窮鼠、嘘をつく。
子どもの頃は怖いものがたくさんあった。僕がいちばん怖かったのは大人だ。
大人は子どものいろんなところを見ている。子どもの心を見通している、とあの頃思っていた。いま思うと、みんな子どもから大人へ成長しているわけだから、子どもが思っているほど、大人は特別な存在なのではないということがわかる。わかるけれども、それでもやっぱり自分よりもものを知っている存在というのはやっぱり怖い。
だから、どんなにごまかそうとしても見破られて怒られてしまう。昔のことだから、殴られたり外に放り出されたりするような体罰も日常茶飯事だった。
なんの拠り所もない子どもにとって、大人、特に親から見限られることは何よりも恐ろしい。
だからこそ、嘘をつく。
時には大人を見返してやろうとしてちょっと大きなことを言ってみたりする。
時には大人に殴られないように自分のしでかしたことを姑息にごまかそうとする。
そして、ばれる。
見事なくらいにばれる。
ばれて、殴られる。
ばれて、なじられる。
こうして、子どもは嘘をつくことの虚しさを知り、嘘をついてまで大人を欺くよりも、正直に話してしまったほうが楽だという現実に到達するのである。
しかし、世の中にはそんな現実を知らないまま大人になり、嘘をつかずにはいられない、という種類の人間になってしまった人たちが存在する。
例えば、狼が来たぞー!と大声で叫び、注目を浴びることの喜びを知ってしまった人は、一生その欲望から逃れられない。
例えば、小さなミスをごまかして逃げることを覚えてしまった人は、生涯ミスを正直に申告しなくなる。
嘘つきというのは病気だと思う。もう嘘はつきません、と言って、嘘をつかなくなる人を僕は見たことがない。嘘をつく人はずっと嘘をつき続ける。もう、嘘はつかないと誓って、それを実現できるのは幼児の間だけかもしれない。少なくとも、いい大人になったら「嘘つき」という病からは逃げられないのではないかと、僕は正直思っている。というか、思いしらされている。
それなら、嘘つきには道がないのか、というとそんなことはない。嘘をつかなくてもいい場所に身を置けばいいだけではないかと僕は思う。
正直な気持ちでいられる場所を見つけ、嘘をついて見栄を張らなくてもいい人間関係に飛び込んでいけばいいだけだと思う。ただそれだけのことで、心穏やかに時間を過ごすことが出来て、ただそれだけのことで、明日が開けてくるのだと思う。
ただ、嘘つきはプライドが高い。そのプライドの高さゆえに嘘をつかなくてはならない場所へ自ら進み出てしまっている場合も多い。
本当にやりたいことを、本当にやれることを、しかりと見極めればいいのだけれど、そこでも自分に嘘をついてしまうのかもしれない。
そうやって、嘘つきは嘘つきの無限ループに陥っていく。周りを恨み、ねたみながら。
少し冷静になってみれば、誰も自分の邪魔などしていないことに気づけるはずなのに。
ということは、わかっている。わかっているけれど、まったく正直に生きていけるのかというと、とっても難しい。さすがに周囲に迷惑をかけるほどの嘘はつかないで済んでいるけれど、黙ってごまかすくらいのことは、日々小さく積み重ねている気もする。
いやはや、なんとも。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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takeume
時には「うーーーん」と、時には「なるほどね」と拝読しております。
私はウソはつかなくなってきましたが、言わずに過ごすことも多くなりました。
言わない=ウソはついていない。でごまかす術を得とくしました。
姑息だわ(^^;)
uematsu Post author
僕も、時には「うーーーん」、時には「なるほど」と思いつつ書いております。
書きたいことを書きたかったように書く、というのは難しいですね。
精進します。
『言わない=ウソはついていない』というのは、
姑息なごまかしの術ではなく、大切な生きる術だと思います。
ほんとに。
nao
子どもの頃には嘘をついちゃいけないって思ってましたから
すごく胸痛むものがありましたが
方便というのが身について
自分では意識してないけど、息を吐くように嘘をついているのかもしれない
生き方が楽になるのは、嘘をつかなくなったからではないような
そんな後ろめたさを感じてます
uematsu Post author
naoさん
「生き方が楽になるのは、嘘をつかなくなったからではないような、そんな後ろめたさを感じています」
というフレーズは、僕にもそのまんま当てはまるものだと思います。
本当に、生きるのが苦手です。