AIでもいいけれど。
AIで音声処理をした結果、ビートルズの新曲が54年ぶりに発売された。デモテープの音声処理がいままでの技術では出来なかったらしい。AIが進化してくれたおかげだ。良かった良かった。もちろん、この新曲が発売されなかったとしても、ビートルズの評価にはなんの影響もないし、発売されたからと言って、一時、音楽レーベルが儲かっておしまいだ。だから、こういうニュースを聞くと「AIってすごいね」とは思うけれど「AIがあって良かった!」とは別に思わない。
じゃあ、僕たちが「AIがあって良かった」「AIの恩恵を受けている!」と思うのはどういう場面なんだろう。大学生が論文を書くのにAIを活用して、より優れた論文をより効率よく書くことも出来るらしい。でも、論文の完成度が上がったところで何かが変わるわけでもないような気がする。あ、でも、天才がいて、その天才が次々と画期的な理論を打ち立てるとき、本来なら一生に20本の論文しか書けなかったのに、その天才がAIをフル活用して僕らの生活を格段に便利にしてくれるというのはいいかもしれない。
でもなあ、そんなに便利になってなにかいいことがあるのか、という気もするしなあ。あ、そうか。AIで国会の裏金作りを監視して、政治家の不正をなんとかするというのはどうだろう。いや、そうなると逆にAIを駆使して不正が分からないようにするという手に出るかもしれないしなあ。
ということは、AIでAIに何をやらせるかを考えさせるというのがいちばん手っ取り早いのか? もうすでにAIを使わないという選択肢はないというところまで来ているんだろうなあ。そうなると、少し前までのSF小説なんかにあったように、AIがAIを守るために人をだますというのは現実味を帯びてくるような気もするしなあ。
と、そんなことをぼんやり考えながら、AIがあって始めて実現したというビートルズの新曲『Now and Then』を聞いていると、ジョンの歌声がなんだか哀しげに響いてきて「どっちに行っていいかわかんないよ」と言っているようだ。ところで『Now and Then』ってどんな意味だったっけ。とスマホの翻訳機能にかけ見ると「今でも時折」と出てきた。なるほど、歌詞は「うまくいったのは、全部お前のおかげ。だけど、時々は初心に戻るべきなんだよ」みたいなことらしい。うん、なるほど。AIに作らせた曲だと思うと、AIが思慮深く思えてきた。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。