映像ロマンの旗手たち
藤本義一先生が1976年、43歳の時に上梓した『映像ロマンの旗手たち』という本がある。たぶん、ある。これを読んだのは中学生のときで、それも図書館で借りて読んだ。土曜日の午後に借りて、「晩ご飯やで、はよ食べや」と呼ばれるまで電気も付けずに薄暗い部屋で読み続けて、晩ご飯のあとには読み終わったので、僕はまる一日しか、この本を手にしていなかった。だから、表紙も覚えてないし、読み終わってから一度も手にしていないし、一度も読み返したことはない。今回、ふいにこの本のことを思い出し、ネット検索してた結果、確かに存在していたと安堵したくらいだ。
『映像ロマンの旗手たち』は1冊のなかに数名の映画監督の人となりを紹介するような短編が収められている短編集である。確か、ゴダールやフェリーニなどが取りあげられていたと思う。ヌーベル・ヴァーグの騎手と言われた天才監督の人なつっこい女ったらしなエピソードや、まるで会社勤めのサラリーマンのように傑作映画を撮る監督のエピソードなどがランダムに収められていたという印象がある。
僕はその頃、映画には興味を持ち始めていたが、それほど映画監督そのものに関心は持っていなかった。それなのに、藤本義一先生が描く(なぜか藤本義一は藤本義一先生と呼んでしまうのは、やはり11PMを熱心に見ていた世代だからか)映画監督たちが本当に魅力的だった。女に翻弄され、役者に振り回され、名声に囚われてしまう。そんな人間味溢れる映画監督たちを、もともと映画の脚本などから文筆の世界に入った藤本義一が愛情たっぷりに描くのである。
いま読むと、それほどでもない予感はするのだが、僕の中では中学生のあの土曜日に、なぜか公立の図書館であの一冊を選び出し、日が暮れるのもかまわずに読み耽った感覚だけが色濃く残っていて、いまだに寝っ転がりながら読んでいた部屋の天井の木目の模様まで思い出すことができる。
ネット検索した時に、古本で何冊か上がってきたので、一冊買ってみることにした。さて、あのとき、僕が読み耽った『映像ロマンの旗手たち』がいま読んでも面白いかどうか。と言うことについては、次回。乞うご期待。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。