バスで座る。そして、立つ。
もうこれは、僕たちが若い頃から言われ続けてきたことだけれど、バスで席を譲るというのが本当に難しい。以前はバスや電車では、よっぽどガラガラでないと座らなかったのだけれど、もう寄る年波には勝てず、とりあえず電車やバスに乗ったら席を探してしまう。
で、最近、実家にいることが多いのだけれど、仕事に出るときに必ずバスを利用しなければならない。このバスという乗り物がなかなか厄介である。なにしろ、自動車だから揺れる。揺れるからお年寄りはちゃんと座らないといけない。しかも、バスの乗客はお年寄り率が高い。若い奴らは自転車で最寄り駅までスイスイ行くので、必然的にバスの乗客の平気年齢はあがる。ちなみに、僕は自転車でもいいのだけれど、自転車に乗っていて雨に降られたらどうしよう、とか、小さなことに心を砕いてしまうので最初から自転車に乗らないのである。
ということで、バスに乗るのである。乗って、席が空いていたら座るのである。わしももう来年は還暦じゃ。席が空いているのに座らないなどという真似はしない。素直に座る。しかし、明らかに自分よりも年配者が乗ってきたときには席を譲る覚悟はある。覚悟はあるけれど、席を譲るのが得意というわけではない。ごく自然に立ち上がり、「さあ、どうぞ」と言える人をみると、「おお、なんと立派な御仁じゃ」とため息がでる。こちとら、立ち上がろうとするけれど「もしかしたら、席を譲られたくないような若いのを気取ってる奴だったらどうしよう」とか考えているうちに、別の人が席を譲ってしまい、その人も素直に従って、僕だけが席を譲らなかった人になってしまうことが多いのである。
でも、そんなことじゃ立派な御仁にはなれないぞ、というわけで、たまに絶妙のタイミングで立ち上がり、「さあ、どうぞ」とまるでソーシャルダンスを踊っているかのように席を指し示すことだったあるのだ。あるのだけれど、そんな時限って、相手が「いや、けっこうです」とちょっと怖い顔をしたりする。
聞くところに寄れば、55歳を越えたら、席を譲る必要などないのだ!と言う人もいる。でもなあ、自分の母親と同じような年齢の人が乗ってきたら、そんなことは言ってられないじゃないですか。ということで、僕の作戦は入口に明らかに母と同じくらいの年齢じゃないか、という人が現れた時点で席を立ってしまうのだ。そして、その人が座っても座らなくても「関係ないね」という顔をして立つのである。し、しかし、その席に高校生の兄ちゃんが座ろうとすると、椅子とりゲーム並みの速さで取り返すのである。
ああ、どうせなら早く席を譲られるようになりたいもんである。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。
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