バスでお年寄りに席を譲る外国人
7月の上旬に京都へ行った。その日の京都はまさに灼熱と言ってもいいくらいに暑く、というか漢字も「熱く」と書きたいくらいで、行き交う人たちは息をするのも苦しそうだった。
平日だったけれど、外国人観光客が山ほどいて、歩道を歩いていて前後の人を見ると、8割方が外国人という印象だった。そんな中、僕はバスに乗ったのである。昨今の京都のバスは外国人観光客が荷物をいっぱい持って乗ってくるので、なかなか窮屈である。それにだいたいの場合、座れない。ここしばらく京都のバスで座れたためしがない。
ああ、今日も座れないんだろうなあ、と思っていると、運良く空いているバスがやってきて、スムーズに座ることができた。有名な観光地が路線の間にいくつかある系統だったので、その後、人がいっぱい乗ってきて、いっぱい降りて、またそこそこ乗ってきた。ちょうど、座席がいっぱいになったところに、いかにも京都の人だなあ、というお婆さんが乗ってきた。買い物カゴを下げてネギなんかがはみ出ているので、地元の人だろうと思って見ていた。
僕からの見た目では最初から座るつもりがない感じだったので、たぶん二つ三つ目くらいのバス停で降りるのだろうと予測。席を探している素振りをしたら席を譲ろうと思っていた。いや、ほんと。思っていたんですよ。ほんとに。
そうすると、僕の斜め前、ちょうどそのお婆さんの近くの席に座っていた白人の若い男性が立ち上がり、たどたどしい日本語で、「どーぞ、どーぞ」と声をかけた。大きなスーツケースを持っていたので、観光客なのかもしれない。白人男性は勇気を出して立ち上がったのだろう。頬が真っ赤に染まっている。近ごろ、日本を訪れる外国人のマナーの悪さが声高に言われるなかで、なんといい人だろう。日本人だって、なかなか席を譲らないのに。いや、僕は様子を見てたんですよ、ほんとに。
「よくぞ言った!外国人青年!」と心で叫び、「よかったね、せっかくだから座りなよ」と心でお婆さんに呼びかけた時だった。お婆さんが言ったのである。「けっこうです」と。きっぱり。あまりにきっぱり言ったものだから、言葉が通じているかどうかはわからないが、なんとなく余計なことをした雰囲気になってしまい、外国人男性、えっと毎回こう書くのも邪魔くさいので、ボブにしよう。ボブも一瞬、えっと言う顔になる。しばらく車内がシーンとして、ボブはまた自分の席に座り直したのである。
たぶん、お婆さんも背の高いボブに席を譲られて驚いたのだろう。なんだか、ビクッとしてたもん。まあ、こういう光景は日本人同士でもよく見る光景ではある。譲られたら、素直に「ありがとう」でいいんだけど、なんとなく「大丈夫です」と言ってしまって、相手が再度勧めてくれても「いえいえ、本当に大丈夫です」と頑なになってしまう。まあ、「うるせえ、席を譲られるほどの年寄りじゃねえぞ」という気持ちもあるのかもしれないけど。
でも、ボブのえらいところは、次のバス停で別のお年寄りが乗ってきたときに、もう一度立ち上がって「どーぞ、どーぞ」とやったこと。言われた相手も、「ありがとう」と言って座ってくれた。僕は心の中で、「よかったなあ、ボブ」と拍手をしたのである。そして、もちろん、次に、自分よりもお年寄りが乗ってきたときにはボブのように、恥ずかしくてもめげずに席を譲ろうと決意したのである。まあ、もともと席を譲る気持ちはちゃんと持っていたのだけれども。いや、本当だって…。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。
らーら
はじめまして。
私も、譲るタイミングを逸する事が有ります。
チェコ在住の日本人ユーチューバーが「チェコに来たら必ず譲って下さい。寝たフリは論外。譲られた人も必ず座ります」と、発言していました。
ボブはチェコ人だったのでしょうか?
ヨーロッパは、だいたい譲るのですかね?
私は譲られたら、有り難く座りたいですね、って何年後でしょう?(笑)
uematsu Post author
らーらさん、はじめまして。
海外は譲るし、譲られるし、という感覚がありますね。
日本人は照れちゃうのか、コミュニケーションが下手なのか、なんかちょっとギクシャクしちゃいますね。
ちなみに僕は自分より年上だなあ、と思ったらしばらくそっちを見て、目があったら、「座りますか?」みたいな顔をします(笑)。
座りたい人には、これが意外に通じるんですよね(笑)
らーら
「座りますか?」みたいな顔ですか!
いいですね〜。
uematsu Post author
顔が通じない時もありますけどね(笑)