17歳の思う子ども時代/『HARU』Hana Hope
老舗の音楽録音スタジオである『音響ハウス』のドキュメンタリー映画を見た。その中で、作品そのものの主題歌を制作するというパートがあった。大貫妙子が歌唱指導し、元気だった頃の高橋幸宏らが演奏する真ん中に、なんとも頼りなさげな表情を浮かべた少女が立っている。メインボーカルを担当したHana Hope(ハナ・ホープ)だ。とてもいい曲だった。『Melody-Go-Round』と題された曲は弾むようなリズムと儚げで軽やかなボーカルが印象的で、聞く者が鼓舞されながら、同時に応援したくなるような曲だった。
どう見ても十代にしか見えないこの少女はいったい誰なんだろう。ネットで調べると2006年生まれの歌手でYMOのトリビュートコンサートでデビューした人らしい。2006年生まれということは、現在17歳だろうか。そして、映画が公開されたのが2020年のはずなので、映画に写っているHana Hopeはまだ14、5歳。それから、興味をもってHana Hopeの楽曲を聴くようになった。
彼女のオリジナルアルバムはまだ1枚しか出ていないのだが、そのファーストアルバムの1曲目に『HARU』という曲がある。冒頭に女の子とお母さんらしき女性との会話が収録されている。
女の子の声「あなたはクマです!月曜日におふとんをします!土曜日は公園で遊びます!日曜日はタオルを干します!」お母さんらしき声「月曜日は?」女の子「月曜日は、えっと」という他愛のない元気のいい会話があり、そこからふいに歌が始まる。FM局のサイトにこの声は3歳の頃のHana Hopeの声だと言う。
自分の3歳の頃の声を収録したのは、それが自分自身の子ども時代を象徴するものだからだろう。僕から見れば、17歳だって子どもだと思うのだが、でも、よくよく考えてみれば、17歳の頃の僕は自分のことを充分に大人だと思っていた。そして、17歳の彼女は3歳の自分をいまの自分とは違う存在だと認識しているのだなあと思うと、なんだか自分が驚くほど歳を重ねてしまったのだという気がしてしてしまう。
そんなことを考えていると、知らない間に僕は泣いていた。もう、涙もろくて困る。僕に映画を教えてくれた恩師は、「歳をとって涙もろくなるのは共感力が豊かになるからとか言うけど、嘘だね。これは感情がコントロールできなくなる感情失禁や」と言っていたが、割と当たっている気がする。泣きたいのだと思う。そして、いつもそのきっかけを探しているのかもしれない。そして、今日は過ぎてしまった自分の子ども時代や思春期を俯瞰させてくれるアーティストと歌の存在がそのきっかけになったのだと思う。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。
ぱろる
hanaさんの歌、聴きました。
うわ、ノスタルジー直撃しますね
声を活かす演奏やテンポ感
みんなよってたかってわかってやってる
まずい!
岩井さんが好きそうだな、と思ったら
「キリエのうた」のサントラに入ってる!
大人、めざとくてこわい…
みんな感情失禁したいのだと思いました。
「音響ハウス」
音楽を熱く語り演奏する教授と幸宏さんが記録されてる、それだけで今となっては尊い…
(エピソードブツ切りに感じられるのは仕方ないのかな…と、映像のプロの植松さんに問うてみる)
uematsu Post author
ぱろるさん
ほんと、大人って怖いですね。
そんな大人に掬い上げられる才能もあるし、潰されてしまう才能もある。それも含めて、才能なんでしょうけど。
この映画、もともと新卒採用向けにリクルートビデオを作ろうとしていたら、結果、1本のドキュメンタリーができあがっちゃったらしいです。なので、創業者を軸にしてとか、ここで生まれた音楽を追いかけて、という道筋がないかんじがしますね。企画不在な感じ。
ぱろるさんのいうブツ切れ感はよくわかります。僕もドキュメンタリーとしては、割と退屈にかんじました。出てくる人たちの才能を目の当たりにできるという部分は面白かったです。
HANAちゃんが大貫妙子の指導を受けて、まるで植物が大地から水を吸い上げるように歌い方が変わっていくところが一番おもしろかったです。