目の前で起こっていることを正確に描写すること。
誰だっただろうか。たぶん、女性の小説家だったと思うのだけれど、何か大きな文学賞をとった席でインタビューされ、これからどんな作品が書きたいか、と聞かれたのだと思う。すると、その人が応えたのだ。「目の前で起こっていることを正確に描写したい」と。どんな作品が書きたいか、という質問に対する答えだとすると、少し奇妙だ。なにしろ、目の前に起こったことを正確に描写しただけでは作品にはならない。けれど、その人はまっすぐにインタビュアーを見て、はっきりとした口調でそう言ったのだった。
おそらくそれは、小説を書いているときのもどかしさから発した言葉なのではないだろうか。頭の中にイメージはあるのだが、それをそのまま書くことがままならない。映画でも小説でも、おそらく何でも一緒なのだと思うのだが、自分の目の前にある風景や事件などの事柄を正確に描写することができる腕前があるのなら、きっとどんな場面だって書き上げることが出来る、という確信のようなものを持っていたからこそ、その作家はそう言ったのだろうと思う。
目の前のことを正確に描写する。それは、目の前で自分が見て感動したことを、そのまま文章にして、それを読んだ読者が、自分と同じように感動してくれればいいということだ。「感動した」ということを書くのではなく、感動する文章を書くこと。その困難さが、その作家にそう言わせたのではないかと僕は思っている。
そう考えると、例えば、いま自分の目の前で起こっていることに感動している真っ最中に、そのことを書くのはさらに困難を伴うのではないかと思う。嬉しい、悔しい、恥ずかしい、腹が立つ、というような感情の動きが激しいときに、それをそのまま描写するのは難しい。だとすると、しばらく時間をおいて、熟成しすぎず、忘れ去らない程度の、ちょうど良い期間、その感動を忘れずに放置してから書き始めるのが正しいのかもしれない。
というわけで、みなさん。いま僕が直面しているアレヤコレヤは、おそらく後、半年から一年ほどしてここに登場するのかもしれない。つまり、いま僕はとても冷静にこの文章を書いているふりをしているのだが、なかなか人知れず、ふつふつと心が揺れている、ということなのである。逆に、あと半年から一年ほどして、なんだこの書き手のあれっぷりは、という時には驚くほど冷静な状態なのかもしれない。
そんなことを思いながら、僕はいま行きつけの喫茶店で少し苦めのコーヒーを飲みながらこの文章を書いている。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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