりフルタイムでOLやらせていただいたのです。
何を隠そう、20年ぶりの会社員生活でありました。
毎朝6時半に起きて、身支度しながら弁当を作る。駅まで歩いて15分、そこから電車に揺られて会社までは片道1時間。出社して自分の仕事をしたり、他人の仕事をしたり、ドス黒い人間関係に振り回されたりなんだりしているうちに残業になり、また1時間電車に揺られて帰宅したらもう夜の9時。晩ごはんをマックス15分で作って食べて、お風呂に入ってひと心地ついたところで今度はフリーの仕事をして、ハッと気づけば深夜でガックリ気絶して朝。
そんな毎日をくり返した3年間でありました。
もう通勤電車に乗らなくていい! 平日の夜にライブだって芝居だって映画だって行ける! 水曜あたりに飲み会入ったってへっちゃら! 全身を駆けめぐる、この何ともいえない嬉しさと寂しさ。喜びと悲しみ。高慢と偏見。安寿と厨子王。内山田洋とクールファイブ。カルロス・トシキとオメガトライブ。アクアマリンのままでいて。
なんの話でしたっけ。そう、会社をやめたのでした。
子育て中のお母さんや激務に追われるお父さんに比べれば、私の会社員生活なんてかわいいもんだ、と言い聞かせてまいりました。それでも長年自分勝手に生きてきた私にとっては、長い長い通勤も、仕事があってもなくても席に座ってなきゃいけないことも、得体の知れないルールや力関係に悩まされることも、すべてが未知の世界。趣味の時間や飲み会も激減し、まるで修行僧のような日々でございました。
そう。
僧。
僧といえばボウズ、であります。
え?
ボウズ、大好きです。正しくは、ボウズ頭が大好物です。スキンヘッドでも、ハゲでもありません。剃髪、丸刈り、百歩譲ってイガグリ頭。どんなに煩悩を断ち切り虚飾を避けようとも、どうしようもなく押し寄せる「毛」という生命のエネルギー。ああ、なんという生と死のせめぎあい。エロスとタナトス。サイモンとガーファンクル。アリスとテレス。ドスとエフスキー。
なんでしたっけ、そうそう、ボウズです。
私が3年間の修業生活を送ることになったきっかけには、ひとりのボウズの存在があったのです。
3年前、私はひどく悶々としておりました。仕事をとりまく環境は悪化の一途、何をどうしても事態はうまく転びません。年齢的にもこのままじゃいけないのはわかっている。動かなきゃ、でもどうしたらいいのか。公私ともに他人と共同生活したことがほとんどない私が、はたして就職なんてできるものだろうか…そんな思いが行ったりきたり。
そんな私の心情を察してくれたのか、仕事仲間のワタイちゃんが連れて行ってくれたのがボウズ・バーでした。
その名の通り、ボウズがやってる飲み屋です。正真正銘の現役僧侶が作務衣姿でシェーカーを振り、つまみを出しながら悟りについて優しく語ったりします。カクテルの名前は「愛欲地獄」に「無間地獄」。店内には仏壇が飾られ、時折ボウズが読経をあげたりもします。
右を向いても左を向いてもボウズ。立っても座っても、ビールをついでもボウズ。きみは2mmか、あなたは6mm、この長さは3mmから2週間のばした感じ? 酒と泪と男とボウズ。ああ、ここは極楽浄土に違いない。ひとり目を細めて愉悦に浸っていると、カウンターのボウズと語り合っていたワタイちゃんがひと言、「ここに星占いをしてくれるお坊さんがいるらしいですよ。密教占星術だって」
密教! 占い!! ボウズ(頭)!!!
何その最強の組み合わせ!
残念ながら占いボウズはその夜シフトに入っていなかったので(ボウズとシフトって不思議な感じ)、早速その場でボウズをリザーブ。後日、バーの隣にある占い部屋へ向かいました。扉を開けるとそこには、穏やかな笑顔を浮かべたスーツ姿の男性が。
スーツ! 密教っ!! ボウズ(頭)——————っっっっ!!!
