電子書籍を巡る会話。
電子書籍が少しずつ一般的になりつつある。
存在は知っているし、自分の持っているスマートホンやタブレットで、それが読めることは知っていても、実際に電子書籍を一冊きちんと読んだことのある人は、まだ少ないかもしれない。
電子書籍を巡る会話は楽しい。それはいつも未来についての話だから。将来、電子書籍はこうなるだろう、という話であり、こんなデバイスが出てきたら嬉しいな、という話だからだ。ただ、いつも、ここでぐっと会話を引き戻すフレーズがある。
『でも、やっぱり紙の本が好き』
これのフレーズが出てくると、どっと疲れる。なにしろ、誰もが思っていることだからだ。誰だって、タブレットの金属的な肌触りよりは、慣れ親しんだ本の肌触りのほうがいいに決まっている。誰だって、読み進めていくページが減っていくあの感触がいいのに決まっている。
だってやっぱり肌触りが、だってやっぱり読みやすいし、だってやっぱり慣れているから……という理由は誰にだって分かるし、みんながそう思っている。
それでもやっぱり電子書籍なんだと思う。紙の本が急になくなるとは思わない。思わないけれど、確実に以前よりも出版社は本を出すことに慎重になっていて、つまり、売ることに対してシビアになっていて、『売れないかもしれないけれど、いい本』が世の中に出にくい状況になっている。過去に出版された実績のある本でも、一度売り切ってしまえば、重版などほとんどされない。
大手出版社のほとんどがマンガ本で生計を立てている時代に、『やっぱり紙の本が好き』という人が主に好きだと思われる、少し硬めの小説本はこれからどんどん読まれなくなり、つまりは出版される機会が減り、今以上に本を書く方も、読む方も不自由な時代がやってくるのは確実だ。
今のところ、電子出版だけが、それをクリアできる方法なのだと言ってもいいだろう。
森林伐採反対っていうなら、せめて、週刊マンガ本くらいは全部、電子化してしまえばいいのに、と本気で思う。電車に乗る前に売店で買って、電車を降りたら駅のゴミ箱に捨ててしまう。そんな週刊マンガ本のためにだって木は伐られているんだろうと思うと、友だち同士のマンガの貸し借りなど、懐かしいあの風景がなくなるのか、なんてのんきなことは言っていられない気がするのだ。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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