遠近両用メガネから近々両用メガネ。
初めて遠近両用メガネをかけたのは、40代の初め頃だった。近眼なのに老眼が始まると、近くを見るときにメガネを外さないといけない。だから、遠近両用メガネをかけたときには感動した。「メガネかけたままでいいじゃん」と、遠近両用メガネを考えた人に感謝した。
あれから約20年。ついに、僕の老眼は遠近両用メガネじゃ対応できなくなった。もうね、書き仕事がほぼほぼパソコン画面を見る仕事になっちゃったもんだから、目が疲れる疲れる。昔は、ワープロで文字を打ち込む以外は、FAXで届いた紙の資料を読んでいたり、自分で書いた取材のメモを見ていたので、ちょっとは目が休まる時間があったような気がする。
でも、いまはもう資料もデータで届くし、自分の取材メモもパソコンで直接だったりするし、なんなら、取材の音声データをAIで打ち起こしたデータなんて、文字が詰まりまくって読みづらい読みづらい。こんなのを小さなノートパソコンの画面半分に表示させて、残り半分にワープロソフトを立ち上げて、ちまちま打ち込んでいる。目が疲れて、チカチカして、午前中集中して仕事をすると、午後からはもうずっとピンボケ状態になってしまう。
ハズキルーペも試してみた。確かに、ものを大きく見るにはいいのだけれど、いったん疲れ出すと、もうショボショボが止まらない。
もう、わしゃ書き仕事も引退かと思い始めたときに、ネットで「お手元メガネを作るべし」と書いてあるのを見かけた。知ってるよ。もう作ったよ、お手元メガネ、と思ったのだが、よくよく読んでみると、単なるお手元用じゃだめなんだと書いてある。単なるお手元用のメガネは、パソコン画面や本を読む距離に合わせて作る。でも、そうすると、そこから少し外れるとピントがボケるので、人によってはめまいがしたり、疲れたりするらしい。確かに、僕も一度作ったお手元用メガネはすぐに使わなくなってしまった。
それじゃあ、どうすればいいのか。近々両用メガネである。近々がいいのである。パソコン画面まで約40センチに焦点を合わせ、メガネの上のほうに、もう少し向こうまで見えるようにする。こうすると、机の上やテーブルの向こう側に座っている人くらいまではピントが合う。たったそれだけで、本当に快適になるんだろうか。ちょっと懐疑的な気持ちで、近所のメガネ屋さんに行く。すると、ちょっとコミュ障気味で、決して目を合わせないけれど、とても親切なメガネ屋さんの店主が言うのである。「そうなんです!近々両用メガネは、デスクワークメガネとして最強なんです」と。
こうして、出来上がった近近両用メガネは、ひとまず僕のコピーライター人生を長らえさせた。いつ、次の危機が来るのかは知らないけれど、それまでは、長らえたコピーライター人生に感謝して生きていこうと、謙虚に思う今日この頃なのである。
いやあ、ほんとに単純な思考回路である。思考も近場のことしか見えていないようである。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。