ちりとてちん、その後。
NHKの大阪放送局が制作した朝の連続ドラマ『ちりとてちん』が大好きなのである。今までにリアルタイムで見ることができた朝の連ドラのなかでもベスト1だと思っている。SNSを始めとするコミュニティでもこのドラマの伏線やその回収について、毎日活発な感想の交換が行われていた。
しかし、その伏線回収の手法があまりにも見事だったせいだろうか。このドラマは当時の最低記録を更新してしまう。が、同時にDVDの売上は過去最高。いまだに語り継がれるドラマとなったのである。
という話はまあ本当なのだが、とりあえず横においといて、と。僕はこの『ちりとてちん』が大好きなのである。で、このドラマを見たときから、福井県の小浜には行かなければと思っていたのである。しかし、福井県小浜市は中途半端な場所にあるのだ。北海道に遊びに行くなら、「よし、今度の長期休暇に行ってみよう」と思い切ったかもしれない。逆に隣の町なら「よし、今から行くか!」と車で走り出していたかもしれない。でも、当時、東京に住んでいた僕からは、やっぱり小浜は中途半端な場所にあった。西に向けて新幹線に乗ったら、そのまま大阪に行ってしまう。それになんと言っても、行ってみたい場所は恐竜博物館くらいで、あとは焼きサバ定食が食べたいなあ、くらいのものだったのだ。
だから、僕は『ちりとてちん』のロケ地に行こう行こうと思いながら、結局、実際に行くまでに20年近くの年月を費やしてしまったのである。そして、実際に小浜の地を巡りながら、もっと早く来れば良かったと悔やむことになるのだ。
小浜のリアス式海岸はきれいだった。これは想像通り。江戸時代の古い町並みを残す三丁町あたりも、想像通りの綺麗さで美味しいものも食べられた。しかし、いちばん行きたかった小浜の商店街のさかな屋食堂がないのである。いや、さかな屋食堂のモデルになったお店はまだあったのだが、商店街は数年前に道路の拡張工事のためになくなっていた。これはショックだった。さかな屋食堂は少し離れた場所に移転していたが、想像とは違っていた。
そして、なによりも驚いたのは、鯖が捕れなくなっていたことだ。鯖街道で売り出し、鯖街道ミュージアムもあるのに、鯖街道を走るウルトラマラソンもあるのに、鯖が捕れないのである。地球温暖化のせいなのか、乱獲のせいなのかはわからない。けれど、小浜で供されている鯖はほとんどがノルウェー産だったのである。
ドラマは僕の心の中に今も生きているが、「見たい」「行きたい」「会いたい」と思った時には、迷わず動くべきなのだ。いまさらながら、せめて数年前に動いていれば、ドラマの主人公があるいた商店街を歩くことができたのに。
さて、とりあえずは小浜のホテルでもらったレトルトのサバカレーを食べつつ、もう一度『ちりとてちん』のDVDを見るとしよう。ああ、そこには焼き鯖を焼いている商店街も写っているし、もう亡くなってしまった渡瀬恒彦も、米倉斉加年も、江波杏子も写っている。そうか、最初から今回の小浜への小旅行は無い物ねだりを確かめるような旅だったんだなあ。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。