しかもコタツに一緒に入って、チャイを飲みながらまったりお話。何ここ新手のボウズ喫茶?みたいなシチュエーションですが、密教占星術というのは空海さんによって中国から伝来した秘伝の占いであるうんぬんの解説をされた後、生年月日などをもとに鑑定が始まりました。
それにしても、なんと美しいボウズ頭であることか。この長さは4〜5mmというところか、うんうんまさに理想的な長さ。でも伸ばしたら髪の毛わりと多そうだよね、お手入れ大変なんじゃないかな。ああ、さわりたい。後頭部を襟元からなげ上げて、ザリッとした手ざわりを楽しみたい。いや、この感じだと刈って数日はたっていそうだから、わりとサワッて感じで柔らかいかもしれない。ああ、でも刈りたてのチクチクする感じも、それはそれで大変よろしい味わい……
ってなんでしたっけ。
ああ、そうそう、ボウズ占いでした。
占いとはいえ、さすがはボウズ。未来を見通すようなものではなく、占いを介してこちらの内なる思いを引き出し、現実問題を整理するというカウンセリング的手法でありました。ふだんは聞き役に徹する私ですら、ついボウズ頭に乗せられベラベラ喋ってしまい、話しているうちになんだか気分スッキリ。占いは信じる・信じないというより娯楽として楽しむタイプなので、映画1本ぶんくらいの満足感でありました。
「今のじじょうさんには、帰れる場所があることが大事のようです。精神的な支えになる家族、物理的に帰れる場所である家、そうしたものを持つことでかえって外に出られるというね。会社で働くのもよさそうですよ。会社員になってもフリーの仕事は続けられますし、僕なら安定収入を確保しながら、やりたい仕事を選んでやる道を選びますね。それに心配しなくても、じじょうさんは会社でおとなしくなんてしてませんよ。だってあなた、烈女ですから」
れ、烈女!
烈女かどうかはともかく、美しいボウズ頭に背中を押されて勇気百倍。その後、縁あって常勤派遣の話が舞いこんできたので、思い切って受けることにしたのでありました。
あれから3年。
20年ぶりの会社員生活は、私になんともキテレツな毎日をプレゼントしてくれたのです。そしてあの日、雑居ビルの片隅でコタツ越しにさんざん眺めたボウズ頭は、今や人気占い師としてスターダムにのぼりつめておりました。
おのれ、あの3mm刈りも、流れるような後頭部のフォルムも、全ては野心のたまものだったのか。ボウズ頭の風上にもおけまい、今すぐボウズ頭を脱ぎ捨てろ。そして本能のおもむくままに毛先遊ばしたり束感出しちゃったりするがいい!
最近はヘアジャムってのがいいらしいよっ!!!
ってあれ、
えーとえーと、
なんの話でしたっけ?
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です。
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サヴァラン
ボウズ・バー。興味あります!!
数年前、街にはそういう場所ができたと噂に聞いて
ぜひぜひ足を踏み入れたいと合掌すりすりして念願中。
むかし「ファンシーダンス」っていう映画がありましたよね。
周防監督、本木くん主演の。あ、甲田益也子さんも出てたな。
京都でみかけるボウズさんの中にも
「わ」と思うくらいキレイなボウズさんがいらっしゃいますね。
いいな。キレイなボウズさんのくびれのある後頭部のざりざり。
ファンキー&色即是空のボウズワールドに惹かれます。
サヴァラン
あ。甲田益也子さんって、もう50代になってらっしゃいますね。
時折拝見するたびに
船越桂さんの彫刻に激似だなと うっとりします。
流れるような後頭部のフォルム、って
たしかにあの「中身」が気になります。
あ。すみません。
妄想&無駄話、でございました。
じじょうくみ子 Post author
サヴァランさま、コメントありがとうございます〜♪
サヴァランさまもボウズ頭さんがお好きなのですね!嬉しい(*^_^*)
ボウズ・バー、ちょっと近いところでは大阪と京都にもあるようですよ(近くないかw)
ファンシーダンス、なつかしい〜!モックンのボウズ頭も秀逸でございました。
力士姿もまたよろし、ってそれはシコふんじゃったやつでした。
甲田さんもそういえばボウズにしておられましたね。
でも個人的には女性のボウズには興味ないので、甲田さんはベリーショートがいいなあ。
アイコニックとかAKBのなんちゃらさんとか、女性のボウズも時々話題になりますが
華奢な女性のボウズってなんか見ていて不安になります。。